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悪役令嬢の公務事情

作者: 月瀬小春
掲載日:2026/09/26


「う、嘘でしょう……!? 私、悪役令嬢に転生してる!!」


 その日、私は自室で叫んだ。

 おかしい。絶対におかしい!!

 だって私はどこにでもいた普通のOLで、会社帰りの一杯が至福の時間! とばかりに、会社の同僚と酒を飲みに行き、飲んで、飲んで、飲みまくって、千鳥足で帰宅したはずなのに!


 ……ちょっと待とう、ステイだ私。


 なんか今、大事なことを思い出した。

 千鳥足でフラフラ歩く私。前を横切ったにゃんこ。「あ~、可愛い、にゃんこだ~! うちにも昔飼ってたにゃんこがいるんだよ~!」なんて猫に話しかけたら、驚いた猫が道路に飛び出してしまった。そして前方から眩しいライトが当たって、そう、そうして、お猫様の下僕だった私は……。


「あっっっっ!? ごめんなさい、トラックの運転手さん! 道路に飛び出しのは私ですっ!!」


 思わず土下座した。柔らかいフカフカの絨毯で良かった! 普通の床だったら絶対に「ゴンッ!!」っていい音がしてた。反射で土下座をしてはいけない。うん、良い教訓だね!!


 ……何か話がずれてしまった。話を戻そう、うん。


 そう、起きたら何か身体が小さくなっていて、しかも髪の毛も超長くなっていて、さらに言うと、髪の毛が金髪でビビったのだ。私は典型的な日本人で、黒髪ロングが自慢でしたけど!? 私の髪はいずこへ?! という感じで、慌てて鏡台を探して駆け寄ったのだ。

 鏡を見てみれば、そこに映ってた美少女に驚いた。何と金髪碧眼、釣り目のめっちゃ可愛い美少女がいた。思わず手を振れば、鏡の中の美少女も手を振ってくれた。にっこり笑顔を浮かべたら、鏡の中の美少女も微笑んだ。あら可愛い! なんて和んでいたが、ちがう、今はこれが私っぽいんだよ! となり、もう一度鏡をじっと見た。

 そうしたら何か既視感が浮かんできて、何だったかな……。と悩むこと数秒。思い出してしまったんです。そう、私が可愛がってた後輩ちゃん。その子が貸してくれた、恋愛小説に登場する悪役令嬢だと! 確か名前は『ロイヤル・ラブ・ストーリー~あなたと紡ぐエターナル・ラブ~』とかいうクサイ題名だった気がする。略してエタラブと後輩ちゃんが言ってた。……待って、私いま、クサイ題名とか言わなかった?! ディスらなかった? ごめん、後輩ちゃん! でも正直、恋愛に興味ない私に恋愛小説とか貸すのが良くないと思うの!! 可愛い後輩ちゃんが貸してくれたんだから、と何とか読み終えたけど、ゲロ甘小説は私には無理だったよ!!


 ちょっと話が脱線し過ぎてしまった。もう一度話を戻そう。今度は真面目にね!!


 それで、見覚えがあったのは、表紙にイラストがあったのと、時折あった挿絵で度々見ていたからだった。確か小説の中身はよくある学園モノで、王太子と、特待生の枠で入学してきた平民のヒロインが出会って、恋に落ちて色々な試練を乗り越えて結ばれる。という、ありふれた設定だった気がする。……後輩ちゃん、恋に恋する乙女だったからな。大丈夫かな、悪い男につかまってないかな? なんかいつもダメンズに捕まるから、私は心配でならないよ!!

 ……いけない、また話が脱線してる! よし、話を戻そう!

 そう、それで、試練! その試練のうちの一つが、王太子の婚約者である悪役令嬢、ヴィクトリア・グランヴィル侯爵令嬢だ。この悪役令嬢は頭が物凄く良い。だからヒロインが王子と結ばれるには悪役令嬢を成績で抜かさないといけない。そして成績を抜かしたら、悪役令嬢が激怒して、本格的にヒロインを陥れ始める。最初は軽い嫌がらせから始まり、……って、そこまで説明いる? なんか面倒になってきた。よくあるテンプレと思ってくれれば話は進む! それでいこう! よし、それでは結論だけ言おう!!


 私は悪役令嬢ヴィクトリア・グランヴィルに転生してて、将来国外追放されることになる!!


「……あれ? 国外追放だけ? 処刑じゃない? あ、じゃあ別に良いのかな?」


 貴族に生まれたとはいえ、私は日本で普通に暮らしていた、ただのOLだ。たぶん一人でも生きていけるはず。


「なーんだ、心配して損しちゃった!」


 悪役令嬢に転生したと知ったときは驚いたけど、そんなにひどい未来じゃないなら、このままでいいかな? だってもう、王太子と婚約しちゃったしね。顔合わせしてないけど。つい先日、王太子との婚約が内定したよって、めっちゃ恰好いいイケオジの父親が教えてくれた。確かその話を聞いて、私、というかヴィクトリアは倒れのだ。そして起きたら、中身が私になっていた。……なんか申し訳ないな!!

 7歳の美少女の中身がアラサーのOLとか犯罪臭すごくない? 大丈夫!? でも駄目って言われても、私もどうすればいいか分からないんだよ!!

 多分、前世? の私は死んでいる。うっ、トラックの運転手さん、本当にごめんなさい!! 轢かれた瞬間は覚えてないけど、「あっ、これ無理だわ」って思ったのは覚えている。本当にすみませんでした!!


