テイク2 【二時間サスペンスドラマ 1】
今回の俺は、お化けに徹することになりそうだ。
麻里愛さん、二時間サスペンスドラマを撮影予定。
ああ暇そう
ほんとに暇そう
ちょー暇そう
詠み人、勇気……。
「なぁ、まーちゃん今回どんな役回りなんだ?」
「うぅ〜、なんか、また死にそう」
被害者役で初出演したとき、その死にっぷりがとある監督の目に止まってしまい、それ以来、二時間サスペンスでは殺されまくっているらしい。
「せっかく月9の連ドラからオファーが来て
《やったやった!
やったあぁぁぁ!!》
って思ってたら、監督が寺前さんじゃない。
やな予感は有ったけど案の定最初の方で
きゃー……、ドサッ!
はい、終り!
……、なめんな!!」
どえらく御立腹だ。
その理由は当然、
「わたしだって、わたしだってさ、
《謎は全て解けたぁ!》
とかさ、
《あなただったんですね、〇〇さん》
とか言ってみたり、
包丁構えて、
《うわあぁぁぁ!!》
って相手に突進してみたりしたいよぉ!!」
という言葉に尽きる。
《そりゃそうだよな》
「どうせ今回もさ、なんか性格悪いことやって、ぶすって刺されて、ドサッて死んで、終りなんだよ」
《まんまおまえじゃねえか》
心からそう思っていると、突然涙声になってしまった。
「わたしもう、二時間サスペンス出るの止めようかな……」
これは、究極レベルの爆弾発言といえる。
まだあまり売れていないタレントが掴んだ数少ない売りの一つを自分から棄てようとしているのだから。
「出とけ出とけ!
ぜってー出といた方がいいって!
実際に死ぬ訳じゃねんだから、何遍でも死にゃあいいんだよ!」
逆効果の気もするが、取り敢えずハッパをかけてみた。
「ゆーちゃんに何が解るの!?
わたしの何が解るってのさ!?」
ヒステリーを起こしてしまったらしい。
見事に逆効果だったようだ。
「だったら俺じゃなくてタッキーにでも相談しろよ!
俺なんかより、よっぽど解ってるだろ?
ったく、なんで俺なんだよ」
タッキーとは、神林隆行という男で、麻里愛の旦那だ。
別姓なのは、どちらも芸能人だからである。
「だよね、そうだよね。
解った。
タッキーに聞いてもらうわ」
撮影当日、俺達は京都のロケ現場に向かっていた。
一ヶ月前に受け取った台本は結末までは書かれていない。
もしかすると、俺も暇な思いをしないで済むかも知れない。
ちょっとしたミステリーナイト仕立てになっているのだ。
俺は推理となると結構うるせーぞ?
麻里愛は買ったばかりのレガシーで現場へと飛ばす。
つい最近、事件に巻き込まれた【死の交差点】を通過しなければならかったが、そこにはもう七海はいない。なんの問題も無く通過できた。
レガシーが停まった先は、何やら時代がかったセットの並ぶ大江戸チックな場所だった。
《?
大江戸八百八町になんの用なんだよ?》
その空間に一歩足を踏み入れると、
「麻里愛殿、気分はもう江戸時代に生きておるようでござるなぁ」
となってくる……、だろ!?
俺、間違ってねーよな!?
なのにこの麻里愛さんときたら……、
「べつにぃ」
の一言の元にソッポを向いてしまったのだ。
《こうなったら最後まで侍調で通してやるぜ!》
もはやこうなっては俺にも意地がある。
なんとしても麻里愛を江戸調に染めてやりたくなった。
……、だが、ここで気付いてしまったのだ。
さっきの心理描写が現代調だったことに。
《くぅ……、む、無念……》
悪代官の手下にバッサリ殺られた気分になってしまった。
暫くセット村を進んでいったが、相変わらずそこは、大江戸八百八町だ。
そして……、
《ちょちょちょちょちょんまげえぇえぇぇ!?》
俺は見てしまったのだ。
まげを結った侍が携帯片手に、マルメンライトをフカしながら爆笑しているのを。
《なんだなんだ!?
大岡越前か!?
遠山の金さんか!?》
サスペンス……、それは、推理する事よりもストーリー展開に重きを置いているタイプの推理物を指す。
そういう観点で見れば、【大岡越前】も【遠山の金さん】も時代設定を除けて考えるなら、立派なサスペンスドラマなのである。
が……、
俺は確かに台本を見た。
確かに見たのだ、【太秦時代村ツアー殺人事件】と書かれてある表紙を。
ほぼ間違いなく現代物であると考えていいタイトルだ。
なにせ、【ツアー】である。
時代設定は、少なくとも昭和中期以降の筈だ。
なのに、ちょんまげ。
《許してちょんまげえぇぇえぇぇぇ!!》
あまりの理解不能さに、発狂寸前まで追い込まれてしまった。
〈続く〉