テイク7 【ズバリ言っちゃってもいいですか? 駄目でも言わせて頂きますが 2】
麻里愛さん、超ぶっちゃけ占い番組【ズバリ言っちゃってもいいですか?
駄目でも言わせて頂きますが】に出演中。
コメンテーターは【霊能アドバイザー】河山寿春。
かなりヤバイとは思ってたんだが……、ヤツは、俺のことを怨霊だと思ってしまったらしい。
《どうなる、俺ぇ!!
続くぅ!!》
勿論、手持ちのカードは【封じ、消滅させられる】【祓い清められる】【強制成仏】の三枚しか無い。
寿春は、俺をまじまじと視線で舐め回しながら、言葉を選んでいる最中のようだ。
《そんなクリクリなお目々で見つめないでくれ。
惚れちまうじゃねえか》
こんな歳端もいかないような女の子(実年齢は30歳らしいが)が俺を成敗しようとしているなんてとても思えないし、思いたくもない。
「じゃあ……、スピリッツから診ていきましょうか」
スピリッツとは、確かスピリット(精神)の複数形の筈だ。
この女には複数の精神が混在しているとでも言うのだろうか。
「うーん、貴方の場合は珍しい事に、ツではなく、トなんですよね……。
ヒトの精神構造って言うのは、だいたいが当人を取り巻く霊的な力が影響してくるために、取り憑いてる霊のほぼ全ての精神や、前世の精神とかが入り混じって構成されるんですが……」
なるほど、だからスピリッツなのか。
じゃあ、麻里愛がスピリットなのはなぜなのだろうか。
「貴方の精神は、たった一体の高級霊の精神の丸写し状態になっています」
高級霊?
確か麻里愛には、俺と七海しか取り付いていない筈なのだが。
《俺って、ハイグレード?》
「そこの低級霊。
あんたじゃないから気にしなくていいよ」
苦笑いしながら寿春が突っ込んできた。
必死に笑いを噛み殺す仕草が悔しいが、……なんとも可愛らしい。
寿春に、異性としての魅力を感じてしまった照れ隠しに、
「低級とはなんだ、低級とは!」
と怒鳴り付けてしまった。
「じゃあ、下等霊の方が良いのかしらね?」
「どっちも一緒じゃー!」
だめだ。
ラチが明きそうに無い。
このオバハン可愛い顔して麻里愛並に、いや、それ以上に性格がきついらしい。
「あの、ゆーちゃんじゃないなら、ナナですか?」
喧嘩腰の俺達の間に麻里愛が割り込んできた。
低級霊、下等霊というキーワードで即俺だと判断されたことに、そこはかとなく憤りを覚える。
「ナナさんっていうんですか、もう一体の低級霊。
彼女も全く関係ありません」
七海、このオバハン……、祟っていいぞ。
「麻里愛さん、貴方は、たぶん絶対に認めないでしょう。
貴方は彼を、地獄、現世、あの世の三界に存在する全ての者の中で、一番嫌っています。
でも、そろそろ受け入れてあげないと、貴方自身が壊れ始めますよ?
【彼が貴方そのものなんですから】」
その言葉で連想されるモノ。
七海が麻里愛の世話になる原因の事件を引き起こした元凶。
16年も昔に、今現在も語り継がれている【スノードロップ大量殺人事件】を起こした伝説の殺人鬼、
【赤星拓真】
この男は、麻里愛の父親だ。
凶悪犯だった筈なのに、なぜか、あの世(天国)へと逝けてしまっている。
それどころか、神格を持つ高級霊として確固たる地位を確立していた。
「もういいです。
続きは……、言わないでくれますか……」
言わなくても拓真であることが判ったということなのだろう。
麻里愛は寿春を睨み付けることで牽制しながら、言葉を阻んだ。
「貴方、番組のタイトル忘れた訳じゃないでしょ?
【ズバリ言っちゃってもいいですか?】」
「だっ……、駄目でも言わせて頂きますが……」
なるほど、こういう使い方をするための、この無駄に長いタイトルだったのか。
この番組に出た以上、言われることは予め覚悟しておけということであるようだ。
しかも、【駄目でも言わせて頂きますが】の部分を、ゲスト自身の口から言わせている。
当然、それを言った瞬間にゲストは言われることを了承したことになる。
《このオバハン、してくれることがいちいち小憎らしいじゃねえか……》
「貴方のスピリットは、貴方のお母さんの丸写しなんですよ」
……、……、……、……。
「「えっ!??!?」」
余りの意味の解らなさに、二人でハモってしまったぞ!?
寿春のオバハンはさっき確かに【彼】と言っていた。
彼と言っていたのだ。
なのに、お母さん。
麻里愛は男同士で性交することによって、男から産まれてきたとでも言うのか?
そんな筈はない。
麻里愛の母親は岩国神奈と言って、立派な女性である。
拓真が引き起こした七海騒ぎの時、直接会ったこともある。
間違い無く、麻里愛の母親は女性なのである。
神奈さん、あんたもこのオバハン……、祟っていいぞ。
それにしてもこの河山寿春、とんでもなく根性の座った女であるようだ。
麻里愛自身とそれを取り巻く霊体の全てを敵に回して、なおもとっても可愛らしい微笑みを浮かべている。
薔薇には鋭い棘がある。
どうしてこうも俺の周りの美女連中は、こんなのばかりなのだろう。
初めは異性として意識していた寿春に対して、今は残念ながらうっとうしさしか感じていない。
〈続く〉