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10 足枷(あしかせ)

 人は三日間でこれほど憔悴するものかというような状態で俵本は二回目の会談に臨んだ。会談には司法書士と公認会計士の二人しか来ていなかった。二人は挨拶が遅れて申し訳ありません、と言ってそれぞれの名刺を俵本に渡した。


 名刺を見た俵本の土気色の顔から完全に希望が消えた。二度目の会談に出席する直前までは、まだ交渉によっては二つのマンションを手放さないで済むかもしれないという淡い期待があったのだ。俵本が受け取った名刺には司法書士・有情利太、公認会計士・有情主税と印刷してあった。


「本日はご足労いただいてありがとうございます。早速ですが私どもの事業への寄付はお持ちいただけましたでしょうか?」


主税が言った。


「はい、持ってきました」



「拝見させていただいてよろしいですか?」


「どうぞ」


と言って俵本は自身が所有するマンション二棟分の権利書を鞄から取り出し机の上に置いた。


「これらは先代から相続された、俵本さんにとってとても大切なものなのではないですか?優良物件で家賃の滞納等はほぼないと噂に聞いています。それをご寄付していただけるのですか?」


主税は白々しくいった。


「はい、寄付させていただきます」


「ご厚意に感謝します」


 主税は二通の権利書を受け取り、利太に渡した。利太は机の上に閉じられていたパソコンを開き、法務省のウェブサイトにアクセスして、すぐに名義変更を行なった。その最中に俵本は少しモジモジしながら主税に尋ねた。


「もし私がこの場に来なかったり、寄付を拒んだりしたらどうなりましたか?」

主税が答えた。


「先日も申し上げましたとおり、ご購入された商品を返却していただきます」


「それだけですか?」


主税は鞄の中から秘密保持契約書を取り出し行った。


「二項目をご確認ください。なんと記載されていますか?」


「聞かざる、です」


「まぁ、いいでしょう。せっかくですから世間話としてお話しします。ある人が八年前にI国に日本国から発行されたパスポート以外のパスポートで入国しています。そのパスポートはもちろんI国から正式に発行されたものです。私どもは他の記録と共に、当時、その人が使用されたパスポートも保管しています。私たちはI国のデータベースに保管されているその人のパスポートの情報だけを消去します。出入国記録は消去しません。したがって、その人は八年前、I国に偽造パスポートで入国したことになります。時間がかなり経過していますので、I国がどのような対応をするかは不明です。しかし、最悪の場合、その人はスパイ行為を行うためにI国に入国したと捉えられる可能性があります。幸い日本にはスパイを取り締まる法律はありませんが、I国に関してははっきりとは知りません。ただ、I国の刑務所と日本の刑務所では待遇に雲泥の差があります。日本の刑務所では透析が受けられると思いますが、I国では無理なのではないでしょうか。よく透析患者で、もうこれ以上痛い思いをして透析を受けたくない、とおっしゃる方がおられます。尿毒症の症状は耐え難い苦痛を伴うようで、どれだけ我慢強い方でも必ずまた透析を受けさせてくれと戻ってくるそうですよ。また、今お使いの商品と元々お持ちであったものと同等の機能を有した別のものを交換するのが手間な時は、今お使いの商品の機能をダウングレードさせてお使いいただく場合もあります。この場合は現在使用中の商品に外力を加えて行うのが通常です。恐らく、こちらもかなりの苦痛がともなうのではないかと思われます。尤も私が痛いわけではありませんが」


「主税、終わったよ」


利太が言った。


 主税は画面を覗き込みマンションの土地、建物の所有者が俵本から別の名義に変更されていること確認した。俵本にも同様に確認させ満足そうに言った。


「ご寄付、ありがとうございます。俵本さんの今後の息災をお祈りいたします」



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