その感情は恋か狂気か(ケイ視点)
予知夢を話さなかった時間軸のお話です。
初めて人を殺したのは、事故だった。
町を散歩していたら、浮浪者が俺が騎士だからという理由で難癖付けてきた。
軽くあしらっていると、彼は刃物を向けてきた。
抵抗したら、運悪く死んでしまった。
やっちゃった、と思った。騎士が事故とはいえ人を殺すなんて。
けれど、人が死ぬ瞬間。命が消え目が光を失う瞬間。
今まで感じたことのない喜びを感じたんだ。
その感情に戸惑いながら、死体を放置するという罪を重ねた。
翌日、死体を発見した人たちの悲鳴で更に快楽を得てしまう。
殺した瞬間の、生への執着、諦め、絶望。残された者の、恐怖、悲しみ、憎しみ、絶望。すべてが、僕の喜びに変わる。
人を殺すことは簡単だった。家の中にいる人でも、騎士である僕が「不審者が家に入るのを見た、捜索させて欲しい」と言えばドアを開けてもらえた。
花は、一人目と二人目は本当に偶然だったんだ。
一人目は本当に近くに花が落ちていただけだし、二人目は花屋で働いている人だったから花が身近にあったんだろう、鞄に包装紙にくるまれた切花が入っていただけ。
でも騎士団でその話を聞いて、利用させてもらった。
イースターリリーの花言葉は『新たな始まり』。そんな花が落ちていたなんて、面白い偶然だよね。
狂いだした僕は、この快楽から抜け出せなかった。
咲季の第一印象は、普通に可愛い女の子。
こげ茶の綺麗な髪に、同じ色の真ん丸な目。よくいる女の子だ、と思った。
けれど、理不尽に連れてこられたのに彼女はすんなりとこの世界を受け入れた。
僕たちに、「仲良くしたい」と言った。
無防備にも出会ったばかりの僕を部屋に入れてくれた。
優しくて、どこか抜けていて、目が離せない。
咲季と話せば話すほどに彼女に惹かれていくのを感じた。
咲季が、欲しい。
彼女が欲しい。彼女を独り占めしたい。彼女の初めてを奪いたい。彼女の大切な人を奪ってしまいたい。大切な人の死体を見たら、彼女はどんな表情をするんだろうか。僕しかいないと、気付いてくれるだろうか。
もう何人もの人を殺めてきた僕は、どろどろに歪んだ愛情しか持てない。
咲季を自分のものにするには、あの過保護な幼馴染が邪魔だ。
陸が咲季のことを好きなのは一目瞭然。咲季は気付いてなさそうだけど。
咲季も陸を大切に思っている。
そんな彼らの関係が、羨ましくて憎くて壊したくて堪らない。
咲季は、僕だけのものなのに。
陸を殺す。それは確定として、それを実行するにはトウヤが障害だ。
剣術大会で優勝するほど腕が立つから、やり合いになったらまず勝てる気がしない。
殺気を感じさせず不意を突けば、いけるだろうか。
トウヤと本気でやり合うのはそれはそれで楽しそうだけど、出来れば避けたい。
そうだ、妹のジュリを殺せば。
妹が殺されたとなればトウヤはきっと護衛を離れて捜査に行きたいと願い出るだろう。
トウヤに悟られないよう痕跡を完璧に消す必要はあるけど。
それも大した問題ではない。妹を亡くして感情的になったトウヤは脅威ではない。
親しい人を殺すのはどんな感覚なんだろうか。想像すると、興奮で肌がぞわりと粟立った。
陸を殺すのは最高のシチュエーションがいい。
咲季が一生忘れられないような。
そうだな……。教会とか、どうだろうか?
