4 奇妙なタバコ(きみょうなたばこ)
F国人の、かなり大柄なキャビンアテンダントが、もうすぐ給油が終わると告げに来た。機内でくつろいでいた六人と利太、蓮水も再び後部の座席に戻った。ビジネスジェットは再度離陸し、進路を東へ向けた。
程なくして、少し早めの夕食が運ばれてきた。夕食は、ごく一般的なビジネスクラスなどで供される簡単なコース料理だった。
キャビンアテンダントは、蓮水にだけチキン、ビーフ、魚のどれにするかを尋ねた。蓮水はビーフを頼んだ。
食事中、タバコを吸う者は誰もいなかった。また、有情と三木も食事の間は戯れ合うことはなかった。
途中で、春巻きを大きくしたような料理が出てきた。
蓮水がアテンダントにこれは何かと尋ねると、
「ロティ」
だと答えた。
有情が蓮水に言った。
「それは縁起もんやから食うとき」
「もう、妬けるわぁ」
三木は口を尖らせたが、特に気にしている様子でもなかった。蓮水には意味がよくわからなかったので利太に聞いてみたが、
「俺はようわからんで」
と、本当に知らない様子だった。
食事が終わると、主税を除く全員がそれぞれの席でタバコを吸い始めた。
「私も吸うていい?」
蓮水は利太に尋ねた。
「ええよ、遠慮なく」
蓮水はタバコに火をつけ、周囲を見渡した。紙巻きタバコを吸っているのは利太と蓮水だけで、他は皆電子タバコだった。
やがてキャビンアテンダントが、小さな紙袋とF国の入国カードを持ってきた。入国カードは主税が受け取り、全員分を記入してサインだけ残した状態にした。
小さな紙袋の中には、極太のジョイント(乾燥ある種の植物をタバコ状に巻いたもの)が二本ずつ入っていた。
最初に火をつけたのは諏訪だった。大きく一口吸い、安堵の表情を浮かべた。
「検事さんがこんなの吸っていいの?」
蓮水が利太に尋ねた。
「何度も言うように、ここは外国やから。ストレスも多いんやないか?」
利太が答えた。
「私もこんなん、大学のときにハワイ行って以来やわ」
そう言って、自分のジョイントに火をつけた。しかし久しぶりののせいか、巻き方が太すぎたせいか、大きくむせた。
「なんぼでもあるから慌てんと、ゆっくり吸いや」
「うん、ありがとう」
二口目からは加減したのか、うまく吸えるようになった。機内は植物の燃える匂いで満たされた。
やがてアルコールと植物の持つ作用が十分に回ったころ、アテンダントが
「そろそろ着陸する」
と告げに来た。
「機内で配ったものはくれぐれも入国時には持ち込まないように。入国カードは各自で持ってください」
という内容を英語で説明した。
蓮水のところにも入国カードが回ってきた。名前が Rico Tewaki、国籍がF国人になっていた。
そのことを主税に告げると、主税は黙ってターコイズブルーのパスポートを渡してきた。開いてみると、入国カードと同じ内容が記載されていた。
入国審査は驚くほど簡単だった。パスポートを提示し、入国管理官がそれを機械に通す。入国カードを提出すると、すぐに入国許可のスタンプが押された。
荷物もX線透視装置を通されたが、特に問題なく通過した。
時間はまだそれほど遅くはなかったが、F国は冬で、外はすでに暗くなっていた。その日は有情の別荘に泊まることになった。
タクシーで二十分ほど走ると、高級住宅やホテルが並ぶDアイランドに到着した。
慣れないメンバーでのフライトだったこともあり、誰も外へ出かけようとはしなかった。
冷蔵庫にはビールとワインしか入っていなかったので、有情は三木を連れてモールまで出かけ、ケバブやピザを買ってきた。
六人は軽食をとりながらしばらく話し、その日は早めに床についた。
翌朝、三木が作った朝食を終えると、ヘリ運行会社のバンが家の前まで迎えに来た。
近くのゴルフ場の空き地まで連れて行かれると、二機のヘリが待機していた。六人は二人と四人に分かれてヘリに乗った。
ヘリが上昇すると、コバルトブルーの海に散らばる島々が見え、息をのむほど美しかった。
十五分ほどの飛行で目的の島に到着した。
島にはコテージが一つあり、前の桟橋には小さなボートが係留されていた。さらにコテージの周囲には二つの小さなビーチがあった。
ヘリはコテージ裏のヘリポートに着陸した。




