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夕凪

作者: たっつん

 海岸沿いの道を車で走っていると、町のシンボルである、大きな煙突が見える。3年ぶりに、たけしは父の葬儀に出席するため帰省していた。心中は荒れていた。

 

 今日は、出棺。実家に親戚一同が集まった。そのうちぞくぞくと、父の友人がおとずれ、親族は、出棺の準備であわただしく支度している。

 葬儀業者が準備を終え、お棺に入れるものはないかと尋ねてきた。

 母が「タバコが好きだったので」とワンカートン持ってきたが、「一箱で十分ですよ」と言われたものの、「いいんです、これで」と一言。それ以上は、葬儀業者も何も言わなかった。


 時間になり、お坊さんがお経を唱え始めた。真夏の晴天の日である。

 たけしは、数珠を見つめながら、大学に進学するため実家を出るときの一言を思い出した。

 「後は、お前次第だ。存分に遊んで来い。」

 いまだに、意味を理解できていなかった。


 お経が終わり、お棺を霊柩車に運ぶため担ぐと、父の体は、生前の頃には想像出来ないほど、軽く感じた。たけしは、顔を上げ前へ足を一歩一歩かみ締めながら、霊柩車へと運び入れた。 

 クラクションとともに、霊柩車が出発し、たけしも、自分の車で霊柩車を追い抜かないように、火葬場まで車を走らせていた。火葬場に着き、最後に父の顔を見ていた、たけしの顔には、うっすらと水滴が滴っていた。


 火葬には、2時間ほどかかる。その間、親戚同士の交流の場になっていた。

 たけしは、親族にあいさつ回りをしながら、懐かしい顔を眺めては、子供の頃を思い出していた。

 そのとき、父の姉である、まさこと娘のももこが話しかけてきた。

 「しばらくね。立派になって。弟もあの世で自慢してるわよ。」

 いつも、こんな調子でたけしを褒めてくれていた。父とは正反対であった。

 娘のももこが、葬儀が終わったら、いつも遊んでいた海岸を歩かないかと、たけしをいざなっていた。


 葬儀が終わる頃には、陽が暮れかかかっていた。

たけしはももこと、砂浜を歩きながら、父の最期を聞いていた。救急車で運ばれ手術し、食事もとれず点滴で栄養補給していたことなど。それでも、たけしを呼べとは一言も言わなかったことも。

 自分の弱った体を見せたくなかったのだと・・・いつまでも、強い父の姿を思い描いて欲しかったのだと。

 それが、最後のメッセージだった。


 たけしの心の中に力強い風が吹き、すべての雑念が流され、静寂が訪れた。




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