表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

64/70

第64話:AI「SHIBA」vs AI「KOMEI」~アルゴリズム戦争~

東京証券取引所のサーバーが唸りを上げている。

ウェイソルの株価チャートが、物理法則を無視した動きを見せていた。


1,500円 → 1,480円 → 1,510円 → 1,450円


「なんだこの動きは!? 乱高下が激しすぎる!」


社内のモニタールームで、監視スタッフが悲鳴を上げる。

ニュースが出たわけではない。機関投資家が動いた形跡もない。

だが、マイクロ秒(100万分の1秒)単位で、数千、数万という膨大な「売り」と「買い」の注文が浴びせられ、株価を強制的に押し下げている。


「……人間ではないな」


勇(司馬懿)は、流れる滝のような注文ログ(板情報)を凝視した。

この超高速取引(HFT)、そして市場参加者の心理を先読みし、恐怖を煽るように売りを誘うアルゴリズムの波形。

あまりにも美しく、そして冷酷に計算され尽くしている。


「そこにいるな。……AI『KOMEI(孔明)』」


海の向こう、Applexのデータセンターから放たれた、モロクズの分身。

かつて五丈原で、死してなお司馬懿を走らせた「木像」の如く、現代ではデジタル・ゴーストとなって勇を追い詰める。


「SHIBA。……起動ウェイクアップ


勇は、自らの分身であるAI「SHIBA」の封印を解いた。


『System Online. Target confirmed: AI_KOMEI.』


「迎撃せよ。……市場という名の戦場で、どちらの軍師が上か決めようじゃないか」


   *  *  *


【電子空間:0.001秒の世界】


人間の目には止まって見える一瞬の間に、AI同士の壮絶な殴り合いが始まった。


AI「KOMEI」の戦術は「八卦のパーフェクト・オーダー」。

過去数十年分の市場データと、投資家心理を完璧に学習し、「勇が買い支えようとするポイント」を0.0001秒先回りして売り崩す。

勇が「守り」に入れば入るほど、KOMEIはその行動パターンを読み切り、包囲網を狭めていく。


『Warning: 予測勝率 2.8%... 回避不能...』


SHIBAが悲鳴を上げる。

論理ロジックでは勝てない。孔明の計算式に、凡人は逆らえない。

だが、勇はモニターに向かってニヤリと笑った。


「馬鹿め。……奴の計算は『合理的』すぎるのだ」


勇はコマンドを打ち込んだ。


『Command: Override Logic... Mode "CHAOS"』


「SHIBA、計算を捨てろ。……『発狂』しろ」


次の瞬間、SHIBAの挙動が変わった。

高値で掴んで安値で投げる。意味不明な銘柄とセットで売買する。フィボナッチ数列を無視する。

それは、投資セオリーを完全に無視した、酔っ払いの千鳥足のような「ランダム・ノイズ」だった。


AI「KOMEI」の処理が遅延する。

『Error... 予測不能... パターン不一致...』


完璧な予知能力を持つ者は、理屈の通じない狂人を最も恐れる。

KOMEIが構築した美しい数式(陣形)の中に、SHIBAという泥だらけの異物が混入し、計算式を内側から食い破っていく。


『Target Logic: Collapsing(崩壊中)』


KOMEIのアルゴリズムがバグを起こし、売り浴びせの手が止まった。

その隙を逃さず、SHIBAは正確無比な「買い戻し」に転じ、株価を一気にV字回復させた。


   *  *  *


「……止まった」


モニタールームに静寂が戻る。

暴落していた株価は、元の水準に戻り、安定して推移していた。


勇は、熱を持って唸るPCのファンに手をかざした。


「見たか、孔明。……前世ではお前の完璧さに怯えたが、現代ではその『完璧さ』こそが弱点だ」


死せる孔明、生ける仲達を走らす。

だが今、生ける仲達(SHIBA)は、デジタルの孔明(KOMEI)の裏をかき、その足を止めた。


「学習しておけ、SHIBA。……真の知略とは、時に自ら泥を被り、狂気を演じることにあるとな」


モニターの中で、SHIBAのアイコンが、どこか誇らしげに点滅した気がした。


---


【史実から学ぶビジネス兵法】


No.064:八卦の陣とアルゴリズム

諸葛亮が考案したとされる「八陣図(八卦の陣)」は、変化に富み、死角のない完璧な陣形だったと言われる。

現代のAIやアルゴリズム取引も同様に、過去のデータを元にした「最適解」の結晶である。

しかし、AIは「過去に前例のない非合理な動き(ブラック・スワン)」には極端に弱い。

「カオス理論」が示す通り、完璧に秩序だったシステムは、わずかなノイズで崩壊する脆さを持つ。

相手が賢すぎる場合、こちらはあえて「愚者」や「狂人」のように振る舞い、相手の予測モデルを破壊するのが、AI時代のジャイアント・キリングである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