表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/61

第13話:36時間耐久ハッカソン ~現代の強行軍~

金曜日の18時。

本来なら、華の週末へと心が解き放たれる時間だ。

だが、ウェイソルのオフィスには、地獄の釜の蓋が開いたような重苦しい空気が漂っていた。


「いいか、お前ら。ベンチャーに週末などない」


社長・曹ヶ谷タケルが、ホワイトボードに殴り書きした文字は『36時間耐久・新規事業ハッカソン』。

金曜の夜から日曜の朝まで、一睡もせずに新サービスのプロトタイプを作り上げる。

社長の気まぐれによる、強制参加のデスゲームだ。


「テーマは『破壊』だ。既存の常識をぶっ壊すアイデアを出せ。優勝チームには金一封。寝た奴は……わかってるな?」


曹ヶ谷のギロチンのような視線に、社員たちは震え上がった。

勇(司馬懿)のチームには、剛田(筋肉)、早川(軽薄)、美咲(野心家)、そして数名のエンジニアが配属された。


開始から12時間。土曜の朝6時。

オフィスのあちこちで、しかばねが転がり始めていた。

「もう無理……」「コードが書けない……」

睡魔という見えない敵が、兵たちの思考力を奪っていく。


「ふん、惰弱な」


勇は、給湯室で怪しげな調合を行っていた。

薬局で買った大量のカフェイン錠剤を砕き、それを最強のエナジードリンク『モンスター(魔剤)』で流し込む。

さらにブドウ糖とビタミン剤を加えた、勇特製の「現代版・兵糧丸ひょうろうがん」だ。


「飲め。心臓が早鐘を打つが、意識は覚醒する」


「い、勇……これ合法か? 色がドブ川みたいだけど……」

剛田が引いているが、勇は無理やり飲ませる。数分後、剛田の目がバキバキに決まり、猛烈な勢いでキーボードを叩き始めた。


「次に、シフト制を敷く」

勇はチームを三班に分けた。

「全員で走れば全員で倒れる。8時間稼働、4時間仮眠。常に誰かが起きている『輪番体制』で進むぞ」


「でも勇くん、君はずっと起きてるの?」と美咲が問う。

勇はニヤリと笑った。


「私は指揮官だ。……少し、瞑想(仮眠)をする」


勇は共有スペースのソファに横になり、アイマスクを装着した。

だが、耳だけは澄ませている。

ここからが本番だ。「狸寝入り」である。


深夜2時。

他チームのリーダーたちが、油断して大声で議論している声が聞こえてくる。


「Aチームの案、AI婚活アプリか……悪くないな」

「Cチーム、ブロックチェーンを使った物流管理……ふむ、技術的に面白い」


勇はアイマスクの下で、彼らのアイデアを全て記憶していた。

敵が苦労してひねり出した良案。それを聞き出し、自チームの案に「改良版」として組み込む。

これぞ、諸葛亮が霧の中で敵の矢を回収した「草船借箭そうせんしゃくせんの計」の応用。

労せずして、敵の知恵(矢)を我が物とするのだ。


日曜の朝。

発表会プレゼン

他チームが疲労困憊で支離滅裂な発表をする中、勇のチームだけはカフェインで瞳孔を開きつつも、整然としたプレゼンを行った。


「我々の提案は、AIとブロックチェーンを融合させた……」


他チームがどよめく。

「あれ? 俺たちのアイデアに似てないか?」

「いや、でもあっちの方が完成度が高いぞ……?」


曹ヶ谷社長は満足げに頷いた。

「いいだろう。採用だ」


勝鬨かちどきを上げる剛田たち。

勇は、空になったエナドリの缶を握り潰し、心の中で呟いた。


(強行軍の極意は、根性ではない。資源管理と、敵の利用だ。……とはいえ、この身体も限界か)


勇は勝利の美酒(祝勝会)を味わうことなく、その場で泥のように眠りに落ちた。


---


【史実から学ぶビジネス兵法】


No.013:強行軍きょうこうぐん

長坂の戦いにおいて、曹操は昼夜兼行の凄まじいスピードで劉備軍を追い詰め、その軍勢を壊滅させた。

現代のシステム開発における「デスマーチ(死の行軍)」や「ハッカソン」も同様である。

短期間で成果を出すために必要なのは、クリエイティビティなどの綺麗な言葉ではない。カフェインによる強制覚醒と、交代制による体力管理。そして何より、他者の成果物を効率よく取り込む(パクる)たのしさ……もとい、柔軟性こそが勝利の鍵となる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