テイク1 【クイズ ミリ〇ネア】
「なんか緊張するなぁ……」
「そりゃそうだろ。
おまえみてぇなパッパラパッパッパーがなんでミリ〇ネアなんかに……」
麻里愛は、セットの裏で半泣きになっていた。
俺は今回、コイツの応援という名目で客席に座ることになっている。
どんな珍回答をしてくれるのか楽しみでならない。
なんたってこの女、ついこの間ニュースの
『ヨルダンのアンマンからの中継でした』
という言葉に対して、
「へえ、この国の特産って【あんまん】なんだ。
でもなんか、言葉の使い方間違えてるよね」
とか言い出したんだから。
当然俺は、
「おかしいのはてめえだ!」
と突っ込み、
「あんまん(アンマン)ってのはヨルダンの首都の名前だよ!」
と、教育を施した上で、
「言葉を間違ってるのもまーちゃんだぞ!
【間違えてる】じゃなくて【間違ってる】だよ!」
と、とどめをさしてやったんだが。
《地理系が来たら【ファイナルプライス0¥】の可能性満々だな》
時間が進むにつれ、一般の回答者がクイズに挑戦して、情け容赦無く薙ぎ倒されていく。
ようやっとこさ収録前のペーパーテストで悲惨極まる成績を残した麻里愛が早押し機の前に姿を現す権利を得ることができたようだ。
《あのネエチャン……、反射神経だけはマト〇ックス並だからなぁ……》
案の定、
早押し並べ替えの時間は1.5秒という超人的なスピードを叩き出している。
言うまでもなく断トツで予選突破。
《まーちゃん、ぜってー半ブリッジで銃弾よけれるな》
リアルマト〇ックスを実行できる可能性はもはや、∞に達していそうだ。
み〇氏に代わって番組の司会を今回から務めることになった門倉慶太に
「今回の一抜けは……、門倉麻里愛さん!」
と呼び付けられる。
門倉と門倉。この二人、実は兄妹らしい。
門倉家は、両親共に芸能人であるがために、子供にも芸能人が多いのだ。
「麻里愛さん、今日の応援はどなたですか?」
という決まり文句を放ち、慶太が麻里愛に俺の紹介を促す。
「ピン芸人の佐野勇気君です」
御存知の方もいらっしゃるだろうが、俺は死んでいる。
そして、麻里愛に取り憑いているのだ。
その結果、陰陽師の娘である麻里愛の潜在能力をいくらか引き出すに至った。だが、ただの取り憑き損というわけでもなく、麻里愛の霊力が増すことによって、俺は佐野勇気として実体化できるようになっていた。
当然麻里愛の側でという限定条件付きで……なのだが。
「佐野さん、麻里愛さんは佐野さんから見てどういう人ですか?」
というみ〇氏時代から続く慣用句を慶太が投げ掛けてきたため、
「麻里愛さんは、トラウマを【虎の革で作った馬服を着てる競走馬】だと思い、ドイツの首都が【アルトバイエルン】だと本気で信じ込んでた人です」
と、麻里愛の真実の一部を語る。
ちなみにアルトバイエルンとは某食品会社製のウインナーの固有名詞であり、都市の名称ですらない。
当の麻里愛は顔を赤くして下を向いている。
その麻里愛に、
「そういえば麻里愛さん、タロットのハングドマンを【首吊りの絵】だと思ってましたしね」
との御言葉で慶太がとどめをさす。
「佐野さん。
いくらぐらいまでイケると思いますか?」
との慶太の問いに、
「ぶっちゃけ、10万円獲れれば両手を上げて大喜び。
100万円で日本沈没、
1000万円で地球が壊れますね」
《見込みは薄いなぁ》
心からそう思う。
「それでは参ります」
いよいよきたか。
珍回答、迷回答、期待しておりますぞ……。
「門倉麻里愛さんの
……、クイズ ミリ〇ネア」
テテテ テテテ テ〜
「次のうち、野球のポジションなのはどれ?