 いかん、また脱線した。駄目だ、仕事だ、OLモードを発動しよう!


「とりあえず、普通に過ごしてればいいのかな? そうだね、そうしよう。お貴族様の生活なんて体験したことないし、とりあえず普通の令嬢に擬態すればいいか。よし、それでいこう!!」


 なんかOLモードになった意味がない気がするけど、とりあえず基本方針は決まった。


 私は、普通の貴族令嬢を目指す!!



◇



 「初めまして、ヴィクトリア・グラヴィル侯爵令嬢」


 そう言って手を差し出してきたのは、プラチナブロンドの髪に、エメラルドグリーンの瞳をしためっちゃ可愛い美少年だった。この子がヒーロー役の王子様である。というか、えっ、めっちゃ可愛い……。なんか後光がさしてそうな神々しさと可愛さなんだけど!? 大丈夫? 天使とかに攫われない?? きちんとお部屋にしまっておいた方がよくない!?

 なんて考えていたところ、脳天にすっごい衝撃がきた。


「いったい!?」


 思わず叫んだよね!? 叫ばずにいられるか!!

 誰だよ、私は今や侯爵令嬢なんだぞ! と思って後ろを振り向いたら、笑ってない目で笑っているイケオジパパがいた。あっ……、と察してしまい、咄嗟に口元を覆う。


「セオドア殿下、申し訳ございません。躾が行き届いていない娘で、ご不快な思いをさせてしまいました」


 あ~~~!! やらかした! やらかしましたのね、わたくし!?

 転生したと自覚した時から、なんかお口がゆるっゆるなのよ! パパンとママンにめっちゃ驚かれたけど、高熱で寝込んだ影響が……。と勝手に誤解してくれたから良かったんだけど! それ以来、思ってても口に出さないように、ときつく言われていたのに、よりにもよって王子様にやらかしてしまった!! でも待って、言い訳させて欲しい。以前はこうじゃなかったんだよ! ちゃんと心の中にしまっておけた言葉たちが、次々と口から出て行っちゃうんだよ!! はっ!? もしやこれは年齢のせいでは? ほら、よく言うじゃない。幼い身体に引っ張られて感情が、とか、涙が……、みたいなやつ! あれと同じかもしれない! そういうことにしておこう、うん!!

 ちなみに、私の記憶が戻ってくる前のヴィクトリアちゃんは傲慢で我が儘なお嬢様だったらしい。そして今現在の私である。性格があまりにも違うことに両親も初めは動揺したし、母親は泣いていたりした。けれど、子供のころから厳しい教育をしてたから、もしかしてその反動も出てしまったのかもしれない……。そんなふうに反省していたよ。

 しかし、私は待ってくれと言いたい。ヴィクトリアちゃん、まだ7歳だぞ?? この年で教育詰め込み過ぎるって、虐待ではないのか? だからヴィクトリアちゃんの前世の私が蘇ったのでは? なんかそんなふうに思ってしまった。ついでに言っておくと、その詰め込み教育を反省したのか、今は大分緩くなっているらしい。あと、私がお嬢様らしかぬことをしても、「ヴィッキーは本当はこんなふうに過ごしたかったのかもしれないな」って言って、見守ってくれている。両親はヴィクトリアのことをきちんと愛していたし、可愛がってくれてるみたいなんだよね。ただ、あまりにもヴィクトリアが出来が良すぎて、ついあれもこれもってやっちゃったみたい。そこは本当に反省して欲しい。

 父親に強制的に頭を下げさせられている状況で、脳内でそんなことを考えていたら王子様が顔を上げてください、と言ってくれた。なので顔をそっと上げて王子様を見る。


「お気になさらず。おも、元気なご令嬢なのですね」


 今この王子様、面白そうとか言い掛けなかった? いや、そう言われても仕方がないんだけどね?! しかし、私だってやればできるのだ! 王子様のあまりの美少年っぷりにきょどっていたが、私だって! やれば! できるんだからね!!

 という訳で。


「お初にお目にかかります。先ほどは大変失礼致しました。グラヴィル侯爵家の長女、ヴィクトリアと申します。殿下にお目にかかれて恐悦至極に存じます」


 そう言ってカーテシーをする。どうだ、私だってやればできるんだぞ!

 内心でそんなことを考えていたが、とりあえずイケオジパパからの追撃はなかった。良かった、及第点らしい。

 けれど、ほっとしたのも束の間、じゃあ後はお若いお二人で、って言われて庭園に放り出された。マジで?? お若いお二人でって本当に言うんだ。というか、お若いどころじゃなく、こちとら7歳のお子様なんだけど。


「ヴィクトリア嬢、どうぞお手を。庭園をご案内します」


 えっ!? こんな美少年の手を握っちゃって良いの?? 私捕まらない? というか犯罪臭すごくない!?

 YESロリショタNOタッチ!! という言葉を知らんのか!? えっ、知らない?? うっそ、マジで? もう古い?? 


「ヴィクトリア嬢? どうかされましたか?」

「えっ!? す、すみません、緊張して手汗がっ!!」


 やばい、また話し聞いてなかった! とりあえず誤魔化そうとしたら、言葉のチョイスが酷かった。なんだよ手汗って! 貴族令嬢だぞ、私は!? あっ、すみません、その私が言ったんですね、はい。これもしかしてヤバくない? え、もしかして、これ婚約破棄の流れいっちゃう? もしや最初から流れぶっ壊してない、私??


