信じているから
「……季、咲季!」
私を呼ぶ声で、目を開ける。
「……大丈夫か?座った瞬間急に寝だしたんだよ」
隣には心配そうに覗き込んでくる陸、テーブルを挟んでトウヤさんとケイ。
よかった、戻ってこれた。
その事実にほっとする。
でも、これからどうしたらいいのだろうか。
前回と同じように警備を増やしてもらうだけではきっとだめだ。
脳裏に、倒れる三人と、取り乱したジュリの姿が浮かぶ。そして、扉の先の陸の、遺体。
思い出すだけで目の前が滲む。
そう、同じ流れではきっと繰り返すだけ。
きっと、もっと根本から解決する必要があるのだろう。
「……咲季?」
返事を返さない私を不思議に思ったのだろう、陸が眉根を寄せる。
「やっぱ体調悪いのか?部屋戻ったほうがいいんじゃないか?」
私の体を案じる陸に内心謝りながらも、私はその提案にこくりと頷いた。
「うん。部屋に戻ってもいいかな?」
「そうしよう。顔色がよくない」
「ん、咲季部屋戻る?僕送っていくね」
ケイが私を送ろうと立ち上がる。
私は陸の服の裾を軽く引いた。
「陸も、来てほしい」
そうお願いすると、陸は少し驚いていたけれどついてきてくれた。
私の部屋につくと、少し話がしたいと言って陸だけ部屋に入ってもらう。
「……?どうしたんだ、一体」
「こっち、きて」
扉が完全に閉まったのを確認すると、私は陸を扉から遠い場所に手を引く。
ケイは耳がいいから、彼に聞こえないように。
怪訝そうな表情をする陸に私は小声で「お願い」をする。
「予知夢のことは言わないでほしい」
「……え?」
自分でも突拍子のないことを言っている自覚はあった。
なにしろ、私は陸に「協力することで被害者が減るなら嬉しい」と言っている。それが、予知夢のことは言わないで、なんて心変わりもいいところ。
私は陸が予知夢の内容を話して事件を防いだことで犯人のターゲットになってしまったのではないかと思った。
二度も邪魔をされたことで反感を買ったのだとしたら、今回は事件を止めなければいい。
そうすれば、事件は何も解決しないだろうけど私たちは生きて帰れるはず。
薄情だろうか?止めれるはずの事件を放ったらかしにして二人の犠牲者を出してしまうなんて。
それでも私は、見ず知らずの二人より、陸の命のが大切だから。
笑っちゃうくらい自分勝手なのはわかっているけど。
でも、陸が助かるのなら、私はいくら誹られても構わない。
「咲季、何言って……」
「お願い。理由は元の世界に戻ったら説明する。とにかく、予知夢を見ても誰にも言わないでほしいの。トウヤさんにも、ケイにも」
じっと陸を見つめる。
少しの沈黙の後、陸は小さくため息をついた。
「わかった。言わない」
「……え?本当?」
あっさり了承してくれたことに拍子抜けする。
以前と言ってることがあまりにも違うから、もっと突っ込まれると思っていた。
恐らく間抜けな顔をしているであろう私の額に、陸は優しくデコピンした。全然痛くなかった。
「……なんか、事情があるんだろ。今は聞かないでやるから、後からちゃんと話せよ」
「陸……。ありがとう」
協力するよう励ましたと思ったら、今度は協力しないでほしい、なんて振り回してばっかりで申し訳ない。
それでも嫌な顔一つしない幼馴染の優しさが身に染みる。
「ほら、もう寝とけ。調子悪いんだろ?」
「あ、いや体調は平気……」
私の言葉は、陸にベッドに押し込まれたことで搔き消えてしまった。
上から毛布を何枚もかけられる。今は掛布団一枚でちょうどいい季節だ。毛布をそんなにかけたら暑い。本当に体調が悪くなりそうだ。
「安静にしとけよ。おやすみ」
そんな風に優しく頭を撫でられてしまっては、暑いなんて文句を言えるはずがなく。
ケイの元へ戻っていく陸をただただ見守った。




