愛の形 (IFストーリー ケイEND)
ケイと結ばれるエンドです。
陸咲以外認めない!という方は飛ばしていただければと思います。
狭めのワンルーム、閉ざされたカーテン、右足に繋がれた鉄の鎖。
時計がないから時刻は分からないけれど、カーテンから差し込む光から、きっと朝になったのだろう。
ガチャリ、と玄関のドアが開いてびくりと体を震わせる。
音のした方に目を向けると、ここの家主がにこにこ微笑みながら部屋に入ってきた。
「咲季、ただいま」
「……」
目の前の彼、……ケイは、私の目線に合わせるようにしゃがみ込むと、心配そうに私の目の下を撫でた。
「また、眠れなかったの?クマができてる」
「……」
口を開こうとしない私の頭を優しく撫で、ケイはキッチンへと向かった。
どうしてこうなってしまったのだろう。
ケイが私をここに連れてきたのは、私が陸を殺した犯人を見ようと、部屋の前でケイとお喋りしてた夜。
犯人が来るまで適当な理由で廊下に居座るのは難しいと思った私は、ケイに何度も繰り返してることを伝えたのだ。
「そっかー、陸を殺しても咲季は手に入らないんだね」
話し終わった後、ケイが発した言葉に思考が停止した。
そして、次の瞬間、意識が途絶えた。ケイに、気絶させられたのだ。
目が覚めたら、私はこの部屋にいた。足に鎖を付けられて。
それから何日、何週間経ったのだろう。
最初のころは「ここから出して」と何度も何度も言った。けれどケイは聞く耳を持たないので、私は段々と何も言わなくなった。
「ほら、咲季、あーん」
言われるがまま口を開くと、優しい味付けのスープが舌に広がる。
本当は何も食べたくなんかないけれど、空腹には抗えなかった。
それに、一度食事を拒否したら、ケイは口移しで無理やり食べさせようとしてきた。
それが嫌で、差し出された食事は食べるようになった。
食事が終わったら、ケイにベッドに沈められる。
最初は怖くて恥ずかしくて仕方がなかったのに、今やケイから与えられる快感に素直に身をゆだねる。
「んっ……ん、ぁ……」
「咲季、気持ちいい?………っ、かわいい、さき、大好き、っ」
この部屋に監禁されていることと、時折酷く苦しいキスをされること以外は、ケイは私に優しく接してくれる。
溺れそうなほどの愛を注いでくれるケイは、私が望むのならここから出す以外のことは何でもしてくれそうだ。
私を抱きしめながら子供みたいな顔で眠るケイを見て、心がぐちゃぐちゃになる。
ここから出してくれないケイが嫌い。私がいなくなって、陸たちがどうなってるのか教えてくれないケイが嫌い。
なのにどうして。私が何も喋らないと寂しそうに瞳が曇ったり、帰ってきて私を見ると嬉しそうに微笑んだり、そんな表情を見ると胸が甘く軋んでしまう。
何も話してくれないけれど、ケイはきっと連続殺人の犯人なんだろう。
嫌い。憎い。怖い。なのに時折、愛おしいと思ってしまう。
認めたくなんて、ないのに。
「ただいま~」
更に、何日経ったのだろう。
いつも通り帰ってきたケイに、私はぎこちなく笑いかけた。
「お、かえり」
上手く作れているか分からないけれど、久々にケイに笑顔を向ける。
ケイは目を丸くしていたけれど、すぐに嬉しそうに笑った。
「ただいま、咲季!」
ぎゅうっと抱きしめられて、また胸が苦しくなった。
それから少しずつ、ケイと話すようになった。
新しくできたカフェの話とか、野良猫の話とか、そんな他愛もない会話。
陸たちがどうなってるとか、そんな話はしてくれない。
気になるものの、ケイとこうして話す時間に、段々と安らぎを感じるようになった。
その日は、春の始まりの前の雨が降っていた。
窓ガラスを打ち付ける雨音を聞きながら目を覚ます。
監禁されていると言っても繋がれている鎖のチェーンは長く、部屋の中なら自由に動き回れる。
お風呂に入る時だけケイが鎖を外し、一緒にお風呂に入る。
初めは恥ずかしくて堪らなかったけど、ケイとは何度も体を重ねて一緒にお風呂に入る以上に恥ずかしいことをしている。お風呂くらい、慣れてしまった。
最近では私が料理をすることも多く、その日は身支度を整えた後、パンケーキを作っていた。
ケイは、城で朝ご飯を食べてから帰ってくる。
けれど夜勤明けの彼には朝食として用意された量では足りず、帰ってきてからも何か食べることが多い。
「ただいま~、わ、いいにお~い」
「おかえり。パンケーキ作ったけど食べる?」
「やった、食べる~!」
パンケーキを食べ終え、お茶を飲んで一息ついていると、ケイが私の前に一本の枝を差し出した。
「これ……モモ?」
濃いピンクの蕾がついている枝に首を傾げると、ケイは「そうだよ」と頷いた。
「ふふ、可愛い。ありがとう」
受け取って枝をそっと撫で、花瓶に挿そうと立ち上がろうとすると、ケイに腕をひかれた。
「ケイ?」
座り直すと、ケイの赤い瞳に射貫くように見つめられる。
その真剣な眼差しに、心臓がドクンと跳ねた。
一体どうしたのだろう、そう思って見つめあっていると、ケイはこう切り出した。
「陸がね」
「…………えっ」
ケイの口から出た名前に動揺してしまう。
私をじっと見つめたまま、ケイは続けた。
「陸が、咲季がいなくなってからいろんな場所を探し回ってるんだ。僕とトウヤが止めても、夜も探しに行こうとする。もうすぐ半年経つのに、咲季と一緒じゃなきゃ帰らないって言うんだ」
