表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狂犬の爪痕  作者: 黒龍
3/6

夜話

先に外に出ていたローアにこっちだと案内されて一軒の家に着いた。

中に入ってみると、特に変わったところがない普通の家だった。

まあ、俺にとっては普通の家でも珍しいのだが。


「そんなに珍しいものでもあった?」


「考えてることがわかったのか?」


「だって思いっきり顔に出てたもん。」


「そうか・・・木組みの家をしっかりと見たことが無くてな。」


「そういう家がなかったの?」


「少なくとも俺のいた所ではな。」


あったが俺らが燃やしたなんて言えない。

少なくとも子供に言っていいようなことではない。


「それじゃあご飯にするけど・・・ツィールって料理できる?」


「できない。というか、したことがない。」


「え?食事とかどうしていたの?」


「支給品か、野生動物を狩っていた。」


「えぇー・・・ちゃんと食べなきゃだめだよ?」


「贅沢を言ってられない時代だったもんでな。」


「そうなんだ、じゃあ私がおいしいもの作ってあげる!」


「それは楽しみだ。期待している。」


「まっかせなさーい!あと家の裏に川があるから、待っている間に水浴びでもして来たら?」


「そうだな・・・そうさせてもらう。」


泊めさせてもらうのだ、流石に汗をかいたままと言うわけにはいかない。。

荷物を適当に床に置いた後、家の裏手に出る。

銃すら持っていない丸腰の状態だが、さっきの話からしてこの世界では問題ないだろう。

完全に独断だが、いつどこから砲弾が飛んでくるかわからない世界ではないことは確かである。

迷彩服を脱いで水の中に浸かると冷たさで体が一気に冷える感じがした。

気持ちがいいくらいの水温だったため、思わず溜息が出る。

水の中に浸かって何も考えずに、ただぼーっとしながら空を見上げていた。

澄み渡った空には、大きな満月が煌々と輝いている。

もう少しこの静寂の中に浸かっていたいと思ったが、突然その静寂を破る銃声が聞こえた。

反射的に水面に身を沈めて、様子を窺う。

もう銃声が聞こえないことを確認した俺は、急いで服を着て家に飛び込んだ。

いつでも近接戦闘ができるように構えるが、家の中にはローア以外だれもいなかった。


「どうしたんだ!?」


「ご、ごめんなさい・・・ツィールの真似をしていたらいきなり何かが起きて・・・」


ローアの足元には拳銃が転がっており、その横には穴が開いている。

どうやら興味本位で触っていたら撃ってしまったみたいだ。


「はぁ・・・ビックリしたじゃないか。地面に撃っていたから良かったものの・・・さっきの弾が何処かに飛んでいってみろ、誰かが当たって死んでいたかもしれないぞ。」


「う、うん・・・」


「これは簡単に生き物を殺せる道具なんだ。興味本位で触っていいものではない。」


「うん・・・」


「今後、俺の武器を触るのは禁止だ。わかったな。」


「はい・・・」


「全く・・・」


拳銃の弾倉を抜いて他の装備と一緒に置いておく。

ひとまずは、これで安心できる。

ローアは怒られたからか、さっきの場所で落ち込んでた。


「まあ、なんだ。ちゃんと言っておかなかった俺にも非があった。だからそんなに落ち込むな。」


「もう怒ってない?」


「ああ、怒ってない。」


「よかった・・・」


なるほど、長老が言っていた迷惑をかけるとはこういったことだったのか・・・

まあ、本人は反省しているみたいだからよしとしよう。

できれば二度と起こさないでほしいことだが・・・


「あ、ご飯できたよ。」


「いい匂いがすると思ったらそうだったのか。」


机に目を向けると、既に食事の準備ができていた。

なんという料理かはわからないが、おいしそうだ。

さっそく椅子に座って食べようとすると、ローアに止められた。


「食べる前にはね、手を合わせてちゃんと食べ物に感謝しないとだめなんだよ?」


「そうなのか?」


「知らなかったんだ。こう手を合わせていただきますって言うんだよ。」


「この世界ではそんなことをするんだな。」


「食べ物や神様に感謝しないとね。」


「なるほど・・・いただきます・・・でいいのか?」


「そうそう。」


とりあえず目の前にあるものから食べ始める。

その味はとてもおいしいと、そして懐かしいと思える物だった。


「あれ?泣いてるの?」


「いや、泣いてない。」


「嘘だー、今完全に涙が出ていたよ?」


「気のせいだ。」


薄っすらと出てきていた涙を袖で拭い、ムキになって否定しながら料理を食べる。

それをニヤニヤしながらローアが見てくる。


「おいしい?」


「あ、ああ。おいしいぞ。」


「よかったー。私の料理、誰かに食べてもらうの初めてなんだよね。」


「そうなのか?こんなにおいしいものが作れるなら家族とか誰かに食べて貰ったりしなかったのか?」


「・・・私の親や兄妹はね、みんな殺されちゃったの。国の戦争に巻き込まれて・・・」


「・・・すまない、悪いことを聞いてしまった。」


「ううん、いいの・・・」


気まずい雰囲気になってしまった。

しかし、どこの世界にも戦争はあるのだな。

戦争なんて無さそうな世界だが、そうでもないらしい。

銃がない世界の戦争というのには興味を惹かれるところがある。

魔法があるあたり、魔法で戦争をやっているのだろう。

特殊な人間以外は武器を持って戦うしかないのかもしれないが。

そんな事を考えながら食事を進め、数分程度で完食した。


「あ、そうそう。食べ終わったらね、もう一度手を合わせてごちそうさまでしたって言うの。」


「ごちそうさまでした・・・こうか?」


「そうだよ。大切なことだからちゃんと覚えておいてね?」


「善処する。」


ローアが片付けをしている間、長老からもらった銃の確認をする。

どこかに錆などがあると危ないため、分解して内部を見る。

内部は新品と同じくらい綺麗な状態だった。

組み立てなおして空撃ちしてみると、問題なく動いた。

よかったという安心感と同時に、これほど綺麗なものが何故という疑問が浮かんだ。


「あ、それ私が拾ったやつでしょ?」


「そうだ、思ったより綺麗でな。掃除の必要がなかった。」


「へぇ、よかったね。」


「・・・なあ、これいつ拾ったんだ?」


「うん?えーっと、3年ほど前?」


明らかにおかしい、3年も飾ってあっただけなのに、いつでも使えるように整備されている。

油なども挿されていて、動きがとても滑らかである。

3年も置いておけば普通は動かせないくらいになっていてもおかしくない。

あの長老が分解できるのだろうか?いや、なにかも知らない物を分解して組み立てるなんてできる筈がない。


「異常なほど整備されているが、誰がやっているんだ?」


「うーんとね、本当にたまーに村に来る武器の行商人。」


銃を扱える人がいるのか、それではこの世界に銃は存在するのか?

