因果
「ほら、この中なら見つからない!」
夢の中で、今よりもだいぶ幼い陸と教壇の下に潜り込む。
懐かしいな。さっき陸と話したからその時の夢を見ているんだ。
「咲季、咲季、起きて」
さっきまで夕日が出ていたのに、一瞬で日が沈む。
真っ暗になった教室で目を覚まし、私は涙目になる。
時刻はまだ17時だけど、冬のこの時間は空は真っ暗で。先生はまだいるんだろうけど、静まり返った校舎に陸と二人、取り残されてしまった気がした。
「陸、こわい……」
ぎゅっと陸の手を握る。
陸は何も言わなかったけど、体は震えていた。
夜の学校、なんてホラーじゃ定番すぎるシチュエーション、小1の私たちに耐えられずはずがなく。
「咲季、走るよ」
「う、うん!」
二人で手をつないで夜の校舎を駆ける。
幸か不幸か、廊下にも昇降口にも誰もいなくて私たちは咎められることなく学校を抜け出した。
学校から少し先の人通りの多い大きな道で、私たちは走っていた足を緩めお互い顔を合わせる。
安堵感からか、私たちは声を上げて笑った。
「あはは、俺たち隠れるの上手すぎじゃない?」
「うん!最後まで見つからなかった!」
「夜の学校、怖かったなー」
「でも、なんか楽しかった!廊下を全力で走るなんて普段できないし」
「確かに。見つかったら先生に絶対怒られるもんな」
家までの道を、ゆっくりゆっくり歩く。
走って少し汗ばんている手を、私たちは家に着くまで決して離さなかった。
★
「ん……」
懐かしい夢を見て幸せな気持ちのまま、目を覚ます。
窓がないので眠る前と部屋の明るさは変わらないが、ぐっすり寝た感じがする。おそらくもう朝だろう。
右手に、重みを感じて陸と手を繋いだまま寝てしまったのだと気付く。
そのことを嬉しく感じると共に、気付いてしまう。幾度か嗅いだ、濃い、血の香りに。
「え……?」
血の気が一気に引いていく。
(まさか……、いや、そんなはずはない。だって、まだ、『早い』)
片方は手をしっかり繋いだまま、ベッドサイドに置いてある明かりにもう片方の手を伸ばす。
震える手で何度も何度も失敗しながら、明かりをつける。
周囲がぱっと明るくなる。
隣で寝ている、陸を照らした。
「り……く……」
視界がぐわんと歪む。
陸の胸には、突き刺さった刃物。
そこから流れた血が、白いシーツを赤黒く染めていた。
色を失った陸の顔は、彼がもう事切れていることを教えてくれていて。
「やだっ……やだ、なんで!?陸、陸……!!」
血が付くことも構わず、陸に縋りつく。
私が陸を呼んでも、泣き叫んでいても、彼は瞼を閉ざしたまま。
血の匂いに紛れて漂う、甘い花の香り。
その香りに誘われるように、私の意識はプツリと途絶えた。陸の手を、握ったまま。




