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第61話:四面楚歌! ホワイトナイト(白馬の騎士)を探せ

「……申し訳ない、司馬さん。今回は見送らせてほしい」


丸の内、メガバンクの本店。

応接室で頭を下げる融資部長の言葉に、勇(司馬懿)は表情を殺して問い返した。


「御行とは創業以来の付き合いだ。ウェイソルの技術的価値も、将来性もご存知のはず。……なぜ、見捨てるのです?」


「上からの……いや、もっと『上』からの圧力だよ」


部長は声を潜め、天井を指差した。

「Applexは、ウチにとっても最大のシステム顧客だ。『ウェイソルを助けるなら、今後一切の取引を打ち切る』と通達があった」


「……なるほど」


勇は席を立った。

これで5行目だ。

商社、保険会社、国内の投資ファンド。

頼みの綱だった国内の有力企業は、すべて門前払いだった。

彼らは一様に、ウェイソルの技術を惜しみながらも、Applexという巨人の影に怯えていた。


(モロクズめ……。TOBを仕掛ける前に、既に外堀を埋めていたか)


勇は雨の降るオフィス街を歩きながら、舌打ちした。

これは単なる買収劇ではない。

「外交包囲網」だ。

諸葛孔明が得意とした、周辺国を味方につけ、敵を孤立無援にする外交戦術そのものだ。


「国内には、もう味方はいない。……このままでは、窒息死する」


勇はスマホを取り出した。

画面には、ApplexのTOB期限までのカウントダウンが表示されている。あと10日。

ホワイトナイト(友好的な買収者)を見つけ、Applexよりも高い株価を提示してもらわなければ、ウェイソルは終わる。


勇の足が止まった。

目の前には、横浜中華街の極彩色ごくさいしきの門が見えていた。


「……毒を食らわば皿まで、か」


勇は覚悟を決め、ある番号に電話をかけた。

相手は、かつてシリコンバレーで名刺交換をした、中国系巨大テック企業のエージェントだ。


   *  *  *


中華街の裏路地にある、会員制の円卓料理店。

回転テーブルの向こうに座っていたのは、細身のスーツを着た中国人男性・ルーだった。


「ニーハオ、司馬サン。……まさか、アナタの方から連絡をくれるとはね」


陸はプーアル茶を啜りながら、不敵に笑った。

彼の背後にいるのは、中国・深センに本社を構える世界的なコングロマリット「スングループ」。

Applexとは犬猿の仲であり、アジア市場の覇権を争う第三の極――三国志で言えば「」に相当する勢力だ。


「単刀直入に言います。……ウェイソルの株を買い支えていただきたい」


勇は頭を下げた。


「ほう? 我々はアナタ達の技術をコピーしようとした敵ですよ? ……プライドはないのですか?」


「国が滅びては、プライドもありません」


勇は陸の目を真っ直ぐに見据えた。


「それに、貴社にとっても悪い話ではないはずだ。ウェイソルを手に入れれば、Applexが喉から手が出るほど欲しがっている『次世代通信技術』が手に入る。……奴らの鼻をあかす、絶好の機会だ」


「敵の敵は味方、というわけデスか」


陸は扇子を開き、口元を隠した。その目は、獲物を値踏みする商人のそれだった。


「いいでしょう。我々『孫グループ』は、ホワイトナイトとして名乗りを上げマス。……ただし」


陸は、契約書の裏面を指差した。


「条件がありマス。……買収防衛に成功した暁には、ウェイソルの技術特許の半分を、我々に譲渡ライセンスすること」


それは、実質的な技術の切り売りだった。

Applexに食われるか、孫グループに腕を一本差し出すか。

究極の選択。


勇は、震える手でペンを握った。

虎(Applex)から逃れるために、狼(孫グループ)を家に招き入れる。

だが、今はそれしか生き残る道はない。


「……飲みましょう。その条件」


勇はサインした。

赤壁の戦いにおいて、劉備(蜀)と孫権(呉)が手を組んで曹操(魏)に対抗したように。

現代の「合従連衡がっしょうれんこう」が成立した瞬間だった。


契約成立ディール・ダンだ、司馬サン」


陸がニヤリと笑う。

その笑顔は、頼もしい援軍であると同時に、いつか背中を刺すかもしれない裏切り者の顔でもあった。


---


【史実から学ぶビジネス兵法】


No.061:合従連衡がっしょうれんこう

強大すぎる敵(秦・GAFA)に対抗するため、弱小国同士が手を組む外交戦略。

「赤壁の戦い」における孫権・劉備連合軍がその代表例である。

ビジネスにおいて、圧倒的シェアを持つトップ企業に対抗するには、2位以下の企業や、異なる市場の巨人と提携する「アライアンス」が不可欠となる。

ただし、その同盟は「友情」ではなく「利害」のみで結ばれている。

ホワイトナイト(白馬の騎士)は、姫を助けた後、その城を乗っ取る黒騎士に変貌するリスクを常に孕んでいることを忘れてはならない。


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