存在するなら、名前や用途ぐらい知ってそうなものだが・・・


「そいつが分解して、掃除していたのか?」


「うん、それをバラバラにして、何かをしたら凄くピカピカになってるの。そしてそれを全く同じ形に直してるの。」


「なるほど。で、その行商人はいつ来るのだ?」


「わかんない、あの人結構気まぐれだから。つい3日ほど前に来たばっかりだし当分は来ないんじゃない?」


いろいろ聞きたいことがあるが、いつ現れるのか分からないなら仕方がない。

できればその行商人に出会いたいものだが、たまに来るのではなかなか会えない可能性も高い。

それに何時までもこの村に世話になる訳にはいかない。

行商人だからおそらく何処かを旅している筈だ。こちらも旅をすればいずれ会えるだろう。

どうであれ、気長に待てばいいか。

今の俺は任務を任されている訳でもないし、戦争中でもないのだから。


「それよりツィールってさ、今までどんなことしてきたの?」


「突然どうしたんだ?」


「危ない物を持ってたり、刃物を持ち歩いてたりしてるから何かと戦ってきたのかなーっと思ってね。」


「そんな大した事はしてないさ。」


「と言うことは、大した事じゃない事はしてきたんだよね?」


しまった、もう少し考えて発言するべきだった。

これは話さなくてはならなくなってしまったかもしれない。

ローアは既に聞く準備万端で期待の目をこちらに向けている。

俺がやってきた事は決して自慢できるようなことではないのだが・・・

それに戦争をやっていたなんてバカ正直に言えば、どんな空気になるか容易に想像できる。

こうなっては仕方がない、少し表現を変えて話すか。


「そうだな、俺が鋼鉄の体を持った化け物を倒した時の話をしよう。」


「へぇー!ツィールの世界には、そんなのがいるんだ!」


「そいつの大きさは10メートル位で、どんな攻撃もほとんど食らわない体を持って

た。」


「10メートルも!?ツィールよりもずっと大きい奴と戦ったんだ!」


「まあ、俺一人で戦った訳ではないんだがな。とてつもなく凶暴な奴だった。」


ローアを見ると、興味津々な様子で話の続きを今か今かと待っていた。

こうなれば話すしかないな・・・まあ、ある程度表現を変えているから問題ないと思うが。

俺は話を続けた。


そいつは全てを踏み付けながら途轍もない速度で大地を駆け抜ける。

そいつが吼えれば目の前にあるものは人であろうと、建物であろうと吹き飛ばす。

その姿はまるで猛り狂う巨大な猪だ。

こいつを放っておけば全てが無くなる。

俺たちは仲間たちの悲鳴や燃え盛る炎の中で必死に戦った。

踏み抜かれ、吹き飛ばされ、蹂躙されながらも俺たちは戦い続けた。

逃げることなど許されない、そう思いながら死に物狂いで攻撃をしていた。

目の前の壁が吹き飛んだ瞬間、俺は命を捨てる覚悟で一気に接近し攻撃を仕掛けた。

攻撃した場所は偶然にも奴の急所だった。

その瞬間、全身から炎を噴出して黙り込み、二度と動かなくなった。


「・・・という話だ。」


「すごい、すごい!化け物に勝ったんだ!」


とてもおもしろかったのか、ローアは興奮していた。

そんなに面白かったのか、まあ多少歪曲しているからかもしれないが。

人が操ってるとか、味方に同じような奴がいたとか言ったら反応が真逆だったかもしれない。

しかし自分で話していても本当に恐ろしい奴だったと思える。

あいつらの攻撃で何人もの味方が犠牲になった。


「うん?どうしたの?」


「いや、話したら急に懐かしく思えてな。」


「へぇー、じゃあ他の話ってないの?」


「なんだって?」


「だから他の話。」


「なぜそうなる。」


「だって面白かったんだもん。」


「はぁ・・・そうだな。」


正直、あまり話し過ぎるのはよくない。

