テイク8 【ズバリ言っちゃってもいいですか? 駄目でも言わせて頂きますが 3】
美少女系性悪オバハン河山寿春による、霊能占い番組【ズバリ言っちゃってもいいですか? 駄目でも言わせて頂きますが】に出演中。寿春が麻里愛のパンドラの匣を開き、一触即発状態と化したが、その後に続いたおたんこなすな一言によって只今、スタジオは大混乱が巻き起こっている。
その一言とは、
「あなたは【彼】そのものなんですから」
という言葉のすぐ後に続いた、
「あなたの【母親】の丸写し」
と言う言葉。
もはやすっとこどっこい以外はおたんこなすしか無いといった状況だ。件の母親は族上がりの超じじゃ馬。この言い草を聞き付けて、是非ともこの失礼なオバハンを祟り尽して頂きたいものだ。
スタジオに組まれた、幻想的なセットは、ほんの少し後方に回り込むだけで、所詮木の板を貼っ付けてあるだけのお粗末な造りのセットなのだと言うことを嫌と言うほど思い知らせてくれる。
所詮セット、されどセット。その幻想的な雰囲気は、麻里愛の不安と混乱を煽りたてるには充分過ぎる役目を果たしている。
「あのー、わたしのお母さん、男の人なんですか?」
訊かなくても解ってほしい、というか、解って然るべきゾーンであると言える。ぶっちゃけた話、アホだ。
《おめーのお袋は男なのかよ!?》
他人からあからさまに突っ込まれると気付くことも多多ある。是非、是非とも、是が非でも、ここで気付いてもらいたい。
「わたしのお母さんは……、岩国……、択真です……?」
駄目だ……。コリャ駄目だ……。
誰か切にこの女をマトモに戻してやってくれ。「ミスターブレイブ、なんか面白いことになってるみたいだね」
突然だ。この女はいつも突然なのである。岩国神奈、麻里愛の産みの母だ。今は天界において、あの世へ繋がる北の門の受付をしている。
ちなみに変なあだ名を付ける趣味をお持ちのようで、俺もミスターブレイブという横文字を頂いてしまった。
「助けてくれ神奈さん!
やべーよ、マーチャンがおかしくなっちまったんだよォ!」
この状態はもう、発狂したとしか言いようがない。渦中のニ柱のうちの一柱、北の守護神増長天の臨場である。なんとか立ち直ってもらいたい、と言うか神様がわざわざ救済に出向いて来たのだ、立ち直る義務があるだろう。
「おぜうさん、ちょっとよろしくって?
あたくし、麻里愛の母でございますの」
頼む、地球語で話してくれ……。
「あーら、そうなんでございますの。でもあたくし、こう見えて38なんですのよ、おーっほっほっほ!」
いったいこのオバハン達はなにがしたいのだろうか……。なにやら、意味の解らないライバル意識を燃やしてしまったらしい。
しかし驚きだ。風の噂で30だと聞いていたが、まさかそれより更に8年も長生きしていたとは。しかまくんクイズや慎吾ハイ&ローで絶対に金を巻き上げてこれるレベルの若々しさである。
いや、そんなことはどうだっていい。そんなことより今は、麻里愛である。寿春の意味不明な一言によって、生きたまま無間地獄に落とされてしまったこの女をとにかく普通にもどしてやらなければならいのだ。
「おぜうさん、あたくしは男じゃなくってよ?
あたくしの一人称が彼だったのはどういうことなんざますの?」
いつになったら普通に話してくれるのだろうか。娘がすぐ横で耳を塞いで長い髪ごと頭を激しく振り乱しているというのに……。
「あーら、ごめんあそばせ。あたくしはただあなたがあまりにも狂暴な方でいらっしゃいますから、てっきり男の方なのかと」
もはや言いたい放題だ。本当に、なんと言えばいいのか、どうにも肝っ玉オバハンだ。
神格を持った高級霊俗に言う神様が相手なのである。
「あーら、そーざますの。あたくし、狂暴なんでございますのね……、じゃあ暴れてやるよ」
やっと普通に話す気になってくれたか。そして、俺の望み通り、祟り尽してくれる気にもなってくれたらしい。早く、このオバハンの口を止めてくれ。
「ブレイビー!」
神奈さんは突然俺に新たなるニックネームを与え、更に左足を鷲掴みにしてきた。
「俺は日ハムの球団マスコットじゃねえ!
それに足痛えって!」
必死に俺は訴えたのだが、どうやら聞く耳を持ってはくれないらしい。何やら得体の知れない念波を足を通して俺の中へと注入してくる。
そして、俺の体は突き抜けるような心地好い衝撃と共に、カイザーナックルと化し神奈さんの右手に装着されていた。ちなみに武器として具現化された俺は人霊共にダメージを与えることの出来る兵器となる。
お茶の間の皆様には、おそらく独りでくっちゃべる寿春に向かってカイザーナックルが突然出現し、その横で、麻里愛が狂ったように髪を振り乱しているているという地獄画図か、緑のバックに赤いチューリップと、黄色い【しばらくお待ちください】というテロップが出ている画面のどちらかを観ていることだろう。
神奈さんは、俺をしっかり握り込んでのシャドーボクシングを開始、対する寿春も、即席で数枚のお札を造り始めた。
そしていよいよ……
ラウンドワン ファイツ!
〈続く〉