「……ふっ、ふふっ、あははは! ヴィクトリア嬢は、面白い人ですね」

「さっきは誤魔化そうとしてたのに、もはや誤魔化さなくなった……、だと?」


 思わず真顔で言ったら、さらに殿下が笑い始めてしまった。えええ? なにこれ、ひどくない?? というか待って、今思い出したんだけど、ヴィクトリアとセオドア殿下の初対面ってかなり最悪でギスってなかった? なんか頭が良いヴィクトリアが「わたくしの足を引っ張らないでくださいましね」とかセオドア殿下に言い放っちゃうシーンがあった気がする。それでセオドア殿下も何だこいつってなっちゃうんだよね。うん、分かる。確かにヴィクトリアの言動は初対面の、しかも婚約者に向けて放つ言葉じゃないもんね。

 

 ……あっ!? 今思ったけど、もしかして私もそれ言わなきゃいけなかった!?


「とりあえず、いつまでもここにいると不審がられるから、庭園に行きましょうか」

「……はい」

 

 え~~、ヴィクトリアのセリフ言うの無理だよ~! とか思ってたら、セオドア殿下に手を引かれて移動することになった。マジで手汗でてる気がするんだけど、大丈夫??


「ヴィクトリア嬢は、噂で聞いていたよりもずっと付き合い易いですね。安心しました」

「ええと、それは……、どうもありがとうございます?」


 いや、まあ、私の意識が目覚めるまではなんかすごい令嬢だったみたいだから、やっぱりその噂もたってたんだろうなぁと思う。だからこう言われるのは多分仕方がないのだろう。


「すみません、高熱で寝込んでから、目が覚めたらなぜかこうなってしまっていて……」

「うん、その辺りの事情は侯爵から聞いているよ。でも良かった、今の君となら、上手くやっていける気がするよ」


 そうか、父からきちんと説明はされてたのか。考えてみたら当たり前だよね。まっとうな貴族令嬢してたヴィクトリアの中身が、こんなだるんだるんなアラサーOLになっちゃったんだもん。婚約が調っちゃってたし、きちんと王家に報告はするよね。

 でも、私は思いついてしまったことがある。もしや今の段階で婚約をなかったことにすれば、将来私が国外追放されることもないのでは? いや、別に国外追放されても良いんだけど、されないにこしたことはないじゃない? だって侯爵家のご飯美味しいし、イケオジパパと美魔女ママがいるんだよ!? 目の保養だよ!! できるなら私はずっとあの家にいたい!!

 そんなことを考えついたので、早速とばかりに聞いてみた。


「あの、婚約解消とかしません?」

「なぜだい?」

「いえ、あの、今の私に王太子妃とか務まらないと思うので……」


 そう、だから解消すると言ってくれ! 今ならまだ、高熱で寝込んだ影響が……、で通じるから!!


「うん、却下で」


 駄目かぁ~!! セオドア殿下、めっちゃいい笑顔だった! めっちゃ可愛い笑顔で「却下で♡」って言ったよ!! いや、♡は私の幻聴だけどさ!


「これから少しずつ学んでいけばいいし、何より」

「……なにより?」

「ヴィクトリア嬢といると、飽きなさそうだからね」

「……さようでございますか」


 あ~~~!? こ、これはあれでは!? オモシレー女。フッ。枠を私がかっさらってしまったのでは!? ごめんよ、ヒロインちゃん! 確か君もオモシレー女枠で尚且つ努力家で天真爛漫な枠だった気がする! いや待て、私が獲得したのはオモシレー女枠だけだ。きっと他の努力家と天真爛漫枠で、セオドア殿下もヒロインちゃんに惚れてくれると思う! だから後ろから刺すのだけはやめてね!!


 こうして、なぜか婚約解消されることなく、私はセオドア・アルヴェイン王太子殿下の婚約者でいることとなった。


 ……今にして思うと、殿下のフルネーム言ったの今が初めてだな? ごめんよ、言うの忘れてた!!



 ◇



 はい、ヴィッキーちゃん10歳です! うっ、自分で言っててきつい。

 とりあえず、あれから私は無難に侯爵令嬢と王太子妃の教育を受けている。初めは私で大丈夫なんか!? と心配でたまらなかったんだけど、言わせて欲しい。


 ヴィクトリアのポテンシャル、マジですごい!!


 本は一度読んだだけで、完璧に覚えてる。しかも本のタイトル、何ページに何が載ってたまで覚えてられるんだよ。見たものも、人の名前も、誰がいつどうして何をしたまで、完璧に覚えてる。これあれじゃないかな、超記憶とかいうやつ。もしかして、王家はこれが欲しかったのかもしれない。私は侯爵令嬢だけど、実は同じ年の公爵令嬢もいるらしいんだよね。しかも王家の血が久しく入っていないらしいから、普通だったらその公爵家のご令嬢がセオドア殿下の婚約者に選ばれていたはず。でも実際、選ばれたのは私というかヴィクトリア。王家がこの超記憶を欲していて、だからヴィクトリアとセオドア殿下の婚約が調った気がするんだよね。

 けれどね、言わせて欲しい。


 どんなに記憶力が良くても、それを持ってるのが私の時点で、宝の持ち腐れなんだよ!!