これは御伽噺でも勇者の伝説のような崇高な話とは違うのだから。


「また機会があったら話すとしよう。」


「えー!」


「楽しみというものはとっておくものだ。」


「うーん、じゃあ絶対に話してね。約束だよ?」


「・・・ああ、約束する。」


つい約束すると言ってしまったが、大丈夫だろう。

どのみち明日の早朝にはこの村を出るつもりだ。

流石について来ることはないだろう。


「ふあぁぁ・・・うーん、それじゃあそろそろ寝ようかな・・・」


「なあ、この世界に催眠効果のある植物はないか?」


「あるけど、どうしたの?」


「俺は寝付きが悪くてな、そういった物がないと眠れないんだ。」


「うーん、じゃあこの薬草かな?」


そういうと、ローアは瓶を持ってきて薬草を取り出す。

凄く鮮やかな青色の植物だが、大丈夫なのだろうか?

まあ、今まで怪しい薬で強制的に体を動かしていた奴が言うことではないが。


「すまない、これはどれ位使えばいいんだ?」


「食べるならちょっと齧る程度で十分効くよ。あとは磨り潰せば匂いでも催眠効果があるんだ。」


「体に害はないのか?」


「一度で大量に使用しなければ害はないよ。ちょっとでも効果が強いから大量に使用しなくてもいいよ。」


「そうか、すまないな。」


「それじゃあ寝ようと思うけど・・・布団1つしかないから・・・でも一緒に寝るのはちょっと・・・」


なぜ一緒に寝ることが前提なんだ・・・

年頃のとか言っていた割に、あまり気にしてないのか?


「俺はどこでも寝られるから布団じゃなくてもいい。」


「じゃあ、ソファを使っていいよ。床で寝させる訳にはいかないし。」


「わかった。」


「それじゃ、おやすみツィール。」


「ああ、おやすみ」


ローアが灯りを消すと暗闇が辺りを包んだ。

窓からは月明かりが差し込み、少しだけ家の中を照らしていた。

ソファに寝転がりながら今日あったことを整理する。


処刑されたと思ったら異世界に来た。

なんの冗談か知らないが、冗談にしてもあまり笑える話ではない。

いや、どちらかというと笑える話かもしれないな。

死んだ筈の人間がこうして生きているなんて前例があっただろうか?

見たことや聞いたことがないだけであったのかもしれないな。

問題は誰が、若しくは何が何の為に処刑された俺を異世界に連れてきたかだ。

なぜ処刑された俺なのか、俺でなければならなかったのだろうか?

まず、偶然なのか人為的なのかがハッキリしない事にはどうしようもない。

個人的には、それよりもなぜ俺が処刑されなければならなかったのかが気になる。

思い当たる節は何もない、愚行を働いた覚えはない。

命令に従い、忠実に働いていたはずだ。

王にはそう見えなかったのだろうか?それとも何かが気に食わなかったのだろうか?

確かに俺は一番戦果を上げており、敵からは悪夢とも呼ばれていた。

だがその事を誇ったことも、ましてや驕ったこともない。

いつも命令に従い、最前線で敵を殺し、拠点を制圧し、最終的には敵の本拠地を潰した。

何が悪かったのだろうか、処刑される前に問いかけても答えは返ってこなかった。

次の命令は処刑されることだとしか言われなかった。

命令は絶対だ、拒否することなど許されない。


「その結果がこれか・・・」


溜息を吐きながら呟く。

考えても無駄なことだが、やはり気になるものだ。

折角だ、今までとは違う生き方をすれば少し位はわかるかもしれない。

しかし戦いに明け暮れていた俺に違う生き方ができればいいんだが。


考えるのを止めて、頭の中を落ち着かせる。

そして薬草を一片齧り、深い眠りに誘われるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