そのスクリーンに幸せを映す
一体、どうしたらいいんだろう。
またも巻き戻った世界、陸の予知夢の話の最中、私はぼんやりと考えていた。
どうして前回はいつもより早かったんだろうか。
今までと明らかに違ったのは、予知夢を話さなかったこと。それでジュリが死んでしまったこと。
ジュリを殺した後のターゲットは最初から陸だった?
一体、どうして?
町ならともかく、警備の固い城の中までリスクを冒してまで来るだろうか?
どれだけ考えても、答えは見つからない。
何回にも渡るやり直しで、私の心は疲弊していた。
何度繰り返しても、陸の死は慣れることなんてできない。
私の隣で、陸が殺された。
前回のショックがあまりにも大きかった。
もう、だめだ。絶対、これで……、いや、次で、絶対終わらせる
早く元の世界に戻りたい。
正直、こんなこと怖いしやりたくない。でも、向き合わなければきっと終わらない。
私は、とある覚悟をした。
★
それからの日々は、一、二回目と一緒。
護衛を増やすことも、予知夢を隠すこともしない。
護衛はトウヤさんとケイの二人体制だし、ジュリも生きてる。
陸が次の予知夢を見るまで、記憶と同じようにボードゲームをして、同じ場所に行って同じ会話をする。
同じ会話も三回目ともなると楽しめない。
楽しいふりをするけれど、陸にはバレていそうだった。
「……大丈夫か?咲季ちゃん」
とある朝食、トウヤさんが心配そうに顔を覗き込んできた。
「ちょっと。トウヤさん、近いです。咲季から離れてください」
「ん?ああごめんごめん」
「出た、番犬陸~」
心配かけてしまうほど、顔に出てしまっていたのだろうか。
刻々と事件の日が近付いてきて、ここ最近は不安であまり眠れなかった。
「うーん、元気ないよなあ、寝不足?じゃあ気分転換に遊びに行くのも違うよな。……そうだ!」
冴えない表情の私を気遣ってか、トウヤさんはとある提案をしてくれた。
そうして私にとってはもうお馴染みの客室に来ていた。
「ここで何するんですか?」
「まあまあ、興奮するのも分かるが落ち着くんだ」
「トウヤが一番興奮してると思うけど?」
トウヤさんとケイが持ってきたのはいくつかの毛布と球体の何かだった。
「何ですか?それ」
「うんうん。まずは扉を閉めて明かりを消す」
「え?それ、真っ暗になりません?」
この城はどの部屋も窓がないから、明かりがないと闇のように真っ暗になる。
この城の朝は、カーテンから漏れる朝日で目を覚ます、なんてことはないし防音に優れているので小鳥のさえずりも聞こえない。
朝が来ても寝る前と何一つ変わらない部屋に、最初のころは戸惑った。目覚まし時計がないと絶対に起きられない。
いきなり明かりを消す、と言われ戸惑う私と陸に、ケイがカーペットの上に毛布を敷いて座るよう勧める。
近くに座り心地最高峰のソファがあるというのに床に?
不思議に思いながらも毛布の上に座ると、明かりが消されたちまち真っ暗になる。
そしてすぐに、天井が明るくなった。
「わあ……!」
天井に映し出されたのは、満天の星空。
余計な明かりがないからこそ、とてもきれいに見える。
「すごいよな。ちょっと前にボードゲームを集めたときに見つけたのを思い出したんだ」
少しの間星空を眺めていると、トウヤさんが隣に腰かけた。
「寝転がると視界一面星になるよ。ほら」
促されて毛布の上に寝転ぶ。
ちょっと離れたところでは、陸がケイに絡まれているのが見えた。
「すごいです。綺麗……」
「だろ?しかもこれ結構本物に近いんだよ。実際の星の位置と同じだ」
「もしかして、星座の解説してくれるんですか?」
「……ごめん、俺は星の名前を一つも知らないんだ……」
「ふふっ、謝ることじゃないですよ。星は綺麗って事実だけで十分です」
そのまま並んで星を眺める。
「海岸で星を見るの、最高なんだろうな…」
思い出すのはもう遥か昔に感じる、海に行った日のこと。彼は海辺で見る星空が好きだといった。
室内で見るこの星空も素敵だけど、波の音を聞いて潮風を感じながら見る星空はもっと素敵だろうと思った。
思わず呟いてしまった言葉に、しまった、と思う。
トウヤさんは、事件が起こるようになってから夜空を見なくなったと言っていたのに。
彼の反応を待つ前に、私は慌てて言葉を紡ぐ。
「あっ、えーと、そうだ!妹さんもトウヤさんと星見るの好きだって言ってましたよ!」
「……言っていた?」
「……!間違えました、きっと好きだって言うと思いますって言いたかったんです!」
完全に失敗だ。
自分の言ったことをフォローして墓穴を掘るなんて、最悪すぎる。
今回はジュリに会ってないのに。なんなら三回目でしか会ったことないのに。
一人で慌てる私に、トウヤさんは小さく笑う。
「そうだと嬉しいよ」
「きっと、そうです」
「……俺はね、咲季ちゃんと俺の妹は仲良くなれるんじゃないかって思ってるんだよ。なかなか人見知りなんだけど、優しい子だから。君たちが帰る前に会わせれたらいいな」
「……はい」
ジュリ。この世界でできた、大切な友達。
また、会えるだろうか。
「そして、みんなで星を見に海に行こう」
「え……」
思いがけない言葉にトウヤさんの方を向くと、目が合った。
彼もこちらを見ていたようだ。
「楽しそうじゃないか?みんなで星空の下語らうなんて」
「でも、夜は……」
確かに、楽しそうだけど。でも、夜に外に出るなんて無理だ。
「辛い夜は終わるよ。だろ?救世主さん」
言い淀む私に、トウヤさんは太陽のように笑った。
その言葉に、あの日見た海の青を思い出す。
辛い夜は終わる。あの時トウヤさんに言った言葉だ。
あの時の私は、こんなことになるなんて思ってなかった。
トウヤさんを励ますような言葉を言ったけれど、どこか他人事だったと思う。
隣でトウヤさんはニコニコと微笑んでいる。
……ごめんなさい、トウヤさん。いっぱい苦しい思いさせてしまって。
脳裏に浮かぶのは、四肢を投げ出し事切れた彼や、ジュリを失って復讐に染まってしまった彼。
私がやり直すたびに、辛い思いをさせてしまった。
もう、繰り返してはダメだ。トウヤさんがまた、『夜が好きだ』と笑えるように。ジュリと海に星を見に行けるように。頑張らないと。
流れ落ちそうな涙を誤魔化すように、わたしはへにゃりと笑った。
「はい、必ず終わらせます」