 記憶は出来るんだけど、いつ、どんな場面で使えばいいのか分からない! こちとら前世普通のOLだぞ!? あとね、記憶は出来ても、覚えたものができるかというと、できない。例えば王族にふさわしいマナーの習得。侯爵令嬢としてある程度教育受けてたし、身体が覚えていたからその辺は何とかなってたけど、さすがに王族のマナーは無理だった。これはもう練習あるのみしかない。現実は甘くないってやつだよ。超記憶があるって分かったときは、ヒャッホイ、今世は勉強しなくていいじゃん、楽勝モードじゃん!! 何て喜んでたのに、甘かったよね。

 あとは外国語の発音は、やっぱりこっちも練習あるのみ。読み書きはすぐにマスターできたけど、如何せん発音がね……。だって聞いてよ、私の前世の英語の成績2だったんだよ。ちなみに10段階評価ね! 私は日本から出ない!! 日本に来る外国人が日本語話せ!! って怒りながら泣いてた記憶がある! まあ、私がOLになるころには翻訳機も性能が良いの出てたから、もうそれでいいじゃんってなったしね!

 という訳で、私の教育は主に外国語の発音を習得するのに時間がかかると早々にバレてしまったので、もっぱら発音練習をすることが多かった。読み書きは出来るんだよ、読み書きは!! もう筆記会話でいいじゃん!

 ……駄目? ですよねぇ~!!


「ヴェア、ボ、…ボル、ェル?」

「ぶふっ」

「テオ様、邪魔するならお帰りください!」


 帰ってどうぞ!! とばかりに扉の方を指させば、セオドア殿下は肩を震わせて、ごめんねのポーズをする。くっそう、可愛いな!?


「いや、ごめんごめん。ヴィッキーがあまりにも可愛いから、ね?」

「ね? じゃないんですよ! 私は真剣なんですからね!!」

「うんうん。そうだね。発音に苦しんでるヴィッキーも可愛いよ」


 くっ……。自分の顔が良いのが分かってて、ここぞとばかりに可愛い顔で笑って! 可愛いなもう!!!

 会話から分かるように、セオドア殿下とはずいぶん打ち解けた。私がところどころヘマをやらかして、令嬢らしかぬ発言しちゃうんだけど、セオドア殿下は二人だけの時なら気にしなくていいよって言ってくれた。むしろ、二人だけの時はそのままが良いんだって。オモシレー女枠ですね、分かります。でも私にとってはありがたい話だったので、殿下を拝んでおいた。だって未だにお口がゆるゆるなんだよ! 気を抜くと口から言葉が勝手に出てくから、セオドア殿下が許可をくれてめちゃめちゃありがたかった。なお、拝まれたセオドア殿下はお腹を抱えて笑っていた。……おかしいな、小説の中のセオドア殿下は笑い上戸じゃなかったはずなんだけどな? そう思ったけれど、まあ、可愛い美少年の笑顔が見られるので気にしないことにした。

 ちなみに、ここは王城で、王太子妃教育の最中である。王太子妃教育と言っても、もっぱら語学が優先されている。あとは諸外国の歴史とかマナー、その辺り。語学がある程度ものになったら、外交・国際関係、国内政治・経済、王国の歴史・法・制度、と順を追っていくみたい。でもほら、私には超記憶というめっちゃ便利なものがあるからね。王国の歴史・法・制度はこれを読んでおいてくださいね、って分厚い本を渡されている。やっぱり王家は超記憶が目当てかな? まあ、別にいいんだけどね。でも確かに、きちんと教育を受けないと本当に超記憶が宝の持ち腐れになっちゃうから、勉強しないといけない。それに国外追放されても、これらの教育が無駄になることはないしね。

 

「は~~、暗記なら得意なのに、語学の会話がきついです……」

「そうは言っても、読み書きはもう完璧だろう」

「それはそうですけど……。でもテオ様、語学に限らず、暗記できても私、それを役立てられる気がしないです」

「それは慣れだね。それに、これからその教育をしていくんだから、大丈夫だよ」

「うぅ、大丈夫だといいんですけど……」


 実際のヴィクトリアならきっと難なく使いこなせていたんだろうな。そう思うと、中に入ったのが普通のOLで申し訳ねぇ! という気がすごくする。あ、でも待って! なんか今良い案思いついた!!

 ちなみにテオ様っていうのはセオドア殿下の愛称ね。なんか愛称で呼んで欲しいって言われたから、そう呼んでる。あの時の殿下は少し恥ずかしそうに、はにかみながら言ってきて、その様子がほんっとうに可愛かった! 鼻血出るかと思ったよ! 思わず、「お巡りさん、私です!!」って叫びそうになるくらいには可愛かった!

 ……て、違う、話がずれた!!


「そうです、テオ様! 私、テオ様専用の生き字引になるので、テオ様が私の記憶活用してください!」


 そうすれば有効活用できるのでは!? 私ってばあったまいい!! なんて自画自賛してたら、セオドア殿下が机に突っ伏して震えている。これはあれだな? 笑い死んでるな?? なんか最近セオドア殿下が笑い転げてるのがデフォルトになって来た気がする。嬉しいような嬉しくないような、複雑な気分です、はい。


「ふ、ふふふっ、あははっ。い、生き字引! もう、ヴィッキーは本当に面白いこと言うね!」

「そうですかね? 自分で活用できる気がしないので、だったら活用できそうな人に委ねるのも手だと思うんですよね」

「そうだね。……それにしても、生き字引か。じゃあ、ずっと僕の隣にいてね? ね、ヴィッキー?」

「??? そりゃまあ、婚約者ですし、結婚すればそうなるのでは?」


 本当に結婚したらの話だけどね。いやだって、将来婚約破棄されて国外追放になるんでしょう? まあ、ずっと隣にいるのなんて、もしもの話だよね。

 何てことを思ってたんだけど、なんかセオドア殿下の笑顔が意味深に思えたのだけど、何なのだろう。私の返事に機嫌よく笑っている。本当に何なんだ??

