友達だから (トウヤ目線)
俺とケイは、仲が悪かった。
いや、仲が悪いというのは言い過ぎかもしれない。
近所に住んでいて、年も近いけれど話さない。ただ、それだけ。
俺は友達とよく走り回っては騒いでいたのに対して、ケイはよく公園の芝生で昼寝をしていた。
最初のころは何度かケイを遊びに誘ったけれど、ケイが誘いに乗ってくれたことはなかった。
いつもただごろごろとしている。
その内に俺はケイを誘うことを諦めて、話しかけることすらなくなった。
そのまま数年が経ち、俺が8歳の時だったと思う。
俺は犬が苦手で、特に大きい犬に吠えられると思考が停止してしまうのだけど、その日は最悪なことに大きな犬に囲まれてしまった。
後から聞いた話だけど、大型犬を数匹飼っている家の人が旅行に行くとかで近所の人に預けたけれど、隙を見て逃走してしまったらしい。
その犬たちが何故か俺に興味を示して近寄ってきたのだ。
もう最悪だった。
パニックになって騒ぐも、犬は驚いて離れるどころかじりじりと距離を詰めてくる。
ここで人生終わりか、と割と本気で思ったところでケイが犬を追い払ってくれた。
ケイが しっし、と軽く手で払うと、俺がどれだけ泣き喚いても引かなかった犬がその場から離れていった。
俺は涙で濡れた目をぱちくりと瞬かせた。
そして、さっさと立ち去ろうとするケイに飛びついた。
「ありがとう!かっこいいなお前!」
「うわっ、何」
「命の恩人だー!!」
嫌がるケイに、ぎゅうぎゅうとくっつく。
それから、俺は再びケイを遊びに誘うようになり、断られても無理やり引っ張っていった。
段々とケイも楽しそうに遊ぶようになり、俺たちはいつも一緒にいるくらいに仲良くなった。
「トウヤ、何してるの?」
ある日、剣の素振りをしていたらケイがきょとんとした顔で問いかけてきた。
「剣の練習だよ!俺、世界一強い騎士になるんだ!」
「ふーん……」
ケイは練習する俺の様子をじーっと見ていたかと思うと、ニヤリと口の端を上げた。
「ねえ、剣ってもう一本ある?」
「え?あるけど……」
家に戻って模造剣をケイに渡すと、ぴしりと剣先を向けられた。
「勝負しよう」
その言葉に目を丸くするも、俺もにっと笑って剣を持ち直した。
「いいよ!初心者だからって手加減しないよ」
そうして勝負を始めたけれど、結論から言うとケイの勝ちだった。
何年か前から近所の騎士の兄ちゃんに月に二回家庭教師をしてもらって、剣に持ちなれていた俺は、今日初めて剣に触ったであろうケイに負けたことに衝撃を受けた。
少し前までごろごろと芝生で寝ているところしか見ていなかったケイが、どうしてこうも強いのだろうか。
ショックで放心している俺に、ケイはふふんと笑った。
「トウヤはさ、剣に癖があるんだよ。それを見抜いたら僕でも勝てた」
「……!」
それは、家庭教師の兄ちゃんにも何度か指摘されていることだった。
なかなか直らない癖を、ちょっと見ただけで見抜いて俺に勝ったケイの才能に驚く。
こいつは、本気を出したらきっとすごい騎士になれる……!
胸を支配するのは、敵対心と、好奇心。
「ねえ、これからケイも一緒に剣の練習しようよ!」
「はあ?やだよー、めんどくさい」
「でも、戦ってる時のケイ、楽しそうだったよ?もっと強くなりたくない?」
「……考えといてあげてもいいよ」
こうしてケイと剣の練習をするようになった。
ケイはどんどん上手くなっていって、俺はそれに食らいつくように必死に鍛錬をした。
この国の騎士団は15歳から入団できて、ケイより2歳年上の俺はケイを置いて騎士団に入った。
その2年後、俺に付き合うみたいな形で練習を始めたケイが、俺が騎士団に入った後も練習を続けて騎士団に入ってきたと聞いたときは物凄く嬉しかった。
俺たちは騎士団で厳しい特訓を受け、ケイが入団してから8年後、『救世主』という大事なお客様を護衛するという役割を任されるほどの地位となった。
3年に一度ある剣術大会は俺が優勝したけれど、ケイは面倒くさがらず出場していたら、俺は準優勝だったかもしれない。
同僚で、ライバルで、大切な友達。
ずっと、その関係でいられると思っていた。
なのに、なんで。
国のためには、一刻も早く殺人犯を捕まえたい。
でも、それがケイだなんて信じたくないんだ。
幼いころから一緒に過ごしてきたケイを信じたい。
信じたい。だからこそ、行動しなくては。
犯人はケイじゃないって証明するために、俺は殺人鬼を捕まえる。




