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幼馴染と殺人鬼のいる異世界へ転移してしまいました ~能力は予知夢×ループ~  作者: かん


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繰り返す悪夢

「……き」


陸の声が聞こえる気がする。

ああ、なんだか懐かしい夢を見たな。

幸せな夢、だった。

…このまま、目覚めなければいいのに。



「……季、咲季!」


「……え?」


揺さぶられて目を覚ますと、目の前には陸がいた。

テーブルをはさんで向かいには、トウヤさんとケイがいた。


(え……?)


私はまだ夢の中にいるのだろうか。

だって、……だって、陸は。

最後に見た陸の姿を思い出す。

床に、力なく横たわる陸。

カーペットに染まる赤。胸に刺さったナイフ。


(……うっ)


思わず手で口を覆う。

そんな私を、目の前の陸は心配そうに見つめる。


「……体調が悪いのか?座った瞬間急に寝だしたりして。部屋に戻るか?」

「……っ」


真っすぐな黒い瞳はずっと見てきた陸のもので。

こっそりとスカートの上から太ももをつねるもしっかりと痛い。

そっか、あっちの方が夢だったんだ。

普通に考えればそうだ。だってあんなの、現実なわけがない。

今目の前にあるのが現実で、思い出したくもないあれは、ただの悪夢。



「咲季……?」

「ご、ごめん。大丈夫だよ」


軽く頭を振って、悪夢の記憶を追い払う。

改めて周りを見渡すと、どうやらここは城の客室のようだ。

テーブルの上にはティーセット。部屋の中は人払いされていて私たち4人だけ。

…そうだ。私たちは海に遊びに行った帰りだった。



「それで?一体どんな夢を見たの?」


向かいのソファに座るケイが陸に問いかける。


「……今日行った港の近くだと思います。街並みが似ていました。海岸沿いを女性が一人で歩いていて、男が前から近づいてきた。二人は顔見知りだったと思います。少し談笑していたかと思ったら、男が急に刃物で女性の心臓を刺した」

「陸、犯人の顔見たの?」

「いえ。全体的に靄がかかったようで、犯人はその背格好から男だということしか分かりませんでした。被害者も少ししか見えなかったんですが、女性にしては背が高めな方かと。髪を縛っていました」

「顔見知りの犯行、か…。それが連続殺人鬼によるものか、模倣犯によるものか分からないが、被害を防げるなら防ぎたい。場所は、他に何か見えたか?近くにどんな建物があるとか」

「確か……近くに、黄色い屋根の家が何軒か建っていた気がします」

「海岸沿いから見える黄色い屋根…分かった。陸くん、ありがとう」


騎士団に話してくる、とトウヤさんは席を立つ。


「お手柄だよ、陸。もしかしたらこれで連続殺人鬼が捕まるかもしれない」

「そう、だといいんですけど」


目の前で繰り広げられる光景に、私はただただ冷たい汗を流す。

この、やり取り……。

既視感というには聞き覚えがありすぎる。

もしかして、予知夢 なんだろうか。

でも、どこまでが予知夢でどこからが悪夢?