 そう首を傾げつつ、私は発音の練習に戻ることにした。だって今はセオドア殿下に構っている暇はないのだ。私は一刻も早く、外国語をマスターしたい! なぜなら、一ヶ国語をマスターする度に、その国のお菓子や料理を取り寄せてくれることになってるから! 食べ物に釣られてるって? 美味しいものは正義なんだよ! 日本人なら分かるでしょ!! 食に対する執着が半端じゃないって!! そんな訳で、私は外国語をマスターするのに必死なのである。

 ちなみに、どんなに頑張っても、やっぱり発音が上手く行かず、他の教育は進んでいくのに最後まで語学が私の敵だったことを、言っておく!!

 もうヤダ~~!!



 ◇



 そんなこんなで、ついに学園に入学しました! ヴィクトリア16歳です!!

 あ、ちなみにヒロインちゃんが登場するのは来年からです。平民の入学は17歳からなんだよね。一応16歳の現在で、すでに学園の合格通知は渡されてはいるみたい。学園に通うためのマナーとか貴族たちとの付き合い方とか、教育水準を合わせるための下準備とかで、一年かかるらしい。その辺は詳しく説明受けてないし、エタラブにも載ってなかったから分からない。……エタラブで合ってた? やばい、前世の記憶は超記憶には関係してないらしくて、なんか段々朧気になってきちゃってるんだよ。だって前世普通のOLだったんだよ? それが9年前の話なんだから、覚えてなんていられないって!! まあそれはともかく、とりあえず、あと1年は普通に貴族令嬢でいられるということだ。よし、今のうちに美味しいものをいっぱい食べておこっと。


 そうそう、不思議に思ってることがあるんだよ。

 なんかちょっとおかしいな? と最近思い始めてきたの。セオドア殿下はすでに王太子として、公務を14歳くらいの時から始めてるんだけど、なんと私には公務がないのだ。15歳でデビュタントをしてから、次期王太子妃として外国から来た賓客をセオドア殿下と一緒にもてなしたりとか、そういう外交の公務はあるんだけど、それ以外がまったくないんだよね。セオドア殿下は忙しくしているのに、婚約者である私がこんなに暇してて良いのかな? そう思うくらいには、暇なのだ。何せ超記憶の持ち主なので、一度体験すれば覚えていられるから、教えることはもうほぼない状態なんだよ。あとは実践あるのみですねって教育係が言ってたのに、その実践がないんだよね。これはどういうことなんだろう? と思わず首を傾げてしまう。

 ……あっ、待って。なんか今、すごいことを思いついてしまった!


 公務を任されないのって、もしかして信用されてないのでは!? 私が悪役令嬢だから!?


 そんなことを思いついてしまった! えええ、そうだとすると、すごいショックなんだけど! いずれ婚約破棄されることは分かってるけど、今のところ仲良くやってきたと思ってたのに。セオドア殿下はそうじゃなかったってこと? ううぅぅ、何それ、ショック。私は仲が良くなってたつもりだったのに、とんだ独りよがりだったってことじゃない。ヒロインちゃんが登場してから、セオドア殿下との仲が悪くなっていくのかと思ったのに、そうじゃないってこと?

 ……それはちょっと、寂しいなぁ。


 なんて、くよくよしてたのが良くなかったのかな。


「ヴィッキー、最近元気がないけど、どうしたの? 誰かに何かされた? もしくは言われたのかな? どこぞの筆頭公爵令嬢とか公爵令嬢とか公爵令嬢とか」

「テオ様、それ実質一人を名指ししてませんか?」

「最近うざ、んんっ、しつこいからね」


 いや、今思い切りウザイって言いそうになってませんでした? セオドア殿下、私と一緒にいるうちに私の口のゆるさ移ってきちゃってない? 大丈夫?

 はあ……。こんなふうに仲良くなってると思ってたのに、私だけだったのかぁ……。


「……ヴィッキー、本当にどうしたの? 溜め息を吐くなんてヴィッキーらしくもない。僕のケーキの苺あげるから元気を出して。はい、アーン」


 差し出された苺を思わずパクリと食べてしまった。うっま!!


「ふふ、ヴィッキーは相変わらず美味しそうに食べるね」

「実際美味しいですからね。シェフに今日も美味しかったですとお伝えください」

「うん、あとで伝えておくよ。それで、どうしたんだい?」

「いえ、たいしたことじゃないです」

「それを決めるのは僕だからね? それで、何で溜め息吐いてたの?」


 おおう、グイグイ来るな、セオドア殿下。う~ん、ここはもう、ズバっと聞いちゃった方が早い? それで信用できないからとか言われたらやっぱりショックなんだけど……。いや待て、そうしたら、それはそれで距離を置けばいいのかな? だって来年にはヒロインちゃん来るわけでしょ? そうしたら、セオドア殿下とこうして二人でいることもなくなっていくんだろうし。

 ……慣れていかなきゃ駄目だよね。うん、じゃあ、思い切って聞いてみよう!


「いえ、あのですね。テオ様はもう公務されてるじゃないですか?」

「公務? うん、そうだね、しているね?」

「ですよね。それなのに、私に公務こないじゃないですか。それが、何でかなぁって……」

「……うん?」


 あれ、何でそんな何言ってるんだこいつみたいな目で見られてるの?

 えっ、私何かおかしなこと言った??


