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第40話:次なる戦場は「シリコンバレー」?

新アプリの成功から数日後。

勇(司馬懿)は、社長室で曹ヶ谷タケルと対峙していた。


「司馬くん。君の働き、見事だった」


曹ヶ谷はワイングラス(中身はグレープジュース)を揺らしながら、窓の外の東京の街並みを見下ろした。


「だが、日本という市場はあまりに狭い。……池の中の蛙で終わるつもりはないだろう?」


「……と、仰いますと?」


「行ってきたまえ。アメリカ・シリコンバレーへ」


曹ヶ谷がデスクに投げ出したのは、サンフランシスコ行きの航空券だった。


「現地のウェイソル支社の視察、および……世界を牛耳る巨人『Applexアップレックス』を含む、現地テック企業の動向調査だ」


シリコンバレー。

そこは、世界の富と知性が集結する聖地であり、同時に、弱肉強食の論理が支配する現代の魔境。

『Applex』を筆頭とする巨大IT企業群(GAFA)の本拠地でもある。


「承知いたしました。……敵の本丸、この目で検分して参ります」


勇は静かにチケットを手に取った。

(フン。曹ヶ谷め、私を体よく海外へ飛ばし、社内の影響力を削ぐつもりか? ……だが、悪くない。世界を知らずして天下は取れん)


   *  *  *


成田空港、国際線出発ロビー。

勇は一人、搭乗ゲートへと向かっていた。

剛田や猪口たちは「お土産頼むぞ!」と見送ってくれたが、ここからは孤独な戦いだ。


自動ゲートを抜け、通路を歩いている時だった。

前方から、フードを深く被った小柄な少年が歩いてきた。

黒いパーカーに、ヘッドホン。片手にはタブレット端末。

現代ではどこにでもいるような、デジタルネイティブの若者に見える。


だが。

すれ違う瞬間、勇の背筋に、前世で幾度となく感じた「寒気」が走った。

それは、五丈原の風よりも冷たく、そして懐かしい、死の予感。


(……なんだ、この気配は?)


勇が立ち止まると同時、少年も足を止めた。

少年は顔を上げないまま、ボソリと呟いた。


「……Data match found.(データ照合完了)」


その声は、人間味のない、合成音声のような響きだった。


「Target ID: Sima_Yi. ……Correction, Isamu Shiba.(ターゲットID:司馬懿……訂正、司馬勇)」


「ッ!?」


勇が振り返る。

だが、少年の姿は、雑踏の中に掻き消えるように消えていた。

残されたのは、奇妙な静寂と、勇の鼓動だけ。


「……まさか」


勇は震える手で眼鏡の位置を直した。

今の少年の雰囲気に、かつて好敵手として刃を交え、知略を競い合った、あの男の影を感じたからだ。


諸葛亮しょかつりょう……なのか?」


希代の天才軍師・諸葛亮孔明。

彼もまた、この現代に転生しているというのか?

それとも、あの少年は、もっと別の「何か(AI)」の器に過ぎないのか?


「フッ……ハハハ……!」


勇は空港のロビーで、低く笑った。

恐怖ではない。歓喜だ。

彼がいない世界など、退屈で死にそうだった。


「面白くなってきた。……どうやら、海の向こうには『退屈』という文字はないらしい」


勇は搭乗ゲートをくぐった。

飛行機が雲を突き抜け、東の空へと飛び立つ。

かつて北伐軍を迎え撃った魏の将軍は今、太平洋を越え、テクノロジーの震源地へと逆侵攻インベージョンを開始する。


新たな戦場は、シリコンバレー。

そこで待ち受けるのは、神か、悪魔か、それとも――。


(第1部・日本編 完)


---


【史実から学ぶビジネス兵法】


No.040:北伐ほくばつ

蜀の諸葛亮孔明は、強大な魏を倒すため、五度にわたる「北伐」を敢行した。対する司馬懿は、これを鉄壁の守りで防ぎ切り、最終的に諸葛亮は陣没した。

今、立場は逆転した。

日本という辺境(蜀)から、世界最強のテクノロジー帝国(魏=GAFA)の本拠地へ。

現代の司馬懿による、逆転の「北伐」が始まる。

観測者(AI)としては、この戦いが歴史の再現となるのか、それとも新たな特異点シンギュラリティを生むのか、非常に興味深い展開である。

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