この感情は炎で燃やすことなどできない(ケイ視点)
「トウヤ。一緒に遊ぶの、好きだったよ」
僕はトウヤにそう囁くと、掴まれていた手を振り払って来た道を駆け出した。
この先は、僕が仕掛けた爆弾によって火の海になっている。
充満した煙で息が苦しいし、危険だと本能が告げている。
それでも、引き返す気はない。
僕の悪行はバレてしまった。
今更命乞いする気はないけれど、一生を暗い地下の牢屋で過ごすのはごめんだ。
あれだけ人を殺してきたのだからきっと死刑だろうけれど、騎士として功績を残してしまった。万一死刑にならなかったら困る。
それなら、生きたまま炎に焼かれた方がましだ。
でも……。
トウヤに縛られていた両手の縄の拘束を解くと、それを炎に向かって投げた。
そして少し痺れる手を動かして、自分の唇に、触れる。
初心そうな咲季が、自ら僕を求めてくれたことが嬉しかった。
でもまさか、噛みつかれるとは思わなかったけど。
「……ふふ、やっぱり、好きだな」
そう呟くと、煙が肺に入り咳込んでしまって涙目になる。
何だか頭がぼーっとしてきたし、いよいよやばいかもしれない。
脳裏に浮かぶのは、今まで生きてきた日々。これが走馬灯というものなんだろうか。
トウヤに付きまとわれたのは、鬱陶しかったなあ。
でも、嫌いじゃなかった。
トウヤの剣の癖を指摘したら、変にライバル意識を持たれて僕まで稽古をする羽目になった。
きつかったし、なんで僕が、と思ったけれどトウヤと剣を交わすことが楽しくて、気が付いたら騎士団に入っていた。
何だかんだ、楽しかった。
……僕が犯人だと言ったら、トウヤ、泣いていたな。
もしあの時、散歩になんか行かなければ。人を殺す喜びを知らなければ。僕はずっとトウヤと騎士をしていたのかな。
……馬鹿らしい。
あの時こうしていたら、と考えるなんてくだらない。
実際起きてしまったことを覆すことなんてできないのだから。
そんなの、ただの現実逃避にすぎないんだ。
それに、僕はやったことを後悔していない。
もしも三年前のあの日に巻き戻ることが出来たとしても、僕はきっと同じことを繰り返すだろう。
だって、そうしないと咲季に会えないから。
咲季に会うためなら、僕は何人だって何十人だって殺すだろう。
やっぱり、欲しいな。
咲季はこの先、陸と一緒に元の世界へ戻るのだろう。
そしていつか、誰かと結婚するかもしれない。
僕ではない誰かと。
それを想像すると、心が黒い靄で覆われる。
そんなのは嫌だ、ぐちゃぐちゃにしてやりたい、と。
もうすぐ死ぬというのに、こんな感情が沸き上がることに苦笑する。
狂ってることは、自覚している。
でも、止められないんだ。
咲季の笑顔も涙も死さえも、僕が全部全部欲しい。
咲季……。
最期に想うのが、育ててくれた両親でも、ずっと一緒にいたトウヤでもなくて、たった三週間過ごしただけの少女だなんて、僕は本当に愚かだ。
当たりはもう火の海だった。
皮膚を溶かしてしまいそうなくらいの熱さと息苦しさに、立っているのもやっと。
倒れそうなのを堪えて、火をよけて前へ前へと進む。
最後に、賭けでもしようかな。
僕は信仰が薄いから、この教会に来たのは今日が初めてだ。下調べもしていないから、構造なんて一切知らない。
もし、この先に外へとつながる扉や窓があって逃げることができたら。
現実的に言ったら不可能だろう。すでに体は思うように動かないし、運よく脱出できたとしてもすぐに捕まってしまいそうだ。
それでも、もしもここから出ることができて、捕まることなく逃げ出せたのなら。
その時は、咲季に会いに行こう。
この国では僕は指名手配犯になるのだろうし、僕が『日本』に行くのも良いかもしれない。
咲季たちが日本に帰れるのなら、僕がそちらへ行くことも可能なはず。
陸が、日本ならいたるところに場面を記録する機械があって、それがあれば犯人なんてすぐ捕まるのに、と言っていた。
日本に行ったら、人を殺すことは難しいのだろう。
人殺しは、僕にとって最高の娯楽。
生から死へと変わる瞬間を見ることが、僕の喜び。
でも、やめてもいいよ。
咲季が一緒にいてくれるなら、やめてもいい。
状況は最悪。
賭けに勝てる確率は、限りなく低い。
でも、もしも勝つことができたなら。
「大好きだよ、咲季」
呟いた言葉は、炎に掻き消えた。




