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第63話:メディアスクラム ~ネガキャンの嵐~

月曜日の朝。ウェイソルの広報電話は、鳴り止まない着信音で悲鳴を上げていた。


『週刊誌砲炸裂! ウェイソルの闇』

『元社員が告発! 月200時間の残業とパワハラ地獄』

『粉飾決算の疑い? 監査法人が調査か』


週刊誌、ネットニュース、SNSのトレンド。

ありとあらゆるメディアが一斉に、ウェイソルへのネガティブキャンペーンを開始した。

根も葉もない嘘と、わずかな事実を針小棒大に膨らませた記事の数々。

これは自然発生的な炎上ではない。Applexの広報戦略チーム、そしてジェームズ・K・モロクズ(孔明)が指揮する、組織的な「情報爆撃」だ。


「ど、どうなってるんだよ! 株価がストップ安じゃないか!」


社長代行室で、ソウ専務が頭を抱えていた。

「おい司馬! 今すぐ謝罪会見だ! 『全部僕たちが悪かったです』って泣いて謝ろう! そうすれば許してくれる!」


「……お断りします」


勇(司馬懿)は、スマホでSNSの炎上具合を確認しながら、冷淡に答えた。


「謝罪した瞬間、疑惑は『事実』になります。それに、これはただの火計。風向きを変えれば、炎は敵を焼きます」


「風向きって、どうやって変えるんだよ!」


「私がテレビに出ます」


勇は立ち上がり、ジャケットを羽織った。


「悪名は無名に勝る。……全国民に、私のツラを拝ませてやりましょう」


   *  *  *


その夜。報道番組『ニュース・ジャパン』のスタジオ。

生放送のゲスト席に座った勇に対し、キャスターが鋭く切り込んだ。


「……司馬専務。ネット上では御社に対する批判が殺到しています。『ブラック企業』『不正会計』……これらは事実なのですか?」


カメラのレンズが勇の顔をアップで捉える。

全国の視聴者が、この「渦中の悪役」がどう弁明するかを固唾を飲んで見守っていた。

勇は、ゆっくりと眼鏡の位置を直した。

そして、不敵に――いや、傲慢とも取れる笑みを浮かべた。


「キャスター。貴方は不思議に思いませんか?」


「え?」


「なぜ、極東の小さな島国の一企業に対し、世界最強のGAFAが、これほど必死にネガティブキャンペーンを張るのか」


勇はカメラの向こうの「敵」を見据えた。


「答えは単純です。……我々が、彼らにとって『脅威』だからです」


スタジオが静まり返る。

疑惑の否定ではない。論点のすり替えだ。


「彼らは恐れているのです。ウェイソルの技術が、彼らの独占市場を破壊することを。だからこそ、嘘を流してでも我々を潰そうとしている。……この報道の嵐こそが、我々の技術力の証明書エビデンスなのです」


勇はニヤリと笑った。


「視聴者の皆さん。巨大資本によるイジメに加担するか、それとも、それに抗う我々を応援するか。……賢明な日本人の皆様なら、どちらが『正義』か、お分かりでしょう?」


   *  *  *


放送終了後。

ネット(Twitter/X)の潮目が、劇的に変わった。


『今の見た? 司馬専務、悪役っぽくてカッケー!』

『確かに、Applexがここまでやるのおかしいよな』

『GAFAの植民地になるのは嫌だ! ウェイソル頑張れ!』

『株買ったわ。これ現代の攘夷戦争だろw』


「#ウェイソル義勇軍」というハッシュタグがトレンド入りし、若者や個人投資家たちが、次々とウェイソル擁護に回り始めた。

勇のダークヒーロー的なカリスマ性が、日本人のDNAに眠る「判官贔屓ほうがんびいき」と「反骨精神」に火をつけたのだ。


本社に戻った勇は、スマホに流れる応援コメントの奔流を見て、小さく息を吐いた。


「……チョロいものだ」


真実などどうでもいい。

大衆はいつだって、退屈な正論よりも、刺激的な「物語ストーリー」を求めている。

「ブラック企業の隠蔽」という物語を、「巨大帝国 vs 反逆のレジスタンス」という物語に書き換えた瞬間、勝負は決した。


「モロクズよ。……情報戦メディアスクラムはお前の得意分野だろうが、民衆の熱狂を操ることにかけては、私に一日の長があるようだ」


勇の背後には、ネットという名の見えざる数百万の軍勢が形成されていた。


---


【史実から学ぶビジネス兵法】


No.063:虚実のきょじつのけい

曹操は「虚実」を使い分ける名人だった。偽情報を流して敵を誘導し、真実の中に嘘を混ぜて混乱させる。

現代のSNS社会において、事実は必ずしも重要ではない。「誰が一番面白いストーリーを語っているか」が勝敗を決する。

炎上した際、下手に謝罪して「弱者」になるよりも、堂々と開き直って「強大な敵と戦う勇者(あるいは魔王)」というポジションを確立する方が、大衆の支持を集め、ファン化させることができる場合がある。

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