〈A〉〈350ml缶〉
〈B〉〈大ジョッキ〉
〈C〉〈中ジョッキ〉
〈D〉〈ピッチャー〉」
……、かっ……、簡単だ!
簡単過ぎる!
流石は1万円の問題!
誰でも解るだろう。
……、……、……、……、……、……、……。
なんだ……?
この『間』は???
「えっとぉ、あのぉ、そのぉ」
まさかまさか……。
「……、……、……お……、オーディ……、エンス……」
《はっ……、早っ!!
1万円でオーディエンスかよ!?》
「……、ファイナルアンサー?」
そりゃ訊きたくもなるだろう。
1万円でライフライン。
いまだかつて見たことも聞いたこともないぞ?
「皆さん助けてください!
ファイナルアンサーです」
……使っちゃったよ……。
『〈A〉 0%
〈B〉 1%
〈C〉 0%
〈D〉 99%』
《!?!!???!??》
居るぞ!?
〈B〉1%居るぞ!?
《た……、たすけて……。
肺が……、よじれるちぎれるはれつするぅ!!!!!!
『9番 大ジョッキ 佐野』
なんのこっちゃ!!
ぎゃはははひひひぃ!!!!
ひっ、ひっ……、ひでぶ!!!!》
まったく……。
二回死んだらどうする気だ?
実体化した俺は死ぬんだぞ?
胸から腹にかけてやたら痛みだした。
嗚呼、困ったぞ……。
「〈B〉 〈大ジョッキ〉」
はぁ!?
まーちゃんまで俺を殺す気か!?
「……、……、……ファイナルアンサー?」
慶太も必死に笑いを噛み殺している。
馬鹿な妹を持って、心から
《ご愁傷さまです》
「嘘です。
〈D〉〈ピッチャー〉
ファイナルアンサー」
ビビらすなよ!
そんなこんなで10万円。
麻里愛は想像以上に粘っていた。
金が賭かると、しぶとさを発揮するタイプらしい。
「問題。
次のうち、ブラジルの首都はどれ?
〈A〉〈サンパウロ〉
〈B〉〈ブラジリア〉
〈C〉〈リオデジャネイロ〉
〈D〉〈マルセイユ〉」
出た!
地理系!
【ファイナルプライス0¥】確定の予感が高まる。
「うぅん、たしか……」
かなり参っているようだ。
あんまん及びアルトバイエルン事件の犯人の麻里愛だ。
無理もない。
今度はどんな事件を起こしてくれるのだろう。
「マルセイユはスペインなんですよ……」
《!!
シェーーーーー!!》
マルセイユは……、
おフランスざんすぅぅぅぅ!
そうくるとは予想だにしなかったぞ。
《油断したわ!
麻里愛!!!》
無想転生を初めて見たときのラオウの気持ちがなんとなく理解できたぜ。
「マルセイユはスペインなんですけどねぇ……。
ブラジリア?
聞いたことないですね……。
リオデジャネイロってのはリオのことですよね?
サンパウロもなんか聞き覚えはあるんですよ」
俺はスペインのマルセイユなんて聞いたことないですね。
「……、……、テレフォン……」
なるほど?
10万円だけでもテイクアウトしようというハラか。
「こんばんは!
皆さんは麻里愛さんとはどういう御関係ですか!?」
「家族です!
姉の優里愛です!
兄の慶輔です!
姉の樹里愛です!
母の美和です!」
「やはりあなた達でしたか。
麻里愛さん、……、只今10万円に挑戦中です……」
「じゅうまんえん!?
ぎゃははは!!
馬鹿だ馬鹿だ馬鹿だぁ!!!!
10万円の問題でライフライン!!
有り得ない有り得ない、ありえなーい!!」
「そんなんじゃ済みませんよ?
