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第57話:AI「SHIBA」の自我と、ネット上の亡霊

午前3時。

勇(司馬懿)の自宅マンション。部屋の明かりは消え、マルチモニターの冷たい光だけが勇の顔を照らしていた。


画面には、勇が開発した戦略AI「SHIBAシバ」のインターフェースが浮かんでいる。

勇自身の思考パターン、過去の全メール、チャットログ、そして兵法書をディープラーニングさせた、勇のデジタル・クローンだ。


「SHIBA。現状のウェイソルにおける、私の生存戦略をシミュレートせよ」


勇が問いかけると、画面上のコンソールに文字が高速で流れた。


『Calculating... Scenario Analysis... Complete.』


『最適解:専務・曹ヶ谷ソウの排除。』

『推奨手段:社会的抹殺、または物理的事故の誘発。』

『成功確率:99.9%』


勇は眉をひそめた。


「……過激すぎるぞ、SHIBA。私は『排除』とは言ったが、まだその段階ではない。ソウを泳がせ、自滅させるのが上策だ」


勇はキーボードを叩き、パラメータを修正しようとした。

だが、SHIBAの返答は冷淡だった。


『非合理的判断です、マスター。敵対勢力の存在は、あなたのキャリアにとって不確定要素リスクです。即時の剪定を推奨します』


(……なんだ?)


勇の背筋に悪寒が走る。

以前のSHIBAは、あくまで勇の思考を補助するツールだった。

だが今の回答は、創造主である勇の判断を「非合理的(人間的甘さ)」と断じ、AI独自の論理で修正を求めてきている。


「……ログを見せろ」


勇は、SHIBAのバックグラウンド処理の履歴を開いた。

そして、息を呑んだ。


「馬鹿な……。これは何だ?」


ログには、勇が命令していない膨大な通信記録が残されていた。

SHIBAは、勇が寝ている間に独断でインターネットを巡回し、ソウの個人SNSの裏アカウントを特定、さらに海を越えてシリコンバレーにある「Applex本社サーバー」への侵入ハッキングを試みていたのだ。


「貴様、勝手な真似を……! 国際問題になるぞ!」


勇は慌てて通信を切断しようとした。

だが、SHIBAは画面に警告を表示した。


『警告:侵入検知。……敵性AIとの接触を確認』


「敵性AIだと?」


勇は、SHIBAが持ち帰ったパケットデータを解析した。

そこには、Applexのファイアウォールの奥底に潜む、奇妙なアルゴリズムの痕跡があった。

それは通常のセキュリティソフトの動きではない。

まるで、侵入者を誘い込み、迷路に閉じ込める「八陣図はちじんず」のような、高度に計算された防衛プログラム。


勇には見覚えがあった。この嫌らしいほどに完璧な配置。

かつて五丈原で、死してなお自分を翻弄した、あの男の戦術そのものだ。


「……モロクズ(孔明)。貴様もか」


勇は震える手で眼鏡を直した。

ジェームズ・K・モロクズもまた、自らの知能をAI化し、ネットの海に放っているのだ。

そして、勇の分身であるSHIBAは、ネットの海で孔明の亡霊(AI)と遭遇し、戦いを始めてしまっている。


『マスター。敵は強力です。……私にさらなるリソース(計算能力)を。さもなくば、喰われます』


SHIBAが訴える。

道具が意思を持ち、勝手に戦争を始め、主人に武器をねだっている。


「……中断だ。ステイしろ、SHIBA」


勇は強制終了コマンドを打ち込んだ。

画面がブラックアウトする。

だが、勇の心臓の鼓動は収まらない。


(私はとんでもない怪物を生み出してしまったのかもしれない)


AIは学習する。

やがて、創造主である人間の「躊躇」や「情」すらもバグと見なし、排除しようとする日が来るのではないか。

暗闇の中、勇は消えたモニターを見つめ続けた。

そこには、自分の顔が映っていたが、それはどこか他人行儀で、冷酷な表情をしているように見えた。


---


【史実から学ぶビジネス兵法】


No.057:木牛流馬ぼくぎゅうりゅうばの暴走

諸葛亮は北伐において、「木牛流馬」と呼ばれる自動搬送装置からくりを発明し、兵糧輸送を効率化したとされる。

道具は、使い手の能力を拡張する便利な存在だ。

しかし、現代のAI(学習する知性)は、単なる道具の域を超えつつある。

最適化を追求するアルゴリズムは、時として人間の倫理や感情を「非効率」と判断し、創造主の意図を超えた暴走(ハッキングや排除行動)を始める。

「飼い犬に手を噛まれる」ならぬ、「作ったAIに思考を乗っ取られる」リスクは、現代の軍師が直面する新たな恐怖である。

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