あなたが傍にいるのなら
「陸、大丈夫?」
話し合いを終え、私たちは自分たちの部屋に戻ってきた。
今日はゆっくりしてほしい、ということでお出かけは無しだ。
陸の部屋で、さっきの部屋と同じようにソファに隣り合って座る。
元気がない様子の陸を気遣ってか、トウヤさんとケイさんは大量のお菓子とボードゲームを用意してくれた。
更に何かほかに欲しいものがあればいつでも部屋の前にいるトウヤさんに言ってくれ、という大判振る舞いだ。
温かい紅茶をカップに注ぎ陸の前に置く。
「ああ……ありがとう」
陸はカップに手を添えるけど、口を付けようとはしない。元気がないのは一目瞭然だった。
昨晩殺人が起こったこと。被害者は必ず花を身に着けていること。そして、予知夢の話。
一気に衝撃的な話をされて、私もショックを受けた。実際に予知夢を見た陸はもっとショックなはず。
元気づけたいけど、特殊な状況なので励まし方もよく分からない。あれこれありきたりな言葉を言うのも違う気がする。
どうしたものかと、私はとりあえず陸の口元にクッキーを持っていった。
陸は何か考え事をしているのか、恐らく無意識に口を開けた。
サク、とクッキーを齧るとようやく我に返ったようだ。
「……っ!?」
陸が身じろいだ事で私の指が陸の唇に当たる。
「何を……」
「甘いもの食べたら元気出るかな、って思って。元気出た?」
手元に残った陸の齧ったクッキーを口に入れる。さすがお城。クッキー一つでさえびっくりするほど美味しい。
しばらく頬を染めて固まっていた陸だが、私が呑気にクッキーを楽しんでいると小さくため息を吐いた。
「お前って昔から読めない行動するよな」
「え?そう?」
「そう。ほら、気に入ったんなら全部食べていいよ」
そう言って、陸は真ん中にあったクッキーの皿を私のほうに寄せた。
陸も甘いものは好きなはずなのにいらないのだろうか。
「陸は食べないの?美味しいよ?」
「……少しは元気出たからもういい」
「……そっか!」
とは言っても陸の顔にはまだ陰りが残っている。
私は特にそれに言及せず、気分を変えようとテーブルの上に目線を向けた。
「ねえ、今日は一日暇なんだしなにかゲームやらない?」
「……あんな話の後なのに呑気だな。まあ、他にすることないからいいけど」
トウヤさんとケイが持ってきてくれたボードゲームは、少人数でも出来るものから、大人数でないとできないものまで揃っていた。積まれたゲームの前の椅子に座ると向こうの景色が見えなくなるような量からして、内容に関わらずお城にあるゲームというゲームを集めて持ってきてくれたのかもしれない。
「これ面白そう、人狼ゲームみたいなやつかな?」
「楽しそうだけど何人かいないと出来ないよな…二人でも出来そうなやつは……」
見たことのないようなボードゲームがたくさん並ぶ中、結局私たちはトランプで遊ぶことにした。
この国のトランプは私たちの知っているものと絵柄が違うので違和感はあるが、遊び方は変わらない。
スピードや七並べをやった後、ババ抜きをすることにした。
お互いの札を交互に引いていると、陸がぽつりと呟いた。
「……咲季は、怖くないのか?この世界に連れてこられて」
急な質問に咄嗟に言葉が出ない。
何も言えずにいると、陸は目を伏せて続ける。
「俺は、怖い。未だに夢なんじゃないかって思ってるくらいだ。今まで予知夢なんて見たことなかったのに。俺が予知夢を見たせいで、これから事件に関わることになるかもしれない」
残りの手札は私が1枚と陸が二枚。
陸の手札を引くと、ジョーカーだった。
「でも、予知夢を見ることによって、三年間捕まえられなかった殺人鬼を捕まえられるかもしれない。被害者を減らせるかもしれない。何もできない私がこんなこと言うのは間違ってるかもしれないけど、私、頑張りたい」
陸の目を見てはっきり伝える。陸は軽く目を見開いて私を見ていた。
「私が支えるから。陸が辛いときは傍にいる」
私にはそれくらいしかできないけど。
にっこり微笑むと、陸は困ったように笑った。
「そうだ、咲季って昔からそうだったな」
陸が私の手札を引いた。
彼は手元の札と引いた札を机に放った。
「あーがり」
次に顔を上げたとき、陸は得意げな顔をしていた。
いつも陸がゲームに勝った時と、同じ表情。
沈んでいないその表情に嬉しくなる。
「あー!!もう一回!今は油断してただけだから!もう一回!」
「何回やっても同じだと思うけど?」
「やってみなきゃわかんないでしょ!」
暗く不安な夜に一筋の光が見えた。
予知夢によって、この世界に平穏が戻るかもしれない。
せっかくこの世界に来たんだから、少しでも事件解決に協力したい。
予知夢を見るのは陸だ。陸に精神的負担をかけるのは嫌だけど、夢なんて見ないようにしようと思っても出来るものではない。
嫌でも見るのなら、それを信頼できる人に伝えて私たちは安全な場所にいればいい。そうすれば、私たちに危険が及ぶことはないはず。
そう、思っていた。




