何度やり直すことになったとしても
それからのことはあまり覚えていない。
たくさん泣いて、泣き疲れたら気絶するように眠りについた。
何度か食事を知らせてくれたけど、食べる気になれなかった。
今までなんとか耐えていたものが急に耐え切れなくなってしまった。
悲しくて辛くて感情がぐちゃぐちゃで。
もう一生この地獄から抜け出せないんじゃないかとネガティブになってしまう。
ひたすら塞ぎこんで、気が付いたらまた夜になっていた。
丸一日なにも食べていなくてお腹は空腹を訴えている。
このまま何も食べずに死んだらこのループから抜け出せるんじゃないか。そんなことを考えてしまう。
「…咲季、大丈夫か?入るよ」
陸の声に反応できずにいると、鍵を開ける音がして陸が入ってきた。
その手には合鍵。ケイに頼んで借りてきたのだろうか。
そして、反対の手には食器が乗ったトレー。
部屋にふわりとスープのいい匂いが充満する。
私のお腹が、ぐーっと大きな音を鳴らした。
さっきまで死にたいとか考えていたのに、食べたいと思ってしまう。
恥ずかしくて悔しくてしょうがなかった。
盛大に鳴ったお腹の音に陸の方を見ることができず俯いていると、陸が小さく笑う気配がした。
そして私の隣に座って、スープをすくったスプーンを口元に近づけてくる。
そのいい香りの誘惑に抗えなくて口を開くと、暖かい優しい味付けの野菜スープが舌に広がった。
(……美味しい)
隣を見ると、陸が優しく微笑んでいた。
スプーンを受け取り、スープを口にどんどん運ぶ。
陸は何も言わずに見守ってくれた。
スープカップが空になると、陸はゆっくりと口を開いた。
「咲季、ごめん。俺、これから予知夢を見たら言うことにする」
「……」
「俺が予知夢のことを話していればトウヤさんの妹さんは助かったかもしれない。俺が、トウヤさんだったらきっと俺のことを許さない。少しの情報でも、役に立たなくても夢の内容を教えてくれてたら何か違ったかもしれないって思うはずだ。なのに、トウヤさんは俺を殴ったり暴言吐いたりしなかった。……俺は、もし咲季を失ったら助かる可能性を教えてくれなかった奴を、きっと殺したくなる」
「陸……」
「俺にとっては知らない人でも、誰かにとっては俺にとっての咲季みたいに、大切な存在なのかもしれない。だから、苦しい思いをする人を減らしたいって、思った」
「……ふふ」
「……笑うとこあったか?」
陸が眉根を寄せる。
必死に思いを伝えようとする陸は気付いていない。私のことが大切だ、と二回言ったことを。
照れくさいけど、ものすごく嬉しくて。
心がじんわりと温かくなるのを感じた。
「私も、同じだよ。陸がいなくなったら絶対に取り戻しに行く」
「咲季……」
不思議と先ほどまでのネガティブな気持ちは消えていた。
二人で一緒に元の世界に帰るための方法を探さなければ。
もしも予知夢を話さなければ私たちは助かるかもしれない。
でも、ジュリが死んでしまった今、それが正しい方法とは思えない。
予知夢の被害者を助けて、尚且つ私たちも生きる。
私たちなら、その方法を見つけ出せる気がした。
「顔色、良くなったな。じゃあ俺はそろそろ行くから」
「あ……」
立ち上がろうとする陸の手首を、とっさに掴んでしまう。
驚いたように陸が私を見た。
「今日は、一緒にいたい」
「え?」
「このベッド広いから余裕で二人寝れると思うんだ。久しぶりに一緒に寝ない?」
そう言うと、陸は耳まで赤くした。
「な、えっ、は……?」
「一人じゃ寂しいから一緒にいたい。だめかな?」
言葉にならない声をあげる陸をじっと見つめる。
陸は顔を赤くしたまま少しの間何か考えていたけれど、やがて「仕方ないな」と困ったように笑った。
お風呂を済ませ、広いベッドに二人並んで寝転がる。
「なんだか、小さい時に戻ったみたい」
「ああ……」
隣の緊張した様子の陸に話しかける。
昔はよく、こんな風に同じベッドでいろんな話をして眠ったな。
約10年ぶりのお泊り会に、上機嫌になってしまう。
「ねえねえ覚えてる?小1の時にさ、放課後にみんなでかくれんぼした時のこと」
「ふたりで教室の教壇に隠れたあれ?」
「そうそう。外でかくれんぼしてたのに、校舎に入るとか今考えたら今考えたらずるだよね?でもあの時は隠れる範囲なんて決めてなかったし、陸が『いいとこがあるー!』って張り切ってたしさ」
「……みんな外を探すだろうから、校舎の中なら絶対見つからないと思ったんだよ」
今でも鮮明に思い出せる、冬の始めの放課後。
陸と二人でもぐりこんだ教室は少しひんやりしていて、でも二人で教壇の下に身を寄せ合って入れば寒さは気にならなかった。
校舎の外から聞こえるみんなの声にドキドキしながら、最後まで見つからないんじゃないか、と笑い合う。
いつの間にか二人とも寝ちゃって、陸に起こされた時には外はすっかり暗くて、みんな私たちを探すのを諦めて帰っていた。
「冬の5時ってもう暗いからさ、外は真っ暗で校舎の中は誰の気配もないから怖くなっちゃってさ。二人で手つないでダッシュで帰ったよね」
「二人して半べそかきながらな」
「ふふ」
布団の中で、陸の手を探しぎゅっと繋ぐ。
陸はびくりと体を強張らせたけど、同じように握り返してくれた。
「怖かったけど、陸と一緒だったから大丈夫だって思った。陸と手を繋いでたから安心したんだよ」
いつも私を安心させてくれる存在。
私たちは幼馴染で、お互いのことをよく知っている。
きっと、両親よりも長く一緒にいる。
大切な、大切な存在。
絶対に失えない、大好きな、人。
「咲季……?」
ふわふわの寝具で優しい温もりを手に、抗えない睡魔を感じて目を閉じる。
「……急に寝たな」
(ごめん、陸)
薄れかけていく意識の中でそう思うも声にはならなかった。
「……きだよ」
うまく聞き取れなかったけど、もうすでに夢の中へと入りこんでいて聞き返すことができない。
額に柔らかな熱を感じながら、私は意識を手放した。




