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第43話:Applexの刺客、ジェームズ・K・モロクズ

カリフォルニア州、クパチーノ。

宇宙船を思わせる巨大な円盤型本社、「Applex Parkアップレックス・パーク」。

その地下にあるシアターは、宗教的な熱気に包まれていた。


「Woooooo!!」

「USA! USA!」


世界中から集まったメディアと信者ファンたちが、今か今かと「神託」を待っている。

新作発表会。

最後列の座席に、パーカーのフードを目深に被った勇(司馬懿)と、興奮冷めやらぬ玲奈と美咲の姿があった。


「すごい……! 生の発表会だよ勇くん! 今日は何が出るのかな!?」


「静かにしろ。……敵情視察だ」


勇はサングラスの奥で、ステージを凝視した。

照明が落ち、静寂が訪れる。

スポットライトが、ステージ中央の一点を射抜く。


そこに立っていたのは、CEOではなかった。

全身を純白のスーツで包んだ、長身痩躯の東洋系の青年。

その手には、最新型の薄型タブレットが握られている。


『Ladies and Gentlemen.』


マイクを通したその声は、鈴を転がすように澄んでいながら、聴衆の脳髄に直接響くような奇妙な引力を持っていた。


「私の名は、ジェームズ・K・モロクズ。極東戦略担当シニア・バイス・プレジデントだ」


モロクズ(諸葛)。

その名を聞いた瞬間、勇の心臓が早鐘を打った。


(……なんだ、この威圧感は。ただのプレゼンターではない)


ジェームズは、ステージを優雅に歩き回った。

彼がタブレットを胸元で軽く振るその仕草は、まるで軍配――いや、「白羽扇はくうせん」を揺らしているように見えた。


『今日、私が話したいのは「未来」についてだ。……そして「過去」との決別についてでもある』


ジェームズの背後のスクリーンに、あえてモザイクをかけられた数枚のアプリ画面が映し出された。

それは明らかに、日本のIT企業が作った、ボタンだらけの複雑なUI。

そしてその中には、ウェイソルのアプリによく似た画面も混ざっていた。


『見てほしい。この醜悪な遺物を。……極東の島国(Far East Island)で作られた、ガラパゴス化したデザインを』


会場から失笑が漏れる。


『彼らは機能を詰め込むことこそが「サービス」だと勘違いしている。だが、それはユーザーへの冒涜だ。……美しくないものは、罪である』


ジェームズの言葉は鋭利な刃物となり、ウェイソルの哲学を切り刻んでいく。

名指しこそしないが、それは完全なる公開処刑だった。

玲奈が悔しさで唇を噛む。

「なによ……! 言い過ぎじゃない!」


だが、勇の反応は違った。

勇は、ガタガタと震え出し、座席の手すりを爪が食い込むほどに握りしめていた。


(……この口調。この論法。……知っている)


かつて、魏の軍勢を前にして、たった一人で舌戦を挑み、論理だけで相手を吐血させて殺した男。

琴を弾くような優雅さで、数万の兵を死地へと誘い込んだ、稀代の天才軍師。


ジェームズが、ふと客席の暗闇を見据えた気がした。

その涼やかな瞳が、サングラス越しの勇と交錯する。


『古い時代の将軍たちは、退場すべき時だ。……これからは、我々(Applex)という「天」が世界を統べる』


ジェームズが不敵に微笑む。

その笑顔が、前世の記憶――五丈原で対峙した、あの諸葛亮孔明の冷ややかな笑みと重なった。


「ぐ、うぅ……ッ!!」


勇の喉から、空気の漏れるような音がした。

過呼吸。

古傷の幻痛。

「死せる孔明、生ける仲達を走らす」と言わしめた、あの恐怖がフラッシュバックする。


「勇くん!? どうしたの!?」

玲奈が慌てて背中をさする。


「あ、あやつ……まさか……!」


勇は脂汗を流しながら、ジェームズ・K・モロクズを見上げた。

白いスーツの青年は、観衆の熱狂的な喝采スタンディングオベーションを浴びながら、まるで天下を平らげた丞相のように悠然と立っていた。


(間違いない。……奴だ。奴が、この時代に来ている)


シリコンバレーという最先端の地で、因縁の歯車が再び噛み合い始めた。


---


【史実から学ぶビジネス兵法】


No.043:宿敵の影

諸葛亮孔明は、武力ではなく「知」と「言葉」で魏を追い詰めた。彼の弁舌は、数万の軍勢に匹敵する心理兵器であった。

現代において、スティーブ・ジョブズに代表される「カリスマによるプレゼンテーション」は、聴衆を熱狂させ、自社製品を正義、他社製品を悪と定義する洗脳効果を持つ。

完璧なロジックと演出で構築されたプレゼンは、戦わずして敵のブランドイメージを焼き払う、最強の広域殲滅魔法である。


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