麻里愛さん、1万円でオーディエンスです」
「ゲラゲラゲラゲラ!!!!」
「制限時間は30秒です。
どうぞ」
麻里愛が、問題を読み始める。
「次のうち、ブラジルの首都はどれ……」
「ブラジリア!
以上!
あんたねぇもっと難しい問題で電話使いなさいよ!」
問題文のみで答えたテレフォンを俺は初めて見たぞ……?
それぐらい簡単な問題だったのだが、
【あんまん】
【アルトバイエルン】
【マルセイユ】
の麻里愛さんだ。
解らないのも解る気がする。
「〈B〉〈ブラジリア〉
ファイナルアンサー」
「正解」
「凄いです!
誰がこの展開を予想できたでしょう!?」
慶太が興奮気味にオーディエンスを煽りたてる。
かくいう俺も興奮気味だ。
「1万円の問題でオーディエンスを使い、10万円の問題でテレフォンを使った女ですよ!
なんと、50:50を残して【1000万円】です!!」
そう、麻里愛は今、ミリオネアに挑戦しようとしているのだ!
《ここまできたら、獲得しちまえまーちゃん!》
こころなしか、本来ならあるはずもない鼓動というものが高鳴っていくのを実感している。
テテテ テテテ テ〜
「クイズ ミリ〇ネア!」
ついにファイナルクイズ。
「G1 NHKマイルカップ、秋華賞を勝ち、ジャパンカップを鼻差2着した名牝、ファビラスラフインの正確な名前の切り方はどれ?
〈A〉〈ファビラス・ラフ・イン〉
〈B〉〈ファ・ビラス・ラフイン〉
〈C〉〈ファビラス・ラ・フイン〉
〈D〉〈ファビラ・スラフ・イン〉」
……、……、……、サッパリ解らん。
俺でも解らん!
麻里愛は麻里愛で、呆然とあさっての方向を見つめている。
っていうか、目の焦点が合っていない。
「麻里愛さん。
テレフォンとっておくべきでしたね?
優里愛さん、J〇Aのジョツキーなんだから……」
《!!》
こいつの姉貴は騎手だったのか……。
それを【ブラジルの首都】で使ってしまったわけだ。
ここまで我慢していればサービス問題だったにも関わらず……。
《勿体ねえ……》
麻里愛はもう涙目で、
「50:50」
と言うことしかできないらしい。
「選択肢を二つに絞ります」
【〈A〉〈ファビラス・ラフ・イン〉
〈C〉〈ファビラス・ラ・フイン〉】
「あぁ!
どっちも残ったぁ!」
《考えてたのか!?》
だが、
ライフライン
【50:50】
の宿命というかなんというか、必ずといっていいほど怪しんでいたものが、ごってり残る。
どうやらその浮き目を見ているらしい。
「しゃあない、やるか!」
なにやら麻里愛は、スカートのポケットをまさぐっている。
そして取り出したるは、100円。
「表にA、裏にC!」
《嗚呼、もう、神頼み運頼みしかないのですね?麻里愛さん……》
会場全体が麻里愛の味方となっている。
―ビシッ!
宙に舞う100円。
手の甲と掌で……、挟み込む。
手の甲の100円。そこには、桜模様。
「〈C〉〈ファビラス・ラ・フイン〉」
「なぜ、Cにしたんですか?」
「100円!
100円!」
金は金で獲得……か。
当たれば伝説だな。
《100円を1000万円に変えたってな》
「ファイナルアンサー?」
「ファイナルアンサー」
「正解!!!!」
そこには抱き合って喜ぶ俺達が居た。
こうして麻里愛の
【クイズ ミリ〇ネア】
が、終りを告げた。
【門倉麻里愛、ファイナルプライス10,000,000¥】
追伸
麻里愛はその金を元手に、土地を購入。
アパートを建ててしまった。
なんとも現実的な……。
どうせだから【ホーンテッドアパート】にしちまうかな……。
END