テイク13 【Q〇ま!! プレッシャースタディ 1】
白を基調とした回答席が十席円形に並ぶお馴染みのセット。その回答席に着くメンバーは、門倉麻里愛、門倉優里愛(競馬騎手)、門倉慶太、門倉慶輔(プロ野球選手)、門倉樹里愛(推理作家)、神林隆行(俳優)、河山寿春、門倉翔一(プロ野球選手)、門倉美和、岩隈竜也の十人である。
つまり、今回麻里愛さんが出演する番組は、Q〇ま!! 門倉家スペシャル。種目は『プレッシャースタディ』。またまた、地理系が期待できるクイズ番組なのである。
このメンバー内のプレッシャースタディ経験者は、作家の樹里愛、タレントの慶太、寿春の三人。この中で旅行をゲットした者は、今だ一人も居ない。
席順は出演者側が計画的に決められるわけではなく、局側が強制的に決めるらしい。楽屋に詰める麻里愛は、緊張を隠せずにいた。この番組、席順四番、五番辺りから突然旅行のかかった〇×クイズの難易度が、格段に増して来るのだ。
「二番か三番がいいなぁ」
思わず本音も漏れる。普段高圧的に見えても根はくそ真面目な麻里愛である。そのプレッシャーに押し潰されてしまいそうで、見ている俺のほうがハラハラしている。
今回も出演者に名を連ねていない俺は、言うまでもなく背後霊確定だ。贅沢を言わせてもらえるなら、もう少し佐野勇気として主役を張らせてもらいたいものだが……。
いよいよ運命の瞬間。麻里愛の楽屋に内線が入ってくる。
「えーーーっ!?」
突然の絶叫。どうやら四番以降が確定したらしい。ウルウルに潤んだ涙目となってしまった。
ミリ〇ネアのごとく、外しても被害を被るのは自分だけならば問題は無いし、こうまで過度なプレッシャーもかからないだろう。だが、このプレッシャースタディは、一人ミスると纏めてドボンの連帯責任系チームプレイなのだ。
「解りました。ありがとうございます」
ぐったりと意気消沈しながら、受話器を置く。その様子、とてもクイズ番組の席順どころの騒ぎではない。
「ゆーちゃんどうしよう。あたし、十番目になっちゃったよ……」
十番目。この席に着く者に選択権は無い。他の解答者が選ばなかった問題が、そのまま十番目の解答者の問題となるのだ。逆に言えば、いかにして答えやすい問題を、制限時間がギリギリまで迫っている最終解答者まで残すかというところがQ〇ま獲得への鍵となってくるのである。
とてもプレッシャーに弱い女とは思えないが、苦手分野がはっきりしているため、アンカーに向くタイプではない。
十番目の知らせに、青い顔をしてプルプルと震えている麻里愛さん。こういう姿を見ると、なんともかわいらしい。
「ご愁傷様。まあ、今日のところはおとなしく震えて、お茶の間の好感度上げることに努めな」
黙っていれば芸能界でも一二を争う美女だと言われている麻里愛である。このままおとなしくしていれば、それなりに好感度も上がることだろう。
「時間でーす! スタンバイお願いしまーす!」
ADの呼び出しがかかる。いよいよ門倉家の豪華海外旅行への挑戦が始まった。
次々と門倉の一族がそれぞれの位置に着いていく。麻里愛が十番目の席に着き、門倉家の方円の陣が展開される。とは言え、本来方円の陣とは外側に向かって展開するものなのだから、この場合は当て嵌まらないのかもしれないが。
門倉陣営が布陣を終えた後、敵軍総大将である、司会者のお笑いコンビ『びぃふかれ〜』と、アイドルタレント夕日の三人が司会者席に布陣して、いざ臨戦体制が完全に整った。残るは、司会者からの攻撃を最強の防御布陣である方円の陣によって、守り切るだけである。
「Q〇ま!! プレッシャースタディ門倉家スペシャルー!!」
びぃふかれ〜無山の雄叫びによる宣戦布告により、ついに豪華海外旅行を賭けた大合戦の火ぶたが切って落とされたのである。
「ほとんどの方が初参戦ですね。高学歴のインテリがズラーッと並ぶ中! 麻里愛ちゃんが十番目!」
タイトルコールの後、個性的な愛らしい顔立ちに意味ありげな苦笑いを貼付けながら無山が叫ぶ。こういうときの彼は、必ず誰かを茶化すときの顔だった。
「ミリ〇ネアの一万円の問題でオーディエンスの麻里愛ちゃんが! 十万円の問題でテレフォンの麻里愛ちゃんが! 十番目ですよ、十番目!」
やはり来たか。あの顔は絶対に来る顔だったのだ。案の定散々に麻里愛さんをいじり倒す。
「あーら、そのミリ〇ネアで一千万円ゲットしたのをお忘れですかな?」
負けじと麻里愛が指先をピンと伸ばした右手の甲を左頬に押し当てるセレブな動作で一笑に付す。
「そうなんだよねー、取っちゃったんだよね一千万円!」
もう一人のびぃふかれ〜、下山が苦笑いしながら受け答える。
ここまでの舌戦は、門倉家優位で進んでいる感じだ。そしていよいよ、クイズによる戦いが始まるのだ。