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幼馴染と殺人鬼のいる異世界へ転移してしまいました ~能力は予知夢×ループ~  作者: かん


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優しい彼

翌朝、いつもよりも早い時間に目が覚めた。

昨日早くに寝たからだろう。

昨日の夕食は胃にやさしいものをトウヤさんが部屋に届けてくれた。体調が悪いなどと嘘をつくものではないな。おかげで今朝は空腹で目が覚めた。

結局、昨日はあの後陸に会うことはなかった。

上手く、誤魔化せただろうか。

陸は馬車でケイに「予知夢を見た」と言った。それを誤魔化すことなんてできるのだろうか。

トウヤさんはなんとか誤魔化せるかもしれないけど、ケイは鋭いところがある。大丈夫だっただろうか。

昨日ご飯を持ってきてくれたトウヤさんは何も言っていなかった。

卑劣なこの作戦が上手くいくことを祈るしかない。


しばらく空腹に耐えていると、ケイが朝食の支度ができたことを伝えてくれた。


「咲季、もう体調はへーき?」

「うん、いっぱい寝たからもう元気!」


内心心苦しく思いながらもケイに噓をつく。

陸とケイの三人でダイニングに行くと、そこには誰もいなかった。

いや、壁沿いにメイドさんはいたのだが、いると思っていたトウヤさんがいなかったのだ。


「あれ?トウヤさんは?」

「あー……」


ケイは言い辛そうに目線を外した。

その様子に嫌な予感を感じ、スカートをぎゅっと掴む。


「実、は。昨夜犯行が行われてしまって、トウヤはそれの調査に行ってる」

「調査……?」

「うん。場所が昨日言った海岸の近くで死体が発見されたから」

「海、岸……」


わずかに動揺した陸を、ケイは見逃さなかった。

赤い瞳をすっと細めて陸を見つめる。


「……陸さー。昨日は『夢の内容を忘れた』なんて言ってたけど、本当は覚えてたんじゃないの?」

「……っ」

「なんで言わなかったの?」

「……今、思い出しただけです」


ケイは、「ふーん」と興味なさそうに相槌を打つと朝食を食べ始めた。

気まずい空気が流れる中、私も朝食のパンに手を伸ばすけれど味がよく分からなかった。


私たちの警護を任されているトウヤさんが、生まれ育った場所だからと言ってわざわざ調査に赴くだろうか?

それに、生まれ故郷というなら幼馴染のケイだってそうなはず。

ケイが夜勤明けだからトウヤさんが、と言われればそれまでなんだけど。

けれどどうにも胸騒ぎが止まらなかった。


トウヤさんが戻ってきたのは、夕食もお風呂も終わった後だった。

普段なら訪ねてこない時間。

いつも込み入った話をする時は別室に移動するのだが、その時間もないのか今回は私たちの部屋の前の廊下で立ち話だった。

私たちの前に現れたトウヤさんを見てぎょっとする。

彼は常に身なりをきっちりと整えていた。

髪は清潔感のあるオールバックで、濃いグレーの制服は着崩すことなく第一ボタンまでしっかり留めている。

それが、目の前の彼は髪は荒れて制服にはいたるところに血がべったりとついている。

制服についた血、というのは何回か繰り返した惨劇を思い出してしまうが、この血の付き方からして彼のものではないだろう。

まるで、血を流した誰かを抱きかかえたような付き方だった。

トウヤさんの頬に涙の跡があることに気づいて、ある最悪の考えが頭によぎった。



「ごめん、俺は君たちの警護から外れることになった」


トウヤさんが抑揚のない声でそう言った。

いつも表情豊かな彼がこんなにも無表情なのを初めて見た。


「え……」

「トウヤは、今回起きた事件の捜査に加わることになったんだ。後任は明日朝紹介するよ」


ケイがそう言うと、トウヤさんは「今までありがとう」と言って背を向けた。

あまりにもあっさりしすぎた別れに、思わず彼の名を呼んで引き留めてしまう。

トウヤさんは無言のまま振り向いてくれた。

けれど話すことを何も考えていなかったし、いつもと違う彼の雰囲気にまごついてしまう。

何を言えばいいか沈黙に焦っていると、トウヤさんが私の頭に優しく手を置いた。

その温度に緊張が解けかけたけど、私を見つめる彼の目を見た瞬間に心臓が止まりそうになった。


「大丈夫だよ。犯人は俺が必ず殺すから」


トウヤさんはよく太陽のような笑顔を見せてくれた。

話しているだけで元気をもらえるようだった。

いつも優しくて私たちを気にかけてくれて。

そんなトウヤさんしか、知らなかった。


目の前にあるのは射貫かれそうなくらいに鋭いオレンジの瞳。

復讐に囚われたその瞳は確かに私を映していたけれど、私を見ていない気がした。


結局、何も言葉が出てこなかった。

踵を返してトウヤさんの背中がどんどん離れていく。

その姿が見えなくなると、私は震える声でケイに聞いた。


「……ねえ、もしかして被害者って……トウヤさんの、妹…さん?」

「……そうだよ」


否定してほしい、そんな思いも空しくケイが頷く。

心が凍り付くようだった。


『いえ。全体的に靄がかかったようで、犯人はその背格好から男だということしか分かりませんでした。被害者も少ししか見えなかったんですが、女性にしては背が高めな方かと。髪を縛っていました』


どうして、その可能性を考えなかったのだろうか。

救える命を見捨てた、罰なのだろうか。

私が、ジュリを殺してしまったんだ。

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