信じられない話
次の日、私たちは町に遊びに行きたいと言いトウヤさんに外に連れ出してもらった。
馬車の中、トウヤさんにだけ聞こえる声量で「大事な話がある」と言い、町についたら一階が食堂になっている宿の一部屋を借りてもらった。
狭い部屋で、私たちは小さなベッドに座り、トウヤさんは椅子に座る。
「それで、いきなりどうした?話なら、ケイもいた方がよかったんじゃ……」
「いえ、ケイさんには聞かれたくない話なので」
陸がそう言うと、トウヤさんが不思議そうに首を傾げた。
私と陸はこれまでのことを話した。
何度もループしてきたことと、前回のこと。
トウヤさんに犯人のことを言うのは緊張した。
トウヤさんとケイは幼馴染で、同僚。
自由なケイにトウヤさんが手を焼いている光景をよく見るけれど、二人が仲が良く信頼し合っていることはこの短い付き合いでもよく分かる。
そんなトウヤさんに、ケイが連続殺人の犯人でした、と言うなんて。
信じてくれるだろうか。
私は、陸が犯人だと言われたら信じることができだろうか?
どう考えても、出会って二週間ほどの人が言うことより、幼馴染のことを信じてしまうだろう。
「……ケイ、が……」
トウヤさんは私たちの話を静かに聞いてくれた。
全てを話し終えたとき、トウヤさんは虚無を見つめるようにぽつりと呟いた。
「……ごめんなさい、急にこんな話しちゃって」
「いや、いいんだ。話してくれてありがとう。でも、ちょっと受け止めきれなくて……。いや、ごめん、今の話を疑ってるわけじゃないんだけど……」
「……信じてくれるんですか?」
「君たちがこんな嘘つくとは思えないからな」
私と陸は、顔を見合わせほっと息をついた。
二人とも、トウヤさんにケイのことを信じてもらえるかが第一難関だと思っていたのだ。
「……けど、ごめん。いきなりケイのことを捕まえることはできない。証拠がないからしらばっくれるだろうし。凶器の刃物とかの証拠を見つけるか、現行犯で捕まえるか……と言っても、ケイのことだから証拠なんて残してないだろうな。だとしたら、現行犯か……」
「そう、ですよね……」
予想はしていたけど、がっくり肩を落とす。
いくら救世主の言うことだからといって証拠もない人を捕まえることはできないらしい。
「あ、けど、護衛は増やそうと思う。咲季ちゃんも前に会ったんだろ?ジュリとハイトを護衛に追加するよ。昼は比較的安全だろうし、ジュリに護衛に就いてもらって、夜は俺とハイトでケイを見張る」
「え……でも」
護衛が増えることは嬉しいけど、トウヤさんとケイとハイトさん、というメンバーはどうしても三回目の夜を思い出してしまう。
口ごもった私の考えていることが分かったのか、トウヤさんは安心させるように笑った。
「大丈夫。俺は何回かやられてるようだけど、きっと不意打ちされたんだろう。最初からケイが襲ってくると分かっていたら負ける気しないよ」
「……ふふ、そうですよね、ジュリから、剣術大会で優勝したと聞きました」
「え、そんなこと話してたんだ?」
「はい。ジュリから、トウヤさんのこといっぱい聞きました。仲がいい兄妹ですね」
「はは、嬉しいな」
この日の話し合いはこれで終わりで、ケイをどうするかについてはジュリとハイトさんが揃ってから改めて、とのことだった。
早速今日の夜から護衛を増やす、と言ってトウヤさんは私たちを城に送ると数人の騎士に護衛を任せて出かけて行った。
まだまだ不安は尽きないけれど、トウヤさんが私たちの話を信じて動いてくれたことに一先ず安心する。
そして、この世界で出来た友人との再会が、楽しみだった。
★
「護衛増えるの?僕、何も聞いてないんだけどー?」
その日の夜。
ケイの一言で、夕食時のダイニングが一瞬凍り付いた。
悟られないようにいつも通りに、とは昨日陸と話し合ったしトウヤさんも分かっているはず。
けれどケイに植え付けられた恐怖から、以前までと全く同じ態度というのは難しい。
「聞いてなかったか?陸は予知夢を見るだろ?だから狙われやすくなるんじゃないかってうちの団長様が増員してくれたんだよ」
魚のムニエルにナイフを入れながら、トウヤさんが平然と言う。
トウヤさん、演技上手い……!
真実を知っている私も、そうだったかも、とつい思ってしまいそうな自然さだった。
「ふーん……?」
ケイは興味なさそうに飲み物が入ったグラスに口をつけると、話題を変えた。
「今日、出かけたんでしょ?どこ行ったの?」
「町だよ。店を見て回った」
答えたのはトウヤさんで、私と陸は黙ったままだ。
実際、町には行ったけど宿の部屋で話し終えたらすぐ戻ってきたので、店なんか見ていない。
口を開けばボロが出ると思った私と陸は、だんまりを決めることにした。
トウヤさんとケイは、今日行った町で新しくできた酒屋について話し出した。
そのことにほっとして食事を続けていると、不意に矛先がこちらへ向く。
「咲季、今日は何か美味しいもの食べれた?」
「えっ」
急に話題が振られて、口に運ぼうとしていたフォークが中途半端な位置で止まる。
「だ、だから言っただろ?カフェに行ったって」
「ちょっと、トウヤじゃなくて咲季に聞いてるんだけどー?咲季はカフェで何食べたの?」
助け舟を出そうとしたトウヤさんがケイに一蹴された。
どうしよう。
ここは適当に答えるしかないが、今日町で食べたのは宿の一回にある食堂の日替わりランチだ。
質より量に重きを置いたその食堂のご飯も美味しかったけど、お洒落とは言い難い。
適当にケーキを食べた、とか言えばいいのかもしれないけど、下手なことを言ったらケイにはすぐに嘘だとバレてしまいそうだ。
そういえば。と、記憶を引っ張り出す。
あの町は、一、二回目と、前回、行ったことがあるところだった。
いろいろあって遥か昔のことのように感じるけど、その時にカフェも行っている。
陸とトウヤさんが心配そうに見守る中、私は平静を装ってその時のことを話す。
「うん。私はラザニアのランチセットを食べたよ。デザートは梨のタルト。美味しかったよ」
「もしかして、少し離れにあるあのカフェかな?こじんまりしたところ」
「うーん、そこかは分かんないけど、庭に花が沢山植えられていて、窓から見ることができて綺麗だったよ」
「なら、多分そこだ。デザートに力入れてるって有名なんだよ。いいなー、咲季。今度僕とも行こうね」
なんとか誤魔化せたことに、ほっと胸を撫で下ろす。
沢山繰り返したせいで、一、二回目の日常的な外出や会話はあやふやな部分も多いけど、なんとか思い出せて良かった。
具体的な感想を言ったから、町で遊んでたという事は疑われていないだろう。
どうかこのままうまくいきますように、と。ご機嫌にフルーツを食べ始めたケイを見ながらそう思った。




