7 アクアパッツァ
取材旅行の最終日の夕食はアカジンのアクアパッツァが振る舞われた。
「これ、莉子ちゃんが釣ったんやで」
なぜか三木が自慢そうに言った。
「すごいねぇ、莉子さん。こんな大きな魚は釣ったことないも見たこともないわ」
珍しく諏訪が口を開いた。
「莉子さん、取材はできた?」
「はい、私なりには満足しています。もう一つだけ聞きたいことあります」
「治安のあまり良くない国に行って怖い目にあったことはありますか?」
「さぁ、私はよく知らないわ。奈央ちゃんに聞いた方がええんやない?」
「私自身が怖い目にあったことはないよ。せやけど、ファミリーのメンバーが怖いことするのは見たことがある」
三木が答えた。
「何年か前のクリスマスに先生抜きでB国に行ったことがあるんや。ちょうど先生がれなさんの友達とクリスマスパーティがあるからいうてな。そんときに臨時で雇うた現地の医者が前払いのお金持って逃げてん。お金入れてあるバッグにはGPS着けたから、場所は特定できるねんけど、なんせB国のDいうたら人の数がすごいねん。そこから車で逃げた医者のとこまで行くんが大変でやな。そいでもなんとか追いついたら、今度はスラムの方に逃げ込もうとしたんや。スラムに入られたら探しようがないから、直前で、誰とは言わんけど、ファミリーのメンバーが拳銃でその医者を撃ってん。射撃の腕前は確かなはずやのに、一発で殺さんとわざと足撃ったんや」
主税が苦笑いをした。構わずに三木は続けた。
「ほな当然倒れるやろ、倒れたらそばまで行って、今度は反対側の足を撃ったんや。それから腕やら肩やら致命傷にならんとこばっかり撃って半殺しにしといてから、私に手袋つけて鞄回収してこいいうねんで、たまらんやろ」
「奈央ちゃん、それからどうしたの?」
諏訪が聞いてきた。
「仕方がないから取りに行きましたよ。ヘルプ、ヘルプいうから、気の毒になって私の銃で頭撃とかと思てんけど、撃つな言われて、金ちょっとだけ撒いとけ言われたから言われるままにしたんや。ほな車で寄ってきて、その医者の腕をタイヤで踏みつけて、私にさっさと車に乗れいうてしばらく眺めてるんやで」
「ろくなことせぇへんねぇ。あんまり残酷なことしたらあかんよ」
そう言って諏訪が主税を嗜めた。
「これが私の経験した一番怖かったことやで」
三木はそう言って蓮水の方を見た。蓮水は呆気にとられ言葉を失っていた。
「この件があってからなるべく現地のスタッフは使わんようになったんや。ちょうど瑠美さん、移植コーデネーターの酒井瑠美さんな、私に寮の前で声かけてきた人が外科の先生と結婚してな、元々、一つしかなかったオペチームが二つになったんや。それで摘出も、前は現地スタッフに任せてた移植も両方ともファミリーですることになってん。そんときにファミリーの人数もかなり増えてん」
「さぁさぁ、取材はもう終わりにしよ。奈央が気色の悪い話するから食欲が落ちてまうわ。瑠美も結婚して引退した。今はスクールカウンセラーやて。あの美人局女がやで」
「お父さん、もうええやないか。二十年以上も前の話やで」
主税が有情を嗜めた。
「せやかて、ごっつ恥ずかしかってんぞ。刑事には、女子大生の触り心地はどやった、とかいうて聞かれるし」
「えっ、なんですか、その話?」
すかさず蓮水が突っ込んだ。
「莉子ちゃん、もう取材は終いや。また今度、主税に聞いたらええよ。それよか飯食い終わったら星見に行こ。すごい綺麗やで」
「いや、食後はちょっと」
「ちょっとなんやねん?」
「いや、ちょっと。先生は奈央ちゃんとふたりで見てきて」
蓮水はやんわりと断った。
「なんや、さっきの話聞いて怖なったんか?」
「先生、察したりよ。最後の晩は利太さんと過ごしたいんやんな、莉子さん」
諏訪の言葉に蓮水は照れ臭そうな顔をした。




