テイク3 【二時間サスペンスドラマ 2】
俺命名【許してちょんまげ殿】は携帯電話を一旦切り、そして、新たに操作し始める。
そうこうしているまに、麻里愛の携帯電話が、新たなメールの着信を告げた。
携帯電話本体を開くと、新着メール一件と表示されており、読んでみると、
【なんだ?
まだ生きてるのか(◎o◎)
とっくに死んでると思ったのに(^。^;)
今回はしぶてえのか?
それとも撮影がまだなのか?】
とのお言葉。
有難迷惑な差出人様の名は、
【ちょいピンボケ?
是非ファジージャイロ機能を!】
様だ。
《なんのこっちゃ!!》
訳が解らん!
新手の迷惑メールか?
許してちょんまげ殿は、なおも携帯電話を操作し続ける。
一心不乱にボタンをプッシュし続けるその姿は、何かに取り憑かれているかのようだ。
麻里愛の携帯電話が、またメールの着信を告げる。【死ね死ね!
お前は死ぬしか能がねえんだよ!
なんて誰も思っちゃいねえから、安心して殺されてこい\(^ー^)/】
麻里愛が震えてき始めた。
もはや涙目になっている。
差出人は、
【刺激する度に
生えてるとこも叩き
櫛に髪が絡み付き
抜ける
byスリル改め《ハゲる》】
様だ。
「ゆーちゃん……」
《!!
俺かよ!?》
確かに、確かにこの【スリル改めハゲる】は表向き【替歌芸人】として麻里愛さんに献上する【生活費】《俺、飯食わねえのに……》を稼がされている俺が編み出したネタの一つだ。
だが、
「俺じゃねえって!
マジ俺じゃねえんだって!」
神に誓って断言できる。
決して俺ではないのだ。
それなのに……、
「後でたっ……、……、……ぷり、祓い清めてあげるからね」
落涙しながら満面の笑みを湛えるという、世にも恐ろしい行動と共に、殺意がみなぎる言葉を投げ付けてきた。
そんなことをされたら堪らない。
麻里愛さん、陰陽師としての能力に目覚めたのはつい最近のことで、なにぶん、手加減というものが出来ないのだ。
間違い無く、消滅させられてしまう。
《なんとか誤解を解かねえと》
「ねぇ、ゆーちゃん、お化けって死ぬとどうなるのかな?
やっぱり消えて無くなっちゃうの?
見たいなぁ」
「見たいとか言うなよ!
ホントに俺じゃねえの!
まーちゃんだって貢いでくれる奴が減るの、勿体ねえだろ!?
だから俺を消すなんて止めようぜ!?
な!?」
必死の説得を試みる。
「だぁめえぇ……!」
その目には狂気の色さえ浮かんでいる。
もはや一刻の猶予も許されなかった。
早急に対処しなければこの場で祓い清められかねない。
麻里愛は、とうとう陰陽師御用達の【お札】をバッグから取り出すと、俺に張り付けようとにじり寄って来た。
「あまねくチミモウリョウ、悪霊怨霊の類に当たる者達よ……、
此よりこの現世に存在することを……」
なにやら恐ろし気な呪文を唱え始めている。
「たっ、たっ、助けて!
助けて助けてぇ!」
俺にはもう、命を乞うことしかできない。
その刹那、助け船を出してくれた者がいた。
麻里愛の携帯電話がメールの着信を告げたのだ。
この状況で、例の中傷メールが入ってくれば、俺の潔白を証明してくれるなによりの証拠となる。
なんたって、俺は両手を前に突き出して、麻里愛の目を真っ直ぐに見据えながら後ずさっていたのだから。
メールを打つ余裕などない。
ある筈もないのだ。
【TIME AFTER TIME】
から始まった着うたのDARIAは、もう
【切なさの風に舞う】
まで達してしまっている。
「まーちゃん!
メール!
メールメール!!」
着信に気付いた麻里愛は、
【ちちっ!】
という、北斗の拳のような舌打ちをしながら携帯電話を取り出して開く。
【おいおい、お化けに八つ当たりかよ(^。^;)
そんなだからお前は、性格悪い演技が堂に入っちまうんだよ
\(^ー^)/
諦めろ、お前みてえな性格ブスは、被害者にしかなれねえよ(^O^)】
《来たー!
来た、来た来た来たぁ!》
差出人は
【Mr’Cild冷蔵庫】
様だ。
「た、……たすかった……」
そして、俺達の疑惑の目は、なおも携帯電話を操作し続ける、許してちょんまげ殿に向けられていくことになる。
麻里愛がおもむろに携帯電話を取り出して、ボタンをプッシュし始める。
一連の作業を終えると、それを耳へと当てた。
どこかに電話をかけたようだ。
《!!》
一瞬耳を疑った。
許してちょんまげ殿の携帯電話が、着うたを奏で始めたのだ。
あまつさえ、その着うたは……
【泣かないで僕のマリア】
と歌っている。
そう、その名もズバリ、【マリア】という曲なのだ。
着信のタイミング。
そして、【マリア】……。
もはや、疑いを差し挟む余地はなかった。
十秒後、許してちょんまげ殿は、鬼神の如く怒りに髪を揺らめかせる麻里愛と、機嫌の悪さでプチ怨霊と化した俺との挟み撃ちに遭うこととなる。
「タッキー。
こーんにーちはー……」
満面の笑みだ。
ただし、顔中に血管を浮かべての……。
「う〜ら〜め〜し〜やあぁぁぁ〜……」
マジ恨めしい。
麻里愛は指をケンシロウのようにポキポキと鳴らしながら、俺は首から血しぶきを噴出させながら、許してちょんまげ殿、もとい、神林隆行ヘと詰め寄って行く。
「ぎゃあああぁぁ!!」
……、【合掌】
〈続く〉
なんか、二時間サスペンスから脱線しちゃいましたね(^。^;)
次回、撮影開始です
(^o^)/