「……咲季、大丈夫か?話は終わったから、今日はもう休もう」


陸が冷たくなった私の手を引く。

温かい陸の体温にほっとする。


そう、あれは悪い夢だ。

明らかにおかしい状況なのに、無理やり自分に言い聞かせる。

だって、そうじゃなきゃ。そうじゃなきゃ、嫌だから。

陸が殺されてしまうなんて、受け入れることなんてできない。



それからは、既視感を感じる日々を送った。

聞き覚えのある会話、知らないはずなのに行ったことのある場所。

気付いた瞬間に叫びそうになるのを抑え、気のせいだ、と蓋をした。



「予知夢を見ました」


陸の言葉に、全身が粟立つ。

元の世界に帰る日まであと1週間ほど。

食卓に並ぶフレンチトースト。

あの夢と、まったく同じ状況だった。


「場所は、たぶん教会。男性が倒れていました。……といっても、倒れてる姿しか見えなかったからそれが事件なのか病気とかでなのかは分かりませんが……」

「いや、十分だよ。ありがとう。海沿いの警護はそのまま、国の三つの教会の警護を強化する」


夢の中と、同じ会話。今日だけでなく、今までも何度も同じようなことがあった。

あの悪夢だと、今日の夜、陸は……。


「あ、あのっ」


いよいよ限界だった。

この既視感を無視するわけにはいかなかった。

あの悪夢を、現実になどしたくない。


「今日の、夜の警護はトウヤさんにしていただけませんか……!」


突拍子のないことを言い出した私を、三人が驚いたように見ている。

悪夢では、ケイが頭から血を流して倒れていた。

だから、トウヤさんに護衛を変わってもらうことで流れを変えたかった。

夢と同じではない、と安心したかった。


「咲季、急にどうしたんだ?」

「あ、えっと……」


陸の問いに上手く答えられずにいると、ケイがフレンチトーストを頬張りながら助け船を出してくれた。


「いいじゃん。時間、交替しようよ。トウヤ今までずーーーっと咲季たちと楽しそうにお出かけしてたよね?ずるいよ。残りは僕が昼勤する」

「ケイ……」

「それにさ?昼より夜のが責任重大じゃん?なんたって奴は夜に出るんだからさ。トウヤは楽しく遊びに行ってる反面、僕は一人でさみしーく危険な夜を過ごしてるんだよ?不公平でしょ」

「いや、俺も出かけた先で危険がないよう気を張ってるんだけど……。まあ、いいか。でも、ケイは夜勤明けだからもう休んだ方がいい。二人とも、悪いけど今日は城で過ごしてくれるか?昼は俺たちの代わりに腕の立つ騎士についてもらう。夜からは俺が警護、明日の昼はケイ、でいいか?」

「はい……!ありがとうございます!」


ほっと息をつく。


これで、大丈夫。きっと何事もなく明日が来る。


夜が来て、ベッドに潜り込むもなかなか寝付けない。

早く寝ないと。焦れば焦るほど眠れない。

明日は、ケイが外に連れて行ってくれる予定だ。今日の夕食時どこに行こうかと楽しそうにしていた。

クマがある状態で行くわけにはいかない。

わかっているのに。一睡もできないまま夜が明けた。


生きた心地がしない。

うるさく騒ぐ心臓を落ち着かせることができない。

時刻は朝6時前。

いつも大体8時ごろに朝食ができたと教えてくれるから、まだ2時間ほどは誰も訪ねてこないだろう。

普段であれば二度寝を試みる時間だが、とても眠れそうにない。

だから、私は部屋のドアを開けることにした。

この不安を取り除くにはそれしかないと思った。


震える手で、ゆっくりとドアノブをひねる。

小さく深呼吸をしてから、ドアを押した。


大丈夫。扉を開けたらきっとトウヤさんが「おはよう」って笑いかけてくれるはず。

大丈夫、だから。


扉は全て開かなかった。途中で何かに引っかかって止まってしまう。

真っ先に感じたのは、以前も嗅いだことのある、血の匂いだった。

そして、扉に引っかかる「何か」の正体に気付いたとき、私は悲鳴を上げた。



私の悲鳴を聞いて、人が集まる。

けれど、誰もが部屋の前の惨状に近寄れずにいた。

そんな中、聞き馴染みのある声が焦ったようにこちらに近付いてきた。


「咲季!!!!」


ケイの姿を見た瞬間、視界が滲みとめどなく涙が溢れ出した。

彼は部屋の前を見て動揺するも、すぐに気を持ち直して扉の前で腰を抜かしてしまった私に目線を合わせハンカチを差し出してくれた。


「咲季、無事?」

「あ……わたし、は、へいき」


ケイはほっとしたような顔をした後痛々しそうな顔で、床に横たわる彼に目を向けた。

私の部屋の前に力なく横たわっている彼は……、トウヤさんだった。

茶色の髪はカーペットに散らばり、綺麗なオレンジの瞳は光を失っている。

彼から流れた血は胸元から流れているようだ。


「心臓を一突き、か……」

「トウヤ、さん、生きてるよね……?」

「……いや、もう亡くなってる」


絶望する私の前で、ケイはごそごそとトウヤさんの上着のポケットを漁る。


「……あった」


ケイは、トウヤさんの上着の裏ポケットから何かを見つけ、取り出した。

それは白い花だった。

ほとんど機能していない頭の中で、それが連続殺人鬼だという証明ということを思い出す。

花の名前はわからない。分かったところで花言葉も分からないけど。


「りくは……?」


震える声で問う。

本当は分かっている。陸が無事なら、私の悲鳴を聞いたら絶対に来てくれる。

なのに、恐ろしいほど隣の部屋は静かだ。

ケイもそのことに気付いたのだろう。僅かに緊張した顔で陸の部屋に向かった。

私も陸の部屋に行きたかったけど、体に力が入らなくて動けなかった。

しばらくしてケイが出てくる。

眉を下げ唇を噛む彼の手には一本の黄色い薔薇。

ふるふると首を横に振るケイに、私の意識はぷつりと途切れた。

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