ステンドガラスが綺麗な、城の近くの教会。
そんな神聖な場所が人生の幕引きなんて、最高だろう。
そして陸が死んだ教会で、いつか咲季と結婚式を挙げる。
一生忘れられない思い出になりそうだ。
ジュリを殺すのは思った以上に簡単だった。
彼女はよく夜の海辺を歩いている。いくら腕に自信があるとしても危機感なさすぎじゃないか。
それを利用させてもらった。
偶然を装って話しかける。俺とジュリとも幼馴染だから、彼女は俺の姿を見て警戒することはないから。
事件のことを聞いてトウヤが飛び出していったのも予想通り。
けれど、一つだけ引っかかる。
昨日の、咲季と陸の行動。
陸は、「予知夢を見た」と言った。
馬車でそれを聞いたとき、『救世主』って厄介だな、と思った。
事件の場所を言い当てられるのは困る。
いくら僕でも、警備がガチガチの場所で犯行は難しい。
且つ犯行現場があの海岸沿いとなれば、その地区常駐のジュリは忙しくなるだろうし夜に一人になることもなくなるだろう。
計画を練り直さなければ、と思ったのに陸は「夢の内容を忘れた」と言い出した。
嘘に決まっている。気まずそうに視線を外している陸は、全然ポーカーフェイスが出来ていない。
さっき咲季の部屋に二人で籠った時に一体何を話したのだろうか。
僕に聞かれるのを避けるため小声で話してるのか、会話は聞き取れなかった。
ああ、早く陸を消したい。
僕の中に、どす黒い感情が渦巻く。
ジュリが死んだことにより咲季が塞ぎ込んで、陸が様子を見に行ったっきり、陸は部屋から出てこなかった。
もう日付は当に超えて時刻は深夜二時。
それは何を意味するのか。
二人は恋人同士ではないと言ったけど、一緒の部屋で二人きりで一晩を過ごすなんていくら幼馴染とはいえおかしくないだろうか。
いてもたってもいられなくなって、スペアキーを使って咲季の部屋に入る。
前に一度入ったことがある部屋。
あの時は部屋に招いてくれて嬉しかったのに、今は真逆の気持ちだ。
ちいさなランプの光だけを頼りに部屋を進むと、探し人の姿を見つけた。
ひとつのベッドで、二人が仲良く並んで寝ている。
その光景を見た瞬間、頭の中が真っ黒に染まった。
もういいや。殺してしまおう。
予定とは大分違うけど、まあいいだろう。
起きたら隣で幼馴染が死んでいる、なんて十分悲劇だ。
懐に忍ばせていたナイフで陸の心臓を的確に突く。
「……っ!?」
肉を切り裂く感覚を手に感じながら、命を奪う。
陸は苦しそうに喘いだけど、それも一瞬で、すぐに動かなくなった。
陸を、殺した。
目の前で事切れる咲季の大事な人。
咲季は、隣で死んでいる陸を見て何を感じる?何を思う?
トウヤもいない今、この世界で頼れるのは僕だけ。
その僕が陸を殺した犯人だと知ったとき、咲季はどんな風に壊れるんだろう?
想像するだけで、暗い愉悦に口角が上がる。
「……あー、しまった。花、どうしようかなー」
突発的な犯行だったから花を準備していない。
陸を殺すときの花は何にするかもう考えていたのにな。
ぐるりと部屋を見渡すと、棚上にマリーゴールドが飾られていることに気が付く。
「うん、ちょうどいいな」
花瓶から、マリーゴールドを一輪手に取り、陸のスウェットのポケットに入れる。
花言葉は、変わらぬ愛、信頼、友情。その一方で、嫉妬、という意味も持つ。
陸に手向けるには、ぴったりだ。
「……りく、今日の、宿、題…」
咲季がむにゃむにゃと寝言を言う。
何かいい夢でも見ているのだろうか。
「ねえ咲季、もっといろんな感情見せてくれる?」
咲季が好き。
この気持ちは恋と可愛らしい名前で呼ぶには醜い感情で。
それでも狂ってしまった僕にとって、彼女はどうしても欲しい唯一の存在。
絶対に、逃がさない。
幸せそうに眠る咲季の頬に、小さくキスをした。




