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第41話:渡米! シリコンバレーという名の西域

サンフランシスコ国際空港に降り立った勇(司馬懿)たちを出迎えたのは、突き抜けるような青空と、乾燥した風だった。


「わぁ……! ここが世界のテックの中心、シリコンバレー……!」


PMの玲奈が、サングラスをずらして歓声を上げる。

今回の出張メンバーは、勇、玲奈、そして通訳兼アシスタントとして選抜された美咲の3名だ。

帰国子女である美咲は、流暢な英語でタクシーを手配しながら、不敵に微笑んだ。


「玲奈先輩、驚くのはまだ早いですよ。ここじゃ空気すら『イノベーション』の味がしますから」


   *  *  *


ウェイソル・アメリカ支社のあるシェアオフィス。

そこは、日本のオフィスとは別世界だった。


壁のない広大なフロア。

社員たちはTシャツに短パン、あるいは裸足。

バランスボールに乗って会議をする者もいれば、ハンモックで寝ている者もいる。

そして何より――。


「勇くん、見て! カフェテリアが全部無料よ! ステーキも寿司も食べ放題!」


玲奈が目を輝かせる。

「素晴らしいわ……。日本のブラックな環境とは大違い。ここは天国ね」


美咲も頷く。

「これぞ『自由』ですね。誰も時間に縛られず、クリエイティビティだけが尊重される。……私もこっちに転籍しようかな」


二人が「アメリカン・ドリーム」の幻影に酔いしれる中、勇だけは、配給された無料のコーヒー(兵糧)を啜りながら、フロア全体を冷ややかに見回していた。


「……フン。平和ボケした目には、これが天国に見えるか」


「え?」


「玲奈さん。あそこでコードを書いているエンジニアの目を見なさい」


勇が指差した先には、ヘッドホンをして猛烈な勢いでキーボードを叩く男がいた。

短パン姿でリラックスしているように見えるが、その眼球は充血し、瞬きすら惜しんでいる。

そして、彼のデスクの横には、なぜかダンボール箱が一つ置かれていた。


「彼らは自由なのではない。『怯えている』のだ」


「怯える……?」


その時だった。

黒いスーツを着たセキュリティガードが二人、そのエンジニアの元へ近づいた。

何か短い言葉を交わすと、エンジニアは無表情でPCを閉じ、私物を入れたダンボールを抱えて立ち上がった。

抵抗も、別れの挨拶もない。

彼はそのまま、幽霊のようにオフィスから連れ出されていった。


「えっ……? 今の、何?」

玲奈が息を呑む。


「『レイオフ(解雇)』だ」


勇は淡々と告げた。


「ここは『At-will employment(随意雇用)』の世界。会社は理由なく、いつでも、即座に社員の首を刎ねることができる。さっきの彼は、今朝のコードレビューでパフォーマンスが出なかったか、あるいはプロジェクトが消滅したか……。いずれにせよ、彼は今この瞬間、無職になった」


「そ、そんな……さっきまで笑ってたのに……」


「無料の食事も、仮眠室も、全ては『家に帰らず働け』というメッセージだ。ここでは、成果を出せぬ者は即座に処刑される。日本のブラック企業など生温い。ここは、常にギロチンの刃が首元に触れている『処刑場』だ」


勇の言葉を聞いて、玲奈と美咲の顔から血の気が引いていく。

自由でカラフルに見えたオフィスが、急に血生臭いコロッセオに見えてくる。


勇は、空になったコーヒーカップをゴミ箱に投げ捨てた。


「だが、悪くない」


勇は口元を歪めた。


「無能な古株がのさばる日本の年功序列より、よほど清々しい。……実力さえあれば、王の首すら即座に取れるということだからな」


勇は、震え上がっているアメリカ支社の支社長室の方角を睨んだ。

西域シリコンバレー

そこは、司馬懿にとって最も血の騒ぐ、完全実力主義の荒野だった。


---


【史実から学ぶビジネス兵法】


No.041:西域せいいきとの交易

古代中国において、西域(中央アジア以西)は未知の財宝が眠る地であると同時に、異文化の猛獣が跋扈する危険地帯でもあった。

現代のシリコンバレーも同様である。

「自由な働き方」という甘い蜜の裏には、「At-will employment(随意雇用)」という、君主(経営者)が気に入らなければ即座に斬首(解雇)できる、ある意味で非常に封建的かつ残酷なシステムが横たわっている。

この地で生き残れるのは、常に剣を抜き、背後を警戒し続ける戦士だけである。

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