「今のところ、私はテオ様の婚約者じゃないですか?」

「今のところも何も、実際に婚約者だし解消する予定はないからね?」

「まあ、それは置いておいて。婚約者の私に公務が回ってこないのは、私が信用されてないからなのかなと……。そう思ったら、少しショックでして……」

「いやいや、婚約者のところ、置いておかないでくれる?」

 

 はあ~、とセオドア殿下が長い溜め息を吐く。

 ええええ??

 そんなにおかしなことを言ったつもりはないんだけど。そう首を傾げていたら。


「とりあえず説明するから、場所を移そう」


 そんなことを言われて、庭園でのお茶会が終わってしまった。私のケーキ!! と恨めし気に眺めていたら、お土産に持たせてくれると、またしてもセオドア殿下が溜め息を吐く。言質は取りましたからね!!

 そんなこんなで、場所を移動しました。なぜかセオドア殿下の私室にいます。初めて入ったよ、王族の私室。というか良いのか、私が入って。二人きりとか、マジで良いんか??


「それで、ヴィッキーは公務が回ってこないのは、僕が君を信用してないからだと思ってたの?」

「違うんですか? だって、テオ様はもう公務してるのに、私には一向に公務が回ってこないから……」


 だから信用されていないのかなと思ったのだ。何せこちとら超記憶の持ち主だ。一回見たら絶対に忘れない。だからこそ、信用ならない人間に仕事を任せられないと思ったのでは?

 そんなことを言ったら、「違うからね?」と再び溜め息を吐かれてしまう。あんまり溜め息を吐くと、幸せが逃げますよ!


「そもそもの話、ヴィッキーであろうとなかろうと、まだ婚約者の段階で任せる公務はないんだよ」

「……はい?」


 えっ、マジで? だって前世の後輩ちゃんから押し付けられた数多の恋愛小説では、ドアマットヒロインとか悪役令嬢がヒロイン+αをざまぁする話とか、そんな感じの話では王子様の婚約者、思い切り仕事しまくってましたけど? 現実は違うってこと??


「いいかい? 婚約者は婚約者であって、結婚するまでは王族じゃないんだよ。僕がしているのは、王族にしか出来ない公務だ。そして将来王太子妃になる君に回って来る仕事も、王族の仕事となる。なら、まだ王族ではない君に、回せる公務はない。ここまではいいかい?」

「……言われて見れば?」


 なるほど? 確かに、私は今現在セオドア殿下の婚約者とはいえ、侯爵令嬢だ。なら、セオドア殿下の言う通り、王族ではない私ができる仕事はない。……言われて見れば、そうかも? あっ!? やだ、もしかして私、後輩ちゃんの恋愛小説に毒されてた!? あれはフィクションだから許されるのであって、現実世界では許されない話だったのかも?! ……いや、待って欲しい。そもそもここはエタラブの世界じゃないか。じゃあ、やっぱりここもフィクションの世界なのでは?

 ……最終的には何が正しいんだろう?? って思ったけど、セオドア殿下が言ってたわ。なるほど、エタラブの世界では、婚約者はまだ王族ではないから公務を任せることができない。これが正解ですね、了解!!

 そんなふうに内心でうんうん頷いていた私に、さらにセオドア殿下は畳みかけるように説明してくれる。


「今の君に任せる公務があるとすれば、外交だよ。この前もエファーユ国の大使を一緒にもてなしただろう? ああいう外交については、次期王太子妃として顔見せの意味もあるからね。今から任せるようになっているんだ」

「あっ、なるほど!」


 言われて納得してしまった。というか納得しかなかったね!


「そもそも、婚約者の段階で公務を任せることになってみなよ。婚約が破談になったとき、婚約者の令嬢は幽閉か毒杯コースだよ」

「えっ!? な、何でですか、すごい不穏なんですけど!?」


 なんでその2択しかないんだ! 普通にお家に帰すんじゃ駄目なの!?


「何でと言うけれど、王族の公務だよ? そこには当然、機密情報があるに決まっているじゃないか。そんなものを目にしてしまった令嬢を、婚約が破談したからと言って、野放しに出来るはずがない。だから機密情報を目にしてしまったら、幽閉か毒杯しかないんだよ」

「うわぁ……」


 めちゃめちゃシビアな世界だった。でも言われて見れば、確かにそうか。機密情報を見てしまった婚約者の令嬢が、国外の人と結婚なんてしたら機密情報が外に流出する恐れがあるもんね。……うわっ、めっちゃ怖い!! 良かった、きちんとその辺を考えてくれてる王家で!!!

 そんなふうに思っていたら、セオドア殿下の言葉はまだ終わっていなかった。


「それに、婚約はあくまで婚約でしかないんだよ。国際状況によっては他国の王女との婚姻が必要となる場合があるかもしれない。そんな、婚約者の令嬢に非がまったくない状況で破談になったときに、婚約が破談になったからと言って、婚約者だった令嬢を幽閉か毒杯かなんて、理不尽極まりないだろう? 令嬢にはなんの非もないのに、公務をしていたが故に機密事項に触れてしまい、令嬢を処分せざるを得なくなる。そんな勝手なことが許されるはずがないんだよ。第一、そんなことが実際に起こったとすれば、令嬢の生家が黙っていないだろう」

「た、確かに……」


 そりゃそうだ。婚約者に非がなかった場合で幽閉とか毒杯になったら、生家が黙ってないもんね。いやぁ、納得だわ!


