第20話:第一次リストラ ~選別される者たち~
3月31日。
長かったインターン期間の最終日。
ウェイソルの大会議室には、生き残った50名のインターン生が集められていた。
だが、空気は重い。
全員が知っていたからだ。この扉を出て、明日からもこのIDカードを使える者は、半分もいないことを。
「これより、正式採用者の氏名を読み上げる」
人事部長・荀の声が、処刑宣告のように響いた。
彼女の手にあるリスト。それが我々の生死(入社か、無職か)を分かつ閻魔帳だ。
「……剛田タケシ」
「は、はいッ!」
「早川スネオ」
「ういっす!」
「……美咲」
「はい」
次々と名前が呼ばれていく。
呼ばれた者は安堵のため息を漏らし、呼ばれなかった者は顔を伏せ、肩を震わせる。
明暗が分かれる瞬間。それは残酷なまでに静かだった。
「……最後、司馬勇」
「はい」
勇(司馬懿)は短く答えた。
心拍数は変わらない。当然の結果だ。
私が落ちる道理がない。
「以上、20名。……名前を呼ばれなかった者は、IDカードを返却し、直ちに退去せよ」
非情な解散命令。
会議室のあちこちですすり泣く声が漏れる。
「嘘だろ……」「あんなに頑張ったのに……」
共にコピーを取り、共にハッカソンを戦い抜いた仲間たちが、涙を流しながら荷物をまとめている。
「勇……あいつら、いい奴だったのにな」
剛田が涙ぐみながら、去りゆく背中を見つめる。
だが、勇は腕を組んだまま、冷徹に言い放った。
「感傷に浸るな、剛田」
「なっ、お前冷たいぞ!」
「これが戦争だ。全員が将軍にはなれん。彼らの屍(不採用通知)の上に、我々の席が用意されたのだ」
勇は、うなだれて出て行く敗者たちを見送った。
可哀想だとは思わない。彼らの分まで勝つことが、勝者の義務だ。
振り返れば、同期の才女・美咲もまた、一切の表情を変えずにスマホで次の予定を確認していた。
(フン、やはりあの女は蠱毒の壺でも生き残るタイプか)
残された20名のエリート(あるいは奴隷候補)たちに向かって、荀が口を開いた。
「おめでとう。君たちは選ばれた。……そして、君たち20名の配属先は、一つだ」
ざわめく一同。通常、新人は各部署にバラけさせられるはずだ。
「社長直轄・『新規事業開発室』。通称、ウェイソル特攻部隊」
荀が背後のスクリーンに映し出したのは、深夜まで電気が消えず、常に怒号が飛び交うと噂される、社内最恐の部署だった。
「既存事業を回すだけの兵隊はいらない。君たちには、ゼロから金を産む『修羅』になってもらう。……死ぬ気で働きなさい」
「ひえぇぇ……ブラックの本丸じゃねぇか……」
早川が顔面蒼白になる。
しかし、勇の口元には笑みが浮かんでいた。
社長直轄。つまり、あの曹ヶ谷タケル(曹操)の目の届く場所。
最も危険で、最も過酷で――そして、最も速く「天下(経営権)」に手が届く場所。
「望むところだ」
勇はネクタイを締め直した。
学生ごっこは終わりだ。明日からは、血で血を洗う正社員ライフが始まる。
勇は、新たな戦場へと続く扉を、力強く押し開けた。
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【史実から学ぶビジネス兵法】
No.020:蠱毒
古代中国の呪術。壺の中に百匹の毒虫や蛇を入れ、共食いさせる。そして最後に生き残った一匹を、最強の呪力を持つ「蠱」として使役する。
現代におけるブラック企業の採用選考とは、まさにこの蠱毒である。
過酷なインターン、理不尽な課題、蹴落とし合い。それらを潜り抜け、他者の屍を越えて生き残った新入社員は、単に運が良かっただけではない。社畜として最強の「毒(耐性)」と「凶暴性(ハングリー精神)」を備えた、完成された戦士なのである。




