その花がもつ意味は
次の日の朝食の後、私たちは深刻な表情のトウヤさんとケイに城の一室に連れてこられた。
ふわふわのソファに座ると、朝食を食べたばかりだというのに紅茶とクッキーが目の前に置かれた。
普段なら有難くいただくところだが、部屋に流れる重苦しい空気に、甘いクッキーを味わう気持ちが失せる。
何事かと陸と目線で会話していると、トウヤさんがゆっくりと口を開いた。
「実は昨日の夜、人が殺された」
「えっ……」
告げられた言葉に、心拍数が早くなる。
理解はしていた。ここに来た時に国王様から説明はされていたし。
でも、理解はしていても実感がなかった。
日本でも殺人はあるが、身近で起きたことはないし、全国ニュースでたまに聞くくらい。
「殺人」が身近にある。私たちはとんでもない世界に来てしまったのだ。
「殺されたのは住宅街。近くに住んでいた人が朝、道に横わたる遺体を発見した。知人曰く、被害者はとても用心深い性格で、夕方以降は何があっても外に出なかったらしい」
「そんな人が道で殺されていた…?夜に外に出たっていうんですか?」
「そうなんだよ。おかしいよな?しかも無理に押し入ったりピッキングした形跡がない。被害者が自主的に外に出たんだ」
「でも、どうして同一犯だと分かるんですか?連続殺人鬼に罪を擦り付けた、顔見知りの犯行かもしれない。顔見知りなら被害者が用心深いとはいえ外に出させることもできなくはないと思います」
確かに。
同一犯とみなされた詳細は知らされていないが、殺し方が同じということであれば、それを知っている人であれば模倣犯になれそうだ。
鋭い陸の発言に、トウヤさんとケイさんは顔を見合わせた。少しの間小声で何か相談した後、トウヤさんが口を開く。
「……まあ、君たちには俺らがずっとついているから知っていても問題ないだろう。これは緘口令が出ていることだから絶対に口外しないようにしてほしいんだけど。……被害者は、必ず花を身に着けているんだ。ポケットの中や服の中に」
「花……?」
「最初の被害者は、遺体の近くにイースターリリーが落ちていた。次の被害者は鞄の中にカスミソウの花が。最初は偶然で片付けられていたけど、被害者全員花を身に着けているんだ。最初の被害者以外は、死体をパッと見ただけでは分からないような場所に」
「イースターリリーの花言葉は『新たな始まり』一人目だけ見える場所に花があったのは、これが連続殺人の目印だという見せしめなのかな?カスミソウの花言葉は『幸福』そして昨晩殺された被害者はクチナシを持っていた。花言葉は、『幸せ』…今までの被害者みんな、そんな意味の花ばかり。おちょくられてるようにしか思えないよねえ」
ケイの言葉に、背筋が凍る。
気持ちが悪い。殺した後、幸福を意味する花を身に着けさせる意味が分からない。
ぞっとする気持ちを落ち着かせるように、自分の体をぎゅっと抱きしめた。
「咲季……」
陸がぽんぽんと背中をやさしく叩いてくれる。そんな私たちを、トウヤさんとケイがじっと見ていた。
「でさ。トウヤから聞いたよ?陸、昨日馬車の中で様子がおかしい時があったんだって?」
ケイの言葉に陸の眉がぴくりと動く。
昨日、馬車の中で陸の様子がおかしかった時。
ケイに言われるまですっかり忘れていたが、陸が明らかに動揺していた時があった。
それは、誰もいない住宅街を見た時だった。
「……実は、陸くんが驚いていた場所だったんだ。今回の被害者の遺体があったのは」
「え?」
思わず声が漏れる。
トウヤさんの言葉に驚いたのは私だけではなかったようで、隣に座る陸も目を見開いていた。
「………」
「陸くん、なんであの場所で反応した?なにか分かったのか?」
「………」
「頼む。大したことじゃなくてもいい。少しでも手がかりが欲しいんだ。この3年間、犯人を捕まえられず犠牲者を沢山出してしまった。全く関係ないことでもいい。どうして反応したのか、教えてくれないか?」
無言のままの陸に、トウヤさんが詰め寄る。必死なその姿に胸が苦しくなった。
陸は少し視線を彷徨わせた後、言い辛そうに口を開く。
「……夢を、見たんです」
「夢?」
「夢の中で、誰かが道に横たわっているのが見えた。それが、あの場所だった」
「…………」
「おかしいですよね?俺はあの場所を知らないのに夢に見た。昨日、通りかかったとき驚いた。でも、偶然だと思ったんだ。住宅街なんてどこも似たようなもんだし気のせいだって」
「なるほどね?つまり陸は予知夢を見たってことだ」
「…でも、俺は今まで予知夢なんて見たことなかった。やっぱりただの偶然なんじゃ」
「昨日の陸くんはかなり驚いていた。偶然と思っていないのは陸くんじゃないか?」
「…………」
トウヤさんの言葉に陸は目を伏せ押し黙った。
予知夢。
もし本当に予知夢だとしたら、陸は夢の中とはいえ殺害された死体を見たということになる。
相当ショックだろう。それがただ、寝てるだけにしかに見えなかったとしても。
偶然だ、と片付けたくなるだろう。
震えている陸の手に自分の手を重ねる。
少しでも彼の手を温めたくてぎゅっと力を込めた。
「……もしかしたら、「救世主」の能力なのかもしれない。こんなことを頼むのは酷かもしれないけど、これから、夢を見たら俺たちに教えてくれないか?」
トウヤさんの言葉に、陸はゆっくりと頷いた。