「あと、これは僕の考えだけど。ただの婚約者に公務をさせようと思う方が、どうにかしていると思うんだ」

「……と言いますと?」

「婚約者はあくまで婚約者なだけで、まだ自分の家の者ではない。他家の令嬢だ。それなのに、将来的に嫁ぐからと言うだけで、まだ他家の令嬢に嫁ぐ前から仕事をさせていいはずがない。僕はそう考えているんだ」

「あ~……。言われて見ると、そうかもですね」


 いや、セオドア殿下、めちゃめちゃしっかりしてるね!? これで16歳でしょ? もしかして前世OLの私よりしっかりしてるんじゃない? ……いや待て、この件は考えないようにしよう。私が悲しくなるからね!!


「納得した?」

「しました!! 謎は全て解けました! スッキリです!」

「うん、それなら良かった」


 セオドア殿下がにこっと笑うので、私も釣られたように笑顔になる。

 とりあえず、私が信用ならない云々じゃないのが分かって良かった。何せセオドア殿下から信用されてないんじゃないかと思ったら、ちょっと寂しかったからね!


「それにしても……」

「はい?」

「ヴィッキーはそんなに公務がしたかったの?」

「えっ!? いや、違いますよ、ただどうしてだろうって思ってただけです!!」


 おっと~? なんかおかしな流れになって来たぞ?? 違うんです、断じて仕事がしたかったわけじゃないんです!! 私は侯爵家でぐーたらしながらお猫様と戯れてるのが幸せだから! あ、そうそう、猫飼ってもいいよってイケオジの父が許可してくれたので、飼い始めました!! なぜかイケオジの父はこの子飼いたい! と言ったら顔が引き攣ってたけど、そんなこたぁ私には関係ない。ビビっと来たんだよ!! そんな訳で、お猫様の下僕生活再びです!! めっちゃ幸せ!!

 なんて、そんなふうに思考を飛ばしてたのがいけないのか。


「ヴィッキーが公務したいっていうなら、公務できる状況にしようか」

「えっ!?」


 何かセオドア殿下の笑顔、めっちゃいい笑顔なんだけど、何で!?

 私なんかした?!


「いやいやいや、待ってください! 私、幽閉も毒杯コースもイヤなんですけど!!」


 だってゆくゆくは婚約破棄するんでしょ?! それなのに公務なんてしちゃったら、私は毒杯コースの未来しか見えないんですけど!?

 そんなことを考えてたら、セオドア殿下が再びにこって笑った。

 ……待って、今なんか背筋が冷えたんだけど。


「大丈夫だよ。公務をしても、大丈夫な状況を作れば良いんだから」

「ちょ、ま、待ってください、テオ様。何でにじり寄って来るんですか!? ままままって、何で私の腕掴んでるんです!??」

「ねぇ、ヴィッキー?」


 ひぃっ! めっちゃ怖いんですけど! ていうか何か怒ってません!?


「既成事実。作っちゃえば、もう結婚するしかないよね?」

「きせっ……!??」


 はああああああああ?? ままままって、何言いだすのこの王子様!?

 あ、待ってください、やめて抱き上げないで!!

 なんで!? どうしてこの部屋ベッドあるの!? あっ、ここセオドア殿下の私室だった!! ま、まさか、最初からこれを見越して私室に移動したの!?


「ま、まっ、テオ様、ま、はな、話し合いましょう!?」

「ヴィッキー? 婚約破棄なんて、させないからね?」

「ひょあっ!?」


 何でそれを!? えっ、待って、いま婚約破棄って言った?

 えっ、セオドア殿下の言い方だと、私が婚約破棄を言いだす流れになってるの!? なんで?!


「前々から、ヴィッキーは婚約破棄がどうとか、婚約解消がとか言ってたもんね? 既成事実作っちゃえば、もうそんなこと言い出さないでしょ?」

「ピッ……」


 うっそでしょ!? 私また、お口からゆるゆる言葉垂れ流してた!?


「ち、ちが、ちがうんです! 話し合いましょう!!」

「大丈夫だよ、ちゃんと責任とって結婚するから。むしろ結婚するための既成事実だし。ちょっと結婚するのが前倒しになるだけで、予定は変わらないから。ね?」


 あっ!? 駄目だ、セオドア殿下、目がマジだ!! こ、これは本気で怒っているときの顔!!

 筆頭公爵令嬢が私に突っかかってきて、私にお茶をぶっかけた時に本気で怒った顔と同じですねありがとうございませんでしいやいやいや待ってっ!!


「僕と結婚して、幸せになろうね? ね、ヴィッキー」


 あああああああ!!!

 良い笑顔で! 私の! 服を!! 脱がさないでええええ!!! 



 ――暗転。



 正直なところ。


 セオドア殿下を恋愛対象として見れなかったわけなんですが。なんせこちとら前世からの年齢を加味すれば精神年齢アラフォーなわけで……。ヒロインちゃんと結ばれるんだぁ、幸せにね~! という気分でしかなかったし、私がセオドア殿下と結婚とか犯罪臭がすごくない? としか思えなかったんだよね。

 でもねぇ……。

 なんか、セオドア殿下、私のこと好きだったらしくて。私が婚約破棄とか婚約解消とか呟くたびに、いつか本当に私との婚約がなくなるんじゃないかと思ってたって、すごい不安そうに言われちゃってさぁ……。泣きそうな顔で言われちゃったら、なんかこう、セオドア殿下が愛しく思えて、キュンとしちゃったんだよねぇ。いや、絆されたのではっていう自覚はあるんだよ。でももう、9年近くずっと一緒にいた相手だし。私も、知らないうちに情が湧いちゃってたのかもしれないって、思うんだよね。

