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テイク11 【麻里愛の謎に迫る! 1】

 アイドルタレント門倉麻里愛。今更ながら俺はこの存在を頗る疑問に思っている。箒に退魔札を貼っ付けて、今俺を追い回している麻里愛さん。

その形相は、俺よりも彼女のほうが退魔師に退治されるべきなんじゃないのかと思うほど悪魔的な顔付きだ。

 右中段から打ち出された薙ぎをワープしてかわしながら考える。ひたすら考える。何故こんな凶暴な女が【アイドル】になれたのかと。


 顔か? 確かにそれはある。黙っていれば芸能界でもトップクラスの美人だといわれる美女だ。充分有り得る。だが、【黙っていれば】という前置きがある時点でもう既に化けの皮が剥がれている証拠といえるだろう。


 麻里愛は、相変わらず俺を打ち倒そうとしてはしくじり続け、こそ泥に侵入されたかのようにカオスな部屋を自らの手でコーディネートしている。……、間抜けだ。

 それか? それが麻里愛がアイドルとして生き残れている所以か? 見た目の美しさと余りにもお間抜けな性格とのギャップが彼女をアイドルたらしめているのか?

 そういえば、ミリ〇ネアのときも元ソフトボール部のエースでありながら、野球系の一万円の問題でオーディエンスを使っていた。普通なら有り得ない話だ。

 麻里愛は相変わらず波状攻撃を仕掛けてくる。右から左への薙ぎ、そこから取って返す薙ぎ。動きは素早いが、余りにもワンパターンだ。 彼女が薙ぐ度に、俺以外の何かが犠牲になっていく。今回の攻撃では、デスクトップパソコン、30インチプラズマテレビ、何かの番組の賞品として貰ったロイヤルコペンハーゲンのメモリアルプレートが新たに犠牲者リストに加わった。

 これ以上の損害はここから先の俺の暮らしにも影響を出しかねない。今以上に暮らし向きを悪化させないためにも、この辺でわざと攻撃を喰らっておくことにする。

 予定通り上段からの打ち下ろしをわざと喰らった俺は、そのまま壁をすり抜けて家の外へ吹っ飛ばされていく。その途中、玄関付近に見慣れた顔を見つけた。その顔は、単体で見たなら見慣れている。だが、それが二つ同じ場所に在ると、どういう訳か、頭が混乱した。

 血を分けた兄であり、マルチタレントである門倉慶太と、この間の番組出演を契機に見る見る仲良しさんになってしまった霊能タレント河山寿春。この二人が、お付き合いしているカップルよろしく、お手々繋いで麻里愛宅の呼び鈴を鳴らそうとしているところに出くわしたのである。

「おっす、低級霊!」

 行き掛けに屈託のない満面の笑みを浮かべながら右手をシュタっと挙げた寿春からの、失礼極まる挨拶を受ける。

 ぶっちゃけそんな挨拶なら、しないでほしい。そんなことを考えながら、何も無かったかのようにのんびりと時間が移ろう街の中を、その空気の流れを破壊しながら猛スピードですっ飛んでいく。

「あー、いーなー。ゆー君一人で絶叫マシンごっこしてるー」

 突然脇から声をかけてきたのは、いつぞや絶叫マシンフリークであることが判明した麻里愛専属警備隊(要するに守護霊だ)副長、佐島七海。この女がいつも職務を放棄して遊び歩いてるから、隊長である俺が八つ当たりじみたお祓い攻撃の矛先を独り占めすることになるのである。

「おまえなぁ、背後霊ならビシッと取り憑いてろよ! そんな様じゃいつまで経っても転生できねーぞ!」

 俺や七海のような、一身上の都合により成仏への道を完全に絶たれてしまった不浄霊は、あの世から派遣された守護天使として現世に生きる者のために尽くすことでしか、転生のために必要な霊的エネルギーを貯めることが出来ないのである。

「んなこと知ったこっちゃ無いわよ。あたしら居なくたってマーって結構なんでも一人でやっちゃうしさ」

 確かにあの女はサポートなんか無くても、一人でなんでも出来てしまう。あの凶暴さや喧しさによってかなり影が薄まってはいるが、典型的な才嬢である。

 強いてサポートを必要とする状況を挙げるならば、道に迷った時の道案内かクイズ番組かテストか何かで地理系が出た時のカンニングの手伝いぐらいの物だろう。

「でも……、何だってあんな頭のいいやつが【おバカ】で売ってんだろうな?」

 先に挙げたミリオネアの一万円の問題などは明らかにわざとだし、てこずったように見えた一千万円の問題も、今から思えばその様に見せかけていた気配が満々だ。

「なんつうか、見せかけるのが上手いんだよな……」

 いつぞやプロ野球の始球式で159km/hの剛球をブン投げ、野球ファンの間で伝説的に語り継がれている麻里愛である。野球のことを知らない訳が無い。にも拘わらず、一万円でのオーディエンス。小憎らしいほどの演出だ。

 そのくせ、【あんまん】【アルトバイエルン】【マルセイユ】は本気で言っていたのだから全く頭の良さが目立たないのだ。

 相も変わらず御町内を絶叫マシン的猛スピードで強制的に移動させられながら、わざわざそれに追随してきた七海とともに麻里愛の不思議を考察する。

「諦めか? 元が天然だから、知性で売っても化けの皮が剥げるって踏んでんのか?」

 俺の高速移動にワープしながら付いて来る七海は、昔の記憶を掘り起こしているかのように瞳を右上へと移動させて、右手の人差し指でこめかみをしきりに小突いている。

 そして、彼女はこう二の句を継いだ。

「たぶん……、芸能界に入った取っ掛かりが関係してるんじゃないかな……」


 そういえば知らない。俺が麻里愛と知り合った時にはもう既にアイドルだった。

「麻里愛はね……」

 七海が、俺の知らない麻里愛を語り始める。





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