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テイク9 【ズバリ言っちゃってもいいですか? 駄目でも言わせて頂きますが 4】

 俺は見てしまった。三枚あるお札のうち、二枚に【ブレイビーは阪急ブレーブスのマスコットだよ〜ん】【日ハムのマスコットはファイティーだバ〜カ】と書かれてあるのを。

 いったいこんなもの、なんに使うというのだろう。貴重なパルプ資源の無駄使い、それ以外の何者でもない気がする。無駄だ。正に無駄だ。

 普通に考えて、使い道など一切無いように思われる。問題は最後の一枚だった。これがどう使われるかに勝っても負けてもなんのメリットも無い戦いに巻き込まれてしまった俺の運命がかかっている。


  先制パンチを喰らわしたのは寿春だった。だが、先制攻撃を仕掛けたのは神奈の方だったのだ。つまり、神奈が繰り出した右ストレートをかわし、クロスカウンター気味のお札攻撃を受けてしまったのである。

 さすがは霊能者の一撃。痛かった。それはそれは痛かった。全国ネットのお笑い番組に出て、ダダ滑った時と同じぐらい痛かった。四回も続けて言いたくなるほど痛かったのだ。

 寿春は三枚目のお札を真・三国無双の左慈の如く硬質化させ、且つ変幻自在である兵器として使ってきた。どうやら最初の二枚は只単に突っ込みたかっただけらしい。取り敢えずこのことは後で、森林保護団体にご注進に及びつつ芸の肥やしにさせて頂くことにしておこう。


 勿論この後団体からぶっ叩かれる寿春をオチとして。



 まぁ、そのためにはこの苦境を乗り切ることが最低条件となるのだが……。

 たったの一撃でそこはかとない痛みを与えてくださる、非常にありがたいお札のことだ。いくら神奈が神様といえども、たかが高級霊、ひいては元人間である。この痛みに対しは、恐らく後四発から五発ぐらいが我慢の限界だろう。

 それまでになんとしても寿春をなぎ倒さなければならなかった。それはある意味究極レベルの不利であると言える状況だ。例え俺が何に変化したとしても、相手はそれ以上のリーチを作り出すことが可能なのである。喧嘩においてリーチの長さは最重要となる要素なのだ。

「大丈夫だよブレイビー。射程距離でかなわないなら、テクとスピードで穴埋め」

 神奈が独り言のように小声で囁きかける。そういえば人は霊体となると、生前に高かった能力が更に高まるらしいという話を聞いたことがある。神奈の場合は生前推理によって行っていた【読心法】が、いわばテレパシー気味に無条件で読み取ってしまう【読心術】に昇華したらしい。

 相手が次に繰り出す技が判るなら、それならばもう、リーチ云々以前の問題である。それはもはや必勝法であり、必殺技だ。

 次にアクションを起こしたのは寿春だった。お札を持つ手をソフト投げのような型で動かしている。とはいえ、武器として使えるお札は一枚しか無い。投げてくる可能性は、極めて薄いといえるだろう。

 投げてこないとなれば、これはもうヨーヨー戦術としか思いようがない。神奈がそれを察知したのか、早くも左側に身をかわす体勢を作っている。

《ヤッベーなぁ……》

 この霊体がせっかちなのはいつものことだが、攻撃が来る前での明らかな移動体勢は命取り以外の何にもならないのだ。


 ……だが、彼女の場合はこれがめくらましとなる可能性があるから油断が出来ないのだ。とにもかくにもこの女はフェイント女王なのである。


 寿春のお札が真っ直ぐに俺達に向かって伸びてくる。物凄いスピードだ。横浜ベイスターズのクルーン投手の速球(MAX161km/h)を打席で見るとこう見えるのだろうか、スピードが早すぎてなにがなにやら全く解らなかった。

 そう【気付いたら】もうそこにあったのである。


 さすがは高級霊と言うべきなのだろうか、それとも、さすがは元名探偵と言うべきなのだろうか。神奈はこのハイスピードチャージをいとも容易くやり過ごした。そう、彼女は全くその場から動いていないのだ。あからさまな避けの体勢に惑わされた寿春が勝手にお札を左に大きく変化させたのである。勿論それをテレパシー受信によって予め察知していた神奈は、寿春の懐へと飛込んで行く。


 恐るべき事に番組は、闘う女共を完全にフレームアウトして、麻里愛とシュツルムの会話のみで進行しているらしい。

 時折、寿春のお札や北の守護神増長天様がフレームの前を高速移動していくが、それはそれで霊現象を捉えた決定的瞬間として番組に泊を付けることになるとの読みがあるようだ。なんとも逞しい商い魂である。お茶の間には、一切ヤラセの無い正真正銘の心霊現象が逐一お届けされていた。


 寿春の懐に飛込んだところで神奈が一言、

「やばっ」

 とのたまった。いったい何がヤバいのだろう。ここまでの流れで都合の悪いところなど一つも無いように思えるのだが。

「巻き付けられる……。もう避けられない」

 諦めの境地に達したかのような顔付きで、ヤバい理由を神奈が俺に説明し終えたと同時に俺を右手から外して天高く放り投げた。


 タッチの差で難を逃れた俺の目に飛込んできた風景、それは、

「ぎいぃやあぁああぁぁ!」

 とのけたたましい悲鳴をあげ、この場から消えて無くなる神奈の姿だった。

「さぁて、一件落着。ええと、麻里愛さん、続けましょうか」

 まさに瞬殺。北の守護神増長天様を何の躊躇いもなく瞬殺した寿春は、何事も無かったかのように席に戻って番組を続けようとしている。


 彼女が持っていたお札には【強制送還】と書かれてあった。

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