 将来、ヒロインが現れた時にどうなるかは分からないけどさ。セオドア殿下は本当に私と結婚する気みたいだし。そうしたら、物語が狂っちゃうんだけど、私のことが好きってセオドア殿下が言っちゃってる時点で、もう物語が狂ってるのは確実だし。ならもういいかなって思っちゃったんだよね。それに、セオドア殿下なら、もし本当にヒロインに惚れちゃって、ヒロインと結ばれたいと思ったとしても、そんなに私のことは悪くしないんじゃないのかなっていう思いもあるんだよ。それなりに彼のことは、理解してるつもりだからさ。

 だから、まあ。


「……責任取って、幸せにしてくださいよ?」

「うん。絶対幸せにする、ヴィッキー」


 これくらい言うのは、許して欲しい。

 

 

 と、まあ。そんなわけで、学生結婚しました!

 なんとこの国、16歳から結婚可能だったよ。私が結婚できる年になるまで、ずっと待ってたんだって笑うセオドア殿下がちょっと怖かったから、ソウデスカ、とだけ言っておいた。藪をつついて蛇を出したくないからね!!

 あと、結婚して晴れて王族となった私にも公務が振られるようになりました。……別に公務をしたかったわけじゃないんだけどなぁ!?? そう叫びたかったけど、私の隣で幸せそうに笑ってるセオドア殿下を見て、溜め息を吐くことしか出来なかったよね。ちなみに、前世OLだった私は普通の一般事務だったので、一般事務を無難にこなす程度の能力はある。それくらいまでしかないと言われれば、それまでなんだけどね!!

 あと、今は籍だけを入れてる状態なんだけど、そのことは公表してる。きちんとした結婚式や披露宴は、私たちが学園を卒業したら大体的にやるんだって。私のイケオジパパは既成事実作ったセオドア殿下にめちゃめちゃ怒ってたし、国王様はいつかやらかすと思ってたんだ……。みたいな感じで胃を抑えてた。セオドア殿下を信用してなかったから、監視をつけてたはずなのに! って国王様が嘆いてたけど、セオドア殿下は良い笑顔で笑ってた。多分殿下が何かしたんだと思う。怖いから聞かないけど。あ、あと、侯爵家で飼い始めたお猫様は結婚に伴い、居を王城に移してもらったよ! お猫様が王城に移らないなら私も移らない!! って泣きながら言ったら、あっさりいいよって許可が出た。マジか。基本的に動物禁止だと思ってたから、かなり嬉しかった! お猫様は私よりセオドア殿下の方が好きみたいで、私としては殿下にジェラシーを感じてしまう。未だに私の膝の上には乗ってくれないのに、何で殿下の膝の上には乗るの!? くそう、可愛いな!! さすがお猫様!!


 なお、次の年に入学してきたヒロインちゃんは、なんと転生ヒロインだったらしくて。


「なんで悪役令嬢とテオ様がもう結婚してるのよ!? バグってんじゃないの!? あんた、あたしのテオ様に何したのよ!!」


 なんてすごい剣幕で怒鳴りつけてきたものだから、危険人物&王族侮辱罪が適用されて罪人となった。「おかしいじゃない、こんなはずないのに!」って泣き喚いてたけど、セオドア殿下と結婚して、すでに王太子妃となってる私に暴言吐けば、そりゃあ王族侮辱罪になるって……。頭弱かったのかな、あのヒロインちゃん。あの様子だと、原作通りに行くのも無理だったんじゃない? だって原作では悪役令嬢より上の成績を取らないといけないんだよ? 無理でしょ。ちなみに、原作の悪役令嬢が超記憶の持ち主だったのに、なぜ国外追放で済んだかというと、ヒロインに嫌がらせをする過程で、事故で悪役令嬢も巻き込まれて、頭を負傷してしまうんだよね。それで、記憶に障害が残っちゃって、一日の記憶しか保てなくなっちゃうんだよ。この状態で国外追放だから、実質死刑も同然だったと思う。

 ……待って!?? 今気付いたけど、私はそんな条件の国外追放を受け入れようとしてたの!? うっわ、怖っ!! ヒロインちゃんに過度な嫌がらせしなきゃ普通に大丈夫でしょ! とか思ってたけど、超記憶を持ってる段階で絶対野放しにしてくれないやつじゃん!! 良かった、もしかしたらセオドア殿下と結婚できてラッキーだったのでは!?

 そんなことを考えて、ほっと胸を撫で下ろした。まあ、私も好き好んで国外追放になりたかったわけじゃないし、ヴィクトリア・グランヴィルにとっては、幸せな終わり方なんじゃないかな。


 そんなわけで、これはこれで、私は幸せだよ!!


婚約者でしかない令嬢が、公務をやるのはおかしいのでは?と常々思っていたので、そこをテーマに書き始めた話でした。

お読みくださってありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
元々の設定と違う悪役令嬢にヒーローが惚れてヒロインの思惑が外れる話はたまにあるけど、ヒロイン登場の段階で既に結婚してるって新しい! 婚約者が公務をするっていうのもなんだかな…とは前から思っていたので、…
〉婚約者でしかない令嬢が、公務をやるのはおかしいのでは? ですよね〜。挙句、婚約破棄しておいて幽閉or毒杯とか横暴過ぎるでしょ。 それを是として娘を責める親も滅びてしまえ! とか常日頃思っていたので…
頭弱かったのかな、あのヒロインちゃん ↑ それは確かだけど主人公も大概やぞ?wwww
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