つかの間の平穏
「予知夢を見ました」
朝食の席で、陸がそう言う。
今日だとは分かっていた。でも、この言葉を聞くと、心臓が早鐘を鳴らす。
陸の話を聞いて、トウヤさんが教会の警備を厚くするよう動く。
一、二回目と同じように、昼はボードゲームをして過ごした。
夕食後、部屋に戻ろうとする陸を引き留めた。
お互い部屋に戻れば、今日はきっともう会わないだろう。
そして今日は事件の日。巻き戻るまで会えなくなる。
「どうした?最近ずっと浮かない顔してるし何か悩みがあるなら……」
引き留めたまま何も言わない私を、陸が心配そうに顔を覗き込む。
陸の優しい言葉に、私は頭を横に振る。
「ううん。そういうのじゃないの。ただ、伝えておこうと思って。私、陸のこと好きだよ」
陸の目をまっすぐ見て伝える。
陸は目を丸くして、小さく息を吞んだ。
「小さい時からずっと、陸が一緒にいるのが好き。楽しくて、安心する。これからもずっと陸のことが大切だよ」
「……咲季?」
「……ふふ、なんか急に言いたくなっちゃっただけ!気にしないで。おやすみ、陸」
「……」
陸は何か言いたそうに口を動かしたけど、言葉を吞み込んだ。
陸が部屋に入るのを見送ると、一連の様子を見ていたケイがすかさず揶揄ってきた。
「やるう。愛の告白~?」
「もー。揶揄わないで。思ったこと言っただけだから」
部屋に戻らず、ケイの隣に座る。
ケイは不思議そうに首を傾げた。
「あれ?部屋、戻らないの?」
「……眠くないから、おしゃべりしない?」
「えっ、するする~!」
ケイは嬉しそうに瞳を輝かせた。
そのまま私に倣って腰を落とす。
座ってる状態で、いざという時対応できるのかな……と思うものの、咎めない。
だって、また巻き戻る気だから。
『今回』は、犯人の顔を見ることが目的だ。
そして巻き戻って、特徴とか服装とかを伝える。
そうすることで、この事件が起こる前に犯人を捕まえることができるんじゃないか、と考えた。
といっても、その特徴を的確に伝えられるかは怪しいし、もしフードとかで顔を隠していて見えなかったら、この計画は失敗に終わるだろう。
うまくいくかどうかは賭けだし、私は絶対に殺されてしまうだろうが、この地獄から抜け出したいから。どんな無謀な策だとしても試してみたかった。
「何の話する?」
「うーん……あ、ケイが小さい時の話が聞きたいな。トウヤさんと幼馴染だったんだよね?」
「えー、そうだな~……」
ケイは何を話すか少し考えた後、ニヤリと悪い笑みを浮かべた。
「トウヤってね、犬が苦手なんだけど」
「……犬?」
思ったよりも可愛らしい出だしに、つい復唱してしまう。
「うん」と頷くと、ケイは続きを話し出した。
「トウヤとは家も近くて年も近かったんだけど最初は全然話さなかったんだ。僕はトウヤのこと鬱陶しい奴って思ってたし、トウヤも怠惰な僕に同じように思ってたんじゃないかな」
「へえ、意外。今は仲いいから」
「まあその仲良くなった理由というのがさー、ある日、トウヤが大きな犬に囲まれて泣いていたんだ」
「犬」
「最初は無視して近くのベンチで寝てたんだけどさ、あまりにもトウヤが煩いから犬を追い払ってやったんだよね。そしたらトウヤにみょーに懐かれちゃってさ。毎日絡まれるし、遊びの誘いを断っても無理やり連れていかれるし、もううんざりで、助けなきゃよかったって思ったくらい」
「……ふふ」
「騎士になったのもさ、トウヤがなりたいっていうから練習付き合ってたら気が付いたらなってたんだよね。いやー、本当なんで騎士やってるんだろ。練習きつかったし、トウヤの妹が乱入してくるしで大変だったなー。あ、トウヤの妹といえば……」
微笑ましくて口元が緩む。
ケイの話を聞いていると、これから起こることに対する恐怖も忘れて、心が温かくなるのを感じた。




