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狂犬の爪痕  作者: 黒龍
4/6

進出

日が昇る頃に目が覚める、俺の特技のようなものだ。

度重なる任務で体が慣れてしまったという方が正しいかもしれない。

体を伸ばして、あたりの様子を見る。

まだローアは起きていないようだ。

ローアを起こさないよう、音をできるだけ立てずに静かに装備を身に着ける。

すべて装備した後、忘れ物がないことを確認した俺は裏口からこっそりと家を出た。


「なんとか起こさないように出れたか。」


早朝のため、当然起きている人は誰もいなかった。

まだ人っ子一人いない村は静かに朝日に照らされていた。

しかし、さっきから何かに見られている気配を感じるな。

気にかけながらもできる限り急いで門のところまで歩いて行く。

静かに門から出ると、まだ日も射していない薄暗い街道がずっと続いていた。

この道を真っすぐ行けば何処かの街に繋がるのだろう。

大きく深呼吸して歩き出そうとした時、再び気配を感じてナイフを構える。


「誰だ、さっきからついて来ているのは分かっているぞ。」


声を出してみたが出てくる様子がない。

あの木の陰にいるな、少し脅かしてみるか。

そう思った俺は、気配を感じた木にナイフを投げつける。


「うひゃあ!?」


ナイフが刺さると同時に、木の陰から驚いてローアが飛び出してくる。

家を出た時から変な気配を感じていたが、やはりついてきていたのか。


「やっぱりローアか。」


「バレてた?」


「家を出たあたりから気配がしたからな。それで、なんでついて来るんだ?」


「ついて行ったらダメなの?」


「ダメだ。」


「いいじゃん別にー。」


「危機管理ができない奴はウロウロするもんじゃない。」


「大丈夫、こう見えてもしっかりしてるから。」


「そもそもなんでついて来るんだ?」


「楽しそうだから。」


なんと単純な理由なんだろうか・・・

そんなだから危機管理ができていないんだが、本人は気付いてないみたいだな。


「あのな、わざわざ危なくなるかもしれない旅に女性を連れていくほど俺は馬鹿じゃない。」


「自分の身は自分で守れるよ!」


「賊に絡まれて手も足も出なかった奴が言えた事ではないな。」


「うぐぐ。」


「わかったならさっさと村に・・・」


「ツィールだって昔話をしてくれる約束したじゃん。」


ここであの約束が足を引っ張るか。

これは完全に想定外だったぞ・・・


「ああ、うん、まあ、あれだ、確かに約束はしたが・・・」


「だよね!だから私もついて行く!」


「ダメだ、危険なことに巻き込ませるわけにはいかない。話ならまた会ったときにしてやるから。」


「それっていつなの?」


参ったな、どうすればいいんだ。

ここで言い合いをしている時間も惜しいが、かといって連れて行くなんてできない。

なんとか切り抜ける方法はないだろうか。

・・・いや、1つだけあった。

俺はポケットから昨日の薬草を取り出し、バレないように手を体の後ろに回して揉む。


「・・・わかった、出発する前にこれを渡しておく。」


「え、なになに?」


息を止めながら、揉んだ薬草をローアの顔の前に出す。

すると、すぐにローアは眠たそうな顔をして眠りについた。


「悪いな、流石に女性を連れ回せるほど俺はいい奴ではないんでな。」


しかしこの薬草は強力だな、汁の匂いだけで眠らせるとは・・・

少なくとも俺の知る睡眠薬より遥かに強力だ。

水筒に入れておいた川の水で手を洗い流してから、ローアを担いで再び村の中に入る。

長老の家のドアをノックし、長老を起こして事情を説明する。

少し驚いていたが、すぐに理解してくれたのか快諾してくれた為、ローアを渡して再び村の外へ向かった。

門までついて来てくれた長老が一言だけ俺に言った。


「もし、ローアを抑えられなかったら申し訳ありません。ですが、その時は連れて行ってやってください。ローアにも何か思うところがあるのでしょうから。」


「・・・ああ、わかった。いろいろと世話になったな。」


「いえいえ、とんでもない。旅のご無事をお祈りしておりますぞ。」


「ありがとう。」


軽く返事だけして、俺は何処かに繋がるであろう道を歩き始めた。

