プロローグ1
ある世界のある国、ある村にて、新しい命が今孵ろうとしていた。
パキン、と卵にひびが入った。
その卵を見つめる目が3対。
1つは卵の母竜。もう1つは竜の飼い主。最後に竜専門の獣医、竜医。
母竜がのんびりとしているのに対して、人間二人はそわそわと落ち着きがない。
それもそのはず、二人はドラゴンの誕生を見るのは初めてなのだ。
普段見慣れている地竜は基本的に丈夫で寿命が長く、それに比例して出生率が低い。人間の倍生きることも珍しくない。
一生に一度あるかないかのチャンスを二人は少年のように目を輝かせて見守っていた。
ピシピシと音を立ててひびは広がって行く。そして、バキンと一層大きな音を立てて卵は壊れた。
少量の水と共に出てきたのは、小型犬程の大きさのドラゴンだった。
その鱗は純白で真珠のよう。鬣は空と同じ青。目は美しい金色をしていた。
背中には小さいながらも翼が有り、そのドラゴンが飛竜であることを示していた。
美しいドラゴンに見惚れていた二人は、はたと小さなドラゴンを、さらに言うならその翼を見た。
地竜は四足の竜だ。足は太く発達しており、平面移動に優れている。地を駆け、地に生き、地に死ぬ。翼をもつことはない。
だというのにこの子竜はどうだ。翼がある。
「ああ、先祖返りですか。」
竜医は田舎らしくない丁寧な言葉使いで納得したように言った。
「先祖返り?」
「ええ、先祖返りです。」
おそらくお宅の地竜の祖先に飛竜がいたのでしょう。言いながら簡単な診察をして、子竜は母竜に返された。母竜は濡れた我が子についたからを舐めとってやる。
「ではお大事に。」
驚いた男をそのままに、竜医は次の診察に行ってしまった。
「飛竜…そうか、飛竜か。」
かつて空を飛ぶことを夢見た男は、自らの卵の殻を食む子竜をじっと見ていた。