異世界と出会い
『異世界転移』
なんて、本当にあるんだなあとぼんやり考えていた。
目の前で話しているのはとても豪華な服を着た男性。
そしてただの日本人であるはずの私たちがいるのは、よくアニメとかでみる謁見の間、みたいな場所。
見渡す限り、一目見ただけで高級だと分かるような調度品ばかりだ。
隣を見ると、幼馴染の陸が呆然とした顔で立っていた。
私の名前は木本咲季。
隣にいるのは家がお隣同士で小さい頃から仲がいい都築陸。
ここに来る前は、いつもと変わらない学校からの帰り道だった。
今日の授業がどうだった、とか他愛もない話をしながら家までの道を歩いていた。
家の近くの公園を横切ると近道だから、いつもそうしていた。
今日もそうしようと公園に足を踏み入れた瞬間、白い光に包まれて目を開けたら私たちは立派な王城にいたのだ。
なんの変哲もない公園から、いきなり豪華な部屋に瞬間移動、しかも周りにいるのは外国人らしき人たち。
普段からそういった漫画やアニメを好んで見ていた私は瞬時に異世界転移したのだと思った。
驚く私たちに、目の前の煌びやかな衣装を纏った国王様は自己紹介の後、丁寧に説明をしてくれていた。
この国ではここ数年、殺人が頻繫に起きている。
3年前、清々しい春の朝に似つかわしくない悲鳴が響き渡ったのが地獄の始まりだった。
最初の被害は浮浪者。小汚い格好で誰彼構わずに悪態を突く彼は町の嫌われ者だった。
そんな彼が残虐に殺された姿は町を震撼させたけども、恨みを持った人に殺されたんだろうくらいにしか思われなかった。
次の被害者は花屋の娘。殺されたのは1件目の被害者とは少し離れた町だった。
そして3度目の事件が起こり、騎士団はこの3件の事件を同一人物による犯行だと決定づけた。
騎士団は犯人捜しと町の警護に尽力するも空しく、被害はどんどん増えていった。
最初のころは数か月に一度だった被害も、ここ最近は一か月に何度も起こり、先日ついに時期侯爵まで殺されてしまった。いままでの被害者は全員平民だったのに、だ。
さすがにまずいと思った国王が、古の文献に載っている「救世主」を召喚した。それが私たち、ということだ。
説明を聞いて、すんなりと理解することができた。
異世界ものが流行りに流行っていたのだ。まさか本当にあるなんて。そんな気持ちだ。
よーしさくっと世界救っちゃいますか!なんて若干浮かれている私の隣で、陸は眉をひそめながらおずおずと発言した。
「事情は分かりました。でも、俺たちただの学生で特別なこととか何もできませんが…」
「問題ない。文献によると、救世主として召喚した者は国の安寧を導く存在になると書いてある。特別な力等は特に必要ない。勝手に呼び出してしまい申し訳ないと思うが、この問題が解決しようがしまいが次の満月の日にはそなたらを元の世界に返すと誓おう」
「…それって大体何日後なんですか?」
「召喚は満月の日に一回だけしかできない。今日がその日だから、おおよそ29日後だ。」
「29日後…」
ぽつりと陸が復唱した。
日本で流行っていた異世界転移ものは元の世界に帰れないと言われる話も少なくない。
帰れるだけありがたい。
けれど、家族のことが頭に浮かぶ。
帰り道にいきなりここに連れてこられたから、このまま一か月も帰らなければ物凄く心配させてしまうだろう。
友達だって、突然1か月も学校に行かなくなったら何事だと思うはずだ。
さっきまで自分がヒーローと崇め讃えられる妄想でわくわくしていたけど、現実を考えたら不安になってきた。
「本当に少しでも戻ることはできませんか?家族が心配していると思うので無事だって伝えたいのですが」
「大丈夫だ、元の世界に帰す時、こちらに来たときの時間軸に合わせる」
なにそれすごい、そんなことができるんだ。
ファンタジーな世界に目を輝かせるけども、隣の陸は不安そうに眉が下がったままだ。
「この国には殺人鬼がいるってことですよね?俺たちの安全はきちんと保証してくれますか?」
陸の言葉に王様はこくりと頷いた。
「もちろん、そなたたちの安全はしっかり保証する。我が国の信頼する騎士が護衛に就かせていただく。トウヤ、ケイ」
王様に呼ばれて、後方から騎士団のものと思われる制服を着た若い男性二人が前に出てきた。
一人は、明るい茶髪をオールバックにした、オレンジの瞳の男性、もう一人は紺色の髪に赤いたれ目の男性だ。
オレンジの瞳も赤い瞳も二次元でしか見たことがない。改めて、ここが異世界なんだと実感する。
彼らは私たちの前に跪き、頭を垂れた。
「「この命を懸け、しっかりとお守りいたします」」
次の満月までの間、私たちは王城に泊まることになった。
トウヤさんとケイさんは、交代制で私たちを24時間警護してくれるらしい。
「咲季様と陸様の警護を担当させていただきます、トウヤです。よろしくお願いいたします」
「同じく、ケイです。よろしくお願いいたします」
王城の一室で、ソファに座る私たちの前で二人は再度頭を下げた。
茶髪の方がトウヤさん、紺色の髪の方がケイさんと名乗ってくれた。
「こ、こちらこそよろしくお願いします!」
整った容姿の二人に恭しくされ、緊張しながらも私も頭を下げる。
「よろしくお願いします。…あの、そんなにかしこまらなくていいですよ。約一か月傍にいてくれるのですし、ため口で大丈夫です」
隣に座る陸がそう言うと、二人は目を瞬かせた。
「俺たち、17なのでまだ成人していない子供です。あなたたちのが年上でしょうし、敬語を使われるのは正直落ち着かないです」
そうだよね?と陸がこちらに視線を向けた。確かにこの調子だとずっと緊張してしまいそうだ。
「陸の言う通り、敬語はいらないです。せっかく出会えたのだし、むしろ仲良くできたら嬉しいです」
私の言葉に二人は目を更に丸くさせたと思ったら、ケイさんが笑い出した。
「はは!仲良く、か。いいねー。じゃあ素でいかせてもらおうかなー」
「ったく、ケイは切り替えが早いな。でも、助かるよ。これからよろしくな!」
二人はにこにこ笑って、部屋に穏やかな空気が流れた。
物騒な異世界に来てしまったというのに、私の心は期待と好奇心で溢れていた。




