第48話:老害役員の反乱 ~抵抗勢力を粛清せよ~
帰国後の最初の役員会。
シリコンバレーでの成果報告を終えた勇(司馬懿)に対し、会議室の空気は冷ややかだった。
「……司馬くん。君、少し調子に乗っているんじゃないか?」
口火を切ったのは、古参の大御常務。
昭和の時代からこの会社に居座る、典型的な「守旧派」のボスだ。
彼は湯呑みを音を立てて置き、不快感を露わにした。
「アメリカだか何だか知らんがね、我が社には我が社の『流儀』があるんだ。いきなり外国人部隊だの、成果主義だの……。日本の『和』を乱すような真似は慎んでもらいたい」
周囲の取り巻き役員たちも、「そうだそうだ」「若造が」と追随する。
彼らにとって、勇の急激な台頭は恐怖でしかない。自分たちの既得権益が脅かされるからだ。
勇は、表情一つ変えずに眼鏡の位置を直した。
(……フン。変化を拒む老木たちめ。ならば、新しい風でへし折ってやる)
勇は立ち上がり、ホワイトボードの前に立った。
「大御常務のご懸念、ごもっともです。……そこで私は、これからの経営戦略において『アジャイルなコンセンサス』と『シナジーの最大化』をご提案したい」
「……あ?」
大御が眉をひそめる。
勇は止まらない。
「現在のレガシーな商習慣は、グローバル・スタンダードから乖離しています。これらを『スクラップ・アンド・ビルド』し、『ステークホルダー』への『コミットメント』を高める。……そのための『グランドデザイン』がこれです」
勇は、意味がありそうで全くない、カタカナ語の弾幕を浴びせかけた。
「エビデンスは?」「アジェンダは?」「プライオリティは?」
役員たちは目を白黒させている。
意味はわからない。だが、「わかりません」と聞けば、自分が「時代遅れ」だと認めることになる。
彼らの肥大化したプライドが、それを許さない。
「う、うむ……。まあ、シナジーは大事だが……」
大御は知ったかぶりをして頷くしかなかった。
「ご理解いただき感謝します。……では、そのための具体策として、本日より社内の全連絡手段を『Slack』に移行します」
「ス……スラッ……?」
「メール、電話、FAX、そして紙の稟議書は本日をもって全廃します。全ての決裁、報告、連絡は、このチャットツール上でのみ受け付けます」
勇はニヤリと笑った。
「これこそが、シリコンバレー流のスピード経営。……まさか、役員の皆様ともあろう方々が、『使えない』なんてことはありませんよね?」
* * *
翌日から、役員フロアは地獄絵図と化した。
「おい! ログインできんぞ! パスワードってなんだ!」
「どこに入力するんだ! この『メンション』ってのは何だ!」
大御常務たちは、老眼でスマホやPCの画面を睨み、人差し指一本でキーボードを叩いている。
その速度は、亀が歩くよりも遅い。
一方、勇や若手社員たちは、秒速で情報をやり取りし、次々とプロジェクトを進めていく。
大御が、勇の席に紙の書類を持って怒鳴り込んできた。
「おい司馬! この件はどうなっている! 報告がないぞ!」
勇はキーボードから手を離さず、画面を見たまま答えた。
「常務。その件は3時間前に『Slack』で報告済みです。……まだご覧になっていないのですか?」
「なっ……! わしは見ておらんぞ!」
「見ていないのは貴方の怠慢です。……通知設定、教えて差し上げましょうか? それとも、文字が小さすぎて読めませんか?」
「き、貴様ァ……!」
勇は冷ややかな目を向けた。
これは「デジタル・デバイド(情報格差)」を利用した兵糧攻めだ。
新しいルール(ツール)に適応できない人間は、情報の奔流から取り残され、意思決定の輪から弾き出される。
会議室から締め出す必要はない。ただ、彼らの使えない土俵で相撲を取ればいいだけだ。
数週間後。
情報の流れについていけなくなった大御常務たちは、事実上の「窓際」へと追いやられた。
彼らの机の上には、誰も読まない紙の書類だけが、虚しく積み上げられていた。
「老兵は死なず。……ただ、オフラインになるのみ」
勇は、静まり返った役員フロアを見渡し、勝利のエンターキーを叩いた。
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【史実から学ぶビジネス兵法】
No.048:世代交代
老いた将軍や重臣は、過去の栄光(成功体験)にすがり、新しい戦術を否定する傾向がある。
彼らを排除するのに、剣や露骨な左遷は不要だ。
ただ、「彼らが理解できない新しいルール(テクノロジー)」を敷き、それを標準とするだけでいい。
ITツールの導入、評価制度の変更、共通言語の刷新。
変化に適応できない者は、自然と呼吸ができなくなり、組織の新陳代謝(粛清)は音もなく完了する。