少し時間を食ってしまったが、日が沈むまでには街に着くだろう。

長老の話ではこの村から、そこまで離れていないらしい。

迷わなければの話だが、まあ迷いはしないだろう。



歩き続けて数時間、太陽も真上に昇り俺を照り付けてくる。

視線の先にはまだ建物すら見えないが、苦行ではなかった。

少なくとも、砂漠や荒地での戦闘の時よりは幾分もマシだ。

しかし、自然を目にしながら歩けるとは夢にも思わなかった。

青々と茂る木々、地面から生えている草花。

大自然とはこういう状態のことを言うのだな。

こんなにも素晴らしいものを見られたのだから、この世界に飛ばされたことは良かったのかもしれない。

風景を楽しみながら歩いていたが、流石にそろそろ腹が減ってきた。

何か食べ物を探さなくては。


「異世界だから生態系とか植物が同じとは限らないな・・・」


見たことがある物だからと言って迂闊に手を出せば毒だったということも十分あり得る。

植物系には手を出さないのが無難かもしれない。

だからと言って動物がすぐに見つかるとも限らないし、そいつ自体も毒かもしれない。

解毒薬もない今の状態では、毒にかかってしまえば終わりだろう。

死ぬのかどうかは知らないが、二度死ぬというのは御免だ。

仕方がない、携帯食料で我慢するか・・・

ポーチから缶詰を取り出して開けると、相変わらず色々な物がグチャグチャになって詰め込まれている。

腐りはしてないが、腐ったように気持ち悪い臭いがする。

味のほうは悪くはないのだが、どうもこの臭いには慣れない。

そう思いながら息を止めて一気に流し込む。

独特の風味と口から臭う臭気は。もはや壊滅的としか言い表せない。


「はぁ・・・食事とは大切なものだな・・・」


動植物について知ればもうこの缶詰を食わなくても済むんだがな。

なんにせよ、早く次の町に着かなければまたこれを食べる羽目になるのかもしれない。

できればそれだけは避けたいと自分に活を入れて歩き出す。



しばらく歩くと、人工物が少しずつ増えてきた。

遠くの方に街が見えるが、もう少し距離がありそうだ。

それでも一本道だったお陰で何とか昼間のうちに到着したな。


「そういえば、俺って金持っていたか?」


ふと思ったが、重要なことではないか。

今更かもしれないが、この世界の金ってどうなっているのだ?

流石に物々交換とかではないだろうが、現状だとそっちの方が助かるかもしれない。

何があってもいいように街に入る前に所持品を再確認しておくか。

武器は背中にある狙撃銃と突撃銃、腰に挿してある拳銃、弾の入った弾倉がそれぞれ6つずつ。

銃以外は手榴弾と焼夷手榴弾、閃光発音筒がそれぞれ2個ずつ、そして胸のポケットに挿してあるナイフが一本。

こいつらは流石に売れないな、たぶんこの世界では価値もないだろうし、売ってしまったら丸腰になってしまう。

背嚢の中には、長めのロープ、ワイヤー、オイルライター、ライト、缶詰2つ、救急キット。

本当に必要最低限というか、最低限より少ない気がする。こんな状態で戦場に放り出されたら間違いなく生き残れないだろう。

所持品はこれだけだな、本当に売れそうなものは一切ない。期待はしてなかったが、やはり小銭もなかった。

さて困った。金がないなら稼ぐしかないが、俺にできそうな仕事が果たしてあるだろうか?

護衛か、用心棒か、そんなところだな。戦闘以外は何もできそうにない。

なんとかして街に行って情報を集めなくてはいけないな。



さて門のところまで来たのだが、両脇に門番らしき人がいるな。

ちょうどいい、情報が集まりそうな場所を聞くとするか。


「すまない、少し聞いていいか。」


「どうした?」


「この街で、情報が集まる場所はないか?何分、田舎の方から来たからわからなくてな。」


「それだったら酒場にでも行くといい。これがこの街の地図だ。」


「地図までくれるのか、悪いな。」


「いや、困っている人を放っておけないさ。」


「ありがとう。」


優しい奴でよかったな、まさか地図までくれるとは。

しかし、地図に目を通してみるとなかなかに大きい街ではないか。

絵がそれの場所を示しているのだろうが、わかりやすいようなそうでないような。

たぶんこのジョッキのマークが酒場だろう、そしてこの食料マークが・・・なんだ?