「……っ」
息を吞む。
私がここに来てから初めて聞く、陸の話。
陸は、まだこの世界にいて私を探しているんだ。
気になっていないわけではなかった。毎日、どうしているだろうと考えていた。
なのに少しずつこの部屋にいることに心地よさを感じ始めてしまっていた。
痛む胸を、服の上からぎゅっと押さえる。
ケイは、まるで何かを確かめるかのように私をまっすぐまっすぐ見つめる。
「ねえ咲季、もう陸のこと殺してもいい?」
「え…………?」
「時間が巻き戻らないように陸を殺すの我慢してたんだけど、もう殺してもいいよね?」
ケイが何を言っているのか分からなかった。
脳裏に浮かぶのは、何度も見た陸の無残な姿。
ぽろり、と涙が零れ落ちた。
ケイは何も言わず私の涙を見ていた。
静かな室内に、私の小さな嗚咽が響き渡った。
少しして、泣き続ける私の頭をケイが優しく撫でた。
「ごめんね。咲季、泣かないで。陸を殺すって言ったのは噓なんだ」
「え……?」
その言葉に驚いて、俯いていた頭を上げる。
ケイは、眉を下げて悲しそうな顔をしていた。
「試してみたかったんだ」
「……ためす?」
こくりとケイが頷く。
「この半年間、僕は一人も殺さなかったんだ。何がきっかけで時間が戻るか分からなかったから、殺さなかった。殺人はね、僕の趣味なんだ。してはいけないことだと心のどこかで分かっているんだけど、快楽からか止められない。止めることができなかったんだ。……でもね、咲季といると人を殺さなくても心が満たされる」
ケイは私の頬に手を当て、涙を指で拭う。
「僕はね、咲季の泣き顔が好きなんだ。泣かせたいと思うし、苦しませたいと思う。大切な幼馴染を目の前で殺したらどんな顔するのかなー、とか考えてたこともあった。でも最近は、咲季に笑っていてほしいと思うんだ。泣いてる顔も好きだけど、笑顔の方がもっと好きみたい」
ゆっくりと顔を近付けて、ケイは触れるか触れないかの優しい口付けをひとつ落とした。
顔が離れた時には、ケイはそのヒガンバナのように赤い瞳から一筋の涙を流していた。
「ごめんね、咲季」
初めて見るケイの涙に心臓が苦しくなる。
私が動けずにいると、ケイは手際よく私の足枷を外した。
突然の行動に驚く。まさかこのタイミングでお風呂というわけではないだろう。
嫌な予感に戸惑っていると、ケイは短剣を取り出し私に握らせた。
そして私の手を包むようにケイが手を重ねて自らの胸へと誘導する。
「なっ……!」
驚いて手を引こうにも、ケイの手の力で剣から手を離すことが叶わない。
「咲季、僕を殺して」
剣の先が、ケイが着ているシャツに当たる。
涙を流し全力で抵抗するものの、剣は服を切り裂いて白いシャツに赤い染みを作った。
「いやっ……!」
「今まで辛い思いさせてごめんね。咲季はもう自由だよ。でも、陸のところへ行く咲季を見たら僕はきっと正気じゃいられない。だから、これ以上咲季を悲しませる前に、僕を殺すんだ」
染みがどんどん大きくなっていく。
嫌だ。
大切な人を失くすのは、もう嫌だ。
「ばか!!!!!!」
私は、出せる限りの大声を出した。
ケイもさすがに驚いたのか、手の力が緩む。
その隙に手を引いて短剣を遠くに投げた。
目を丸くしているケイに、私は抱きついた。
「ばかばかばか!ケイのばか!私のこと、悲しませたくないんでしょ!?だったらこれは、逆効果だよ……!」
「咲季……ごめん。咲季にこんなことさせるなんて最低だ。自分で死ぬべきだったよね」
「ちがう!なんにもわかってない!」
きょとんとするケイに、私は唇を重ねた。
突然のキスに、ケイは固まる。
「私、ケイのことが好き!大切なの。だから、いなくなったら悲しい」
「さ、き……」
「自由になっても私はケイと一緒にいる。ケイと一緒にいることが、私の幸せなの。いなくならないで……」
抱きしめる力を強めてわんわんと泣くと、ケイは優しく背中を撫でてくれた。
「……いいの?そんなこと言われたら、逃がしてあげられなくなる」
「逃げてって言われても、逃げないよ」
私たちは顔を見合わせると、小さく笑いあった。
そして、口づけを交わす。
想いが通じ合ってから初めてのキスは、とろりと甘くて、熱い。
「咲季……。全部、僕に頂戴?咲季の笑顔も、涙も、死ぬ時さえ、欲しい」
私は、こくりと頷く。
「うん……。全部全部、ケイにあげる」
罪を犯したケイを好きになるなんて、私も同罪だ。
きっと、もう二度と陸にもトウヤさんにも会えない。
それでもいい。彼と一緒に生きていきたい。
狂っているのかもしれない。でも、モモの蕾が花開くような愛しさを、手放せそうにない。
「大好き」
大好きな彼の腕の中で、私はいつまでも狂い続けよう。
最後まで、「陸を助けたかったら僕を殺しなよ、ほらもっと体重かけないと殺せないよ♡」な狂気エンドとどっちにするか悩みました。
作者的にはどっちも大好きなのですが...
咲季には本編で沢山ケイに苦しめられたので、この話くらいは2人に幸せになってもらいたいなと思ってこの話にしました。
とは言ってもケイは陸たちに素知らぬ顔して咲季とひっそり幸せになるのだろうしある意味メリバです。
ケイがしてきたことを考えると100%幸せになることは難しいでしょうが、2人なりの幸せを掴んでいって欲しいなと思います。




