異世界でできた友人
翌日、朝食を済ませると私たちは再び客室に通された。
そこにはトウヤさんとケイと同じ騎士団の制服を纏った男性と女性が一人ずついた。
「今日から、君たちの護衛に加わる二人だ」
トウヤさんがそう言うと、男性の方が一歩前に出た。
「初めまして。ハイトです。よろしくお願いします」
そう名乗る彼は、ものすごく背が高い。見上げるたびに首が痛くなってしまいそうだ。
短髪で背が高くガタイもいいので、とても強そうだ。
「初めまして。ジュリと申します。よろしくお願いします」
次に女性が名乗ってくれた。私よりも背が高いはずなのに、ハイトさんの隣に立つことによってものすごく小柄に見える。
私と陸も名乗った後、私はどうしても気になってジュリさんをじっと見てしまう。
ポニーテールにした明るい茶色の髪、優しそうなオレンジの瞳という色彩は後ろに立っている彼とまったく同じだった。
私の視線に気付いたのだろう、トウヤさんがジュリさんの肩に手を置いた。
「ジュリは俺の妹なんだ」
「兄上がお世話になっています」
にこにこと笑顔のトウヤさんに対して、ジュリさんはクールで真顔のままだが、並ぶと顔立ちもよく似ている。
一緒に星を見たというトウヤさんの妹さんとこんな形で会うことになるなんて。
女性の騎士様なんて、かっこよすぎる。
「これから、ケイとハイト、俺とジュリの組み合わせで警護させてもらう。この二人には君たちの『能力』のことは言ってある。問題の事件が起こるであろう夜は、俺たち4人と、集めれるだけ騎士を集める」
「そんだけ守りを固めたらきっと大丈夫だよね~。『Xデー』だけど。陸が予知夢を見た晩ってことでいい?」
「はい。確か、私たちが元の世界に戻る一週間ほど前だったと思います」
「陸くん。予知夢を見たらすぐに言うんだ」
「分かりました」
『Xデー』までの約二週間は、外には出ず城の中で過ごすことになった。
昼なら大丈夫では、と思うけども万が一ということもある。少しでも不安要素をなくしたかった。
外といえど城の敷地内なら大丈夫だろう、とその日は庭園に案内された。
久しぶりの外の空気が気持ちいい。
色とりどりの花が咲いている庭園のガーデンテーブルには紅茶とスイーツやキッシュ等が盛り付けられた3段スタンド。
お城の庭園でアフタヌーンティーなんて、まるでおとぎ話の中のようだ。
こんな状況なのに、ついつい舞い上がってしまう。
「うわあ……!」
「喜んでくれてよかった」
思わず感嘆の声を上げる私に、トウヤさんが優しく微笑んだ。
「ここでお茶会をしたらどうかって提案したのはジュリなんだ」
「そうなんですね、ありがとうございますジュリさん」
「そんな……。兄上もケイくんも気の利いたことはできないだろうと、思ったので」
ジュリさんは照れたのか少し頬を染めて目線をそらした。
その可愛らしい反応に胸をときめかせながらも席について、気付く。
ティーカップが二つしかない。それに、私と陸は当たり前のようにソファに横並びに座ったけど、トウヤさんとジュリさんは傍で立ったまま座ろうとしない。
向かいの席ががら空きで、これではカフェでわざわざ隣同士で座るカップルみたいだ。
「お二人は座らないんですか?」
「え……」
疑問を投げかけると、ジュリさんが目を丸くした。
変なことを聞いただろうか?
「ティーカップも足りないですよね」
陸が近くのメイドさんにカップを二つ頼む。
ジュリさんはまだ目を丸くしたまま固まっている。
その隣で、トウヤさんは笑いをかみ殺していた。
「だから言ったろ?俺たちの分も必要だって」
「……」
トウヤさんに促され、ジュリさんが私の向かいの席に座る。
少しして追加のティーカップとテーブルの上のものと同じ内容の3段スタンドが運ばれてきた。
「……ありがとうございます。美味しそうだと、思っていたので一緒にと誘っていただけて嬉しいです」
紅茶を一口飲むと、ジュリさんはふんわりと口角をあげた。
初めて見る彼女の笑みについ見惚れてしまう。
「いえいえ。一緒に食べたほうが楽しいので!」
「そうですよ。それにしても、女性の騎士っているんですね。城では見かけなかったので男性だけなのかと」
「いるにはいるんですけど少ないです。城ではほとんど男性騎士ですね。という私も普段は港の地区常駐なんです。今回は腕が立って信頼できる者、ということでここに呼ばれたのですが」
「女性の騎士、って格好良くて憧れちゃいます。トウヤさんも騎士だし、そういう家系とかですか?」
「いや、そういうわけではないんだ。俺とケイが騎士を目指しててな。ジュリはよく俺たちの真似をして素振りとかしててね。気付いたら騎士になってたんだ」
トウヤさんが今までにないくらいにこにこしていた。
きっと小さい時のジュリさんを思い浮かべているのだろう。嬉しそうなトウヤさんをジュリさんは小さく睨む。
「ちょっと兄上、変なことは言わないで」
「あれはジュリが7歳の時かな……。隣町の山にイノシシが出たと騒ぎになってね。ジュリは練習用の木刀を持って隣町へ行こうとしたんだ。俺達と一緒にいるんだと思ってた親が、俺が稽古から帰ってきたとき一人だったから凄い驚いていてね。ご近所の人にも手伝ってもらって大捜索が始まったんだ。そしたらなんと、ジュリは……」
「ストップ、それ以上はだめです」
ジュリさんはスコーンをトウヤさんの口に押し込んで無理やり話を止めた。
「え、続きすごい気になるんですが」
「私も……」
「気にしないでください。しょうもない話なので」
いきなりスコーンを丸ごと押し込まれ、トウヤさんが咀嚼に苦戦している。
その隣で涼しい顔でクロテッドクリームを付けたスコーンをゆっくり食べるジュリさん。
なんだか面白くて、笑ってしまう。
突然笑い出した私を、ジュリさんが不思議そうに見つめた。
「どうしましたか、咲季さん」
「いえ……ふふっ」
「……?」
なんとか笑いを収め、改めてジュリさんに向き合った。
「この世界に来てから女の子と接する機会少なかったから嬉しい。残り時間少ないですけど、仲良く、したいです」
そう、この世界に来てから接してきたのは陸とトウヤさんとケイばかり。
メイドさんの中には若い女性の方もいるけど、私も陸も身の回りのお世話は不要だと言ったら関わることはあまりなくなった。
だから、久しぶりに年の近い女の子と話せて嬉しかった。もっといろんな話がしたいと思ったのだ。
私の言葉に、ジュリさんは何回か目をぱちぱちと瞬かせた。
ようやくスコーンを飲み込んだトウヤさんが、嬉しそうに笑う。
「咲季ちゃんはきっとジュリと仲良くなりたいと思ってるって、言った通りだっただろ?」
「…………」
ジュリさんは恥ずかしそうに、でも嬉しそうに微笑んだ。
「私でよければ、仲良くしてください」