このデカい闘技場みたいなやつは・・・なんかの輪っかだな。

うむ、全くわからない。だが酒場に行けば全部聞けるだろう。

地図を見ながら移動していると、酒場らしき看板が見えてきた。

店の中に入ると食べ物や酒の匂いと熱気に満ち溢れており、なんとも明るい場所だ。

さて、こういう酒場では大体店主が様々な情報を持っているものだ。

カウンターの所にいる初老の男が店主だろう。


「水を一杯くれ。」


俺は目の前に座りながら水を注文する。

たぶん水なら金がかからないだろう。


「かしこまりました。」


そういうと、店主はグラス一杯の水を差しだした。

その水を一気に飲み干して、一息吐く。そして、本題の情報収集を始めた。


「なあ、このあたりで護衛か何かの仕事はないか?」


「護衛、ですか?」


「ああ、実はあまり金がなくてな。仕事を探して街まで来てみたのはいいものの、わからなくてな。」


「ふーむ、奴隷市場に行けばそれなりに護衛を欲している人もいるでしょう。」


「奴隷市場?この闘技場みたいなやつか。」


「そうです。」


この世界は奴隷の売買なんてものもあるのか・・・

そもそも奴隷って売買するものなのか?植民地の奴らは別に売買はしてなかったが・・・

まあこれも異世界の特徴なのだろう。

しかしさっきから後ろの方がなにか騒がしいな。


「店主、後ろのあれはなんだ?」


「単なる腕相撲ですよ。この店の常連が賭け事をしているだけです。」


「賭け事で腕相撲か、どこの世界も変わらんのだな。」


「世界?」


「いや、気にしないでくれ。」


「はぁ・・・」


しかし、勝てば何かあるかもしれんな。

一応話だけでも聞いてみるか。

集まっている集団を掻き分けて中心に行く。

どうやら席に座っているゴツイ奴がやっているみたいだな。


「おい、勝てばなにかあるのか?」


「なんだぁ?」


騒めきがぴたりと止まる。

周りから見れば変な恰好をしている奴が話しかけてきているのだ。

変な目で見られるのにも少し慣れてきた気がする。

そんなことを思いながら、もう一度問いかける。


「勝てば何かあるのかと聞いている。」


「勝ったら賞金、今日俺が集めた全額だ。ただし、負ければお前の全額を没収だ。」


「文無しだが挑戦してもよいか?」


「そうだな・・・それじゃあアンタの身包みでどうだ?見たこともねえ服だし、高く売れるかもしれんからなぁ。」


身包みか、まあ文無しだから当然なのだが。

こういう場合は大抵、体の一部や命だと思っていたがそうでもないらしい。


「そうか、なら勝負しよう。」


「ほぅ、えらく自身があるみたいだな。言っておくが俺は今まで負け知らずだぜ?」


「時間が惜しい、さっさと始めるぞ。」


「まあまあ、そう急かすなって。」


席に座りゴツイ男の手を掴む。

見た感じ力は相当あるみたいだが俺だって腐っても軍人だ、そこら辺の奴よりは鍛えている。


「よーい・・・スタート!」


その声と同時に一気に腕に力を籠める。

かなり倒したがまだ机に着いていない、もう一踏ん張りの所で相手は抵抗している。

ちらっと相手の様子を窺うと必死になっていることが顔からわかった。

力を緩めないように少し息を吸って、一気に相手の腕を机に押し付けた。

その瞬間、周囲から歓声が沸き上がった。


「ふぅ、こんなもんか。」


「ち、ちくしょう・・・俺が・・・負けるとは・・・」


「さて、約束の賞金を貰おうか。」


「・・・ほら、持って行きな。」


男から皮の袋が渡される。

中を見てみると、金貨と銀貨が大量に入っていた。

それを確認してから、俺は何も言わずにその店を後にした。


「さて、これで食料と宿は確保できるな。あとは・・・仕事か。」


確か奴隷市場がどうこう言っていたな。

ここからでも見えるあの建物らしいが、かなりデカいようだ。

そろそろ日が暮れそうだ、もう半分近く壁に隠れてしまっている。

ああ、腹が減った。一日中歩き回っている上に、今日の食べたのは昼の缶詰だけだった。

さっさと仕事でも見つけて、食事を取りたいものだ。

この街の道は酷く入り組んでいる。地図がなければ確実に迷うな。

さて、その地図を見ながら歩いているのだが困ったことになった。

ここはさっき通った場所ではないだろうか・・・


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