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5話

大嶽厳にとって、学園の「トップ」という地位は、当たり前の風景だった。


生徒会長。満点近い成績。圧倒的なカリスマ性。周囲を睥睨し、自分の言葉に従わない者はいない。その座は、厳が生まれた時から約束されていたかのような、完全な支配者のそれだった。


だが、そんな厳にも、心のどこかにある種の「虚しさ」はあった。


頂点には、孤独がつきまとう。友人と言えるのは、ただ幼馴染の悠真だけだ。その悠真ですら、最近は図書室に引きこもり始め、厳と距離を置きつつあった。


(つまらねえ…)


生徒会室の椅子に座りながら、厳はそう呟いた。完璧なはずの自分の人生に、何か大事なものが欠けているような気がしてならない。


その時だった。


生徒会室に、一人の少女が入ってきたのは。


桜庭伶奈。


学園一の美少女。その名前は、厳も知っていた。知らない者はいないだろう。だが、これまで、厳はそこまで気に留めていなかった。美女なんて、学園には腐るほどいる。なぜわざわざ、その中の一人にだけ目を留める必要があるのか。


「大嶽会長」


伶奈は、少し緊張したような表情で、厳に話しかけた。


「何だ」


厳は、不機嫌そうに返した。生徒会の雑務で、忙しいのだ。


「実は、私、生徒会に入りたいと思ってるんです。力になりたいというか…」


その時、厳の中で、何かが変わった。


伶奈の瞳。その中に宿っていた、純粋な「尊敬」の光。そして、自分に対する「献身的な気持ち」が、如実に伝わってきた。


(ああ、こいつ…俺のことを、本気で尊敬してるのか)


そんな感情を向けてくる者は、悠真以外にいなかった。周囲の者は皆、厳の「力」を求めて近づき、その「力」が及ばなくなった途端に去っていく。だが、伶奈は違う。その目は、厳という「人間」そのものを見ている。


「いいだろう。生徒会に入ってくれ」


厳は、そう答えた。


その後、伶奈は生徒会の仕事を熱心にこなし始めた。厳の指示には常に従い、彼の言葉を大切に扱い、そして何より、彼を「尊敬」し続けていた。


数週間が経った。


生徒会室での夜遅い仕事中のこと。二人きりになった室内で、伶奈は厳に話しかけた。


「大嶽会長…ずっと、言いたかったことがあるんです」


「何だ」


厳は、書類から目を上げた。


「私…大嶽会長のことが…」


伶奈は、頬を染め、視線を逸らした。その恥ずかしそうな顔は、何度も厳の心臓を揺さぶった。


「好きです」


その瞬間、厳の心は、軽く浮いた。


学園のトップに立つ者が、心から「愛されている」と感じたのは、初めてのことだった。


「俺も、お前のことが好きだ」


厳は、そう返した。


それから、二人の関係は急速に深まっていった。生徒会室での秘密のキス。放課後の手繋ぎデート。伶奈は、厳の隣で、いつも太陽のように笑っていた。


「大嶽会長…いえ、厳」


伶奈は、厳に寄り添いながら、その名を呼ぶ。


「うん」


「私、この気持ち、ずっと…」


伶奈は、厳の腕に自分の頭を預けた。その重みは、厳にとって、この上ない幸福だった。


(これだ。これが、俺が探してた感覚だ)


頂点にいながらも感じていた孤独。それを埋めてくれるもの。それが、伶奈の存在だったのだ。


だが、その幸福な日々は、長くは続かなかった。


ある日のこと。


生徒会室で、鳳凰院慧が厳に近づいてきた。生徒会の副会長にして、知り合って以来ずっと厳の右腕として働いてきた男だ。その表情は、いつもの冷静さの中に、何か別の感情が混ざっているように見えた。


「大嶽会長、ちょっと時間はありますか」


「何だ」


「実は、速水悠真について、少し気になることがあるんです」


厳の眉が、わずかに動いた。


「悠真について…?」


「はい。最近、彼が、あなたのことを…」


慧は、言葉を選ぶように、続けた。


「否定的に話しているという情報を聞いたんです」


「…何を言ってるんだ」


厳は、その言葉を信じなかった。悠真は、自分の幼馴染だ。そんなはずがない。


「聞くところによると、あなたが最近、彼を軽んじているのではないか、という話もあるようです」


「そんなことはない」


厳は、断定した。


「悠真のヤツは、確かに最近は図書室に引きこもってばっかで、距離ができたかもしれない。だが、俺が奴を軽んじたことなんて…」


その時、厳の脳裏に、ある場面が浮かんだ。


それは、数日前のことだ。


厳が、昇降口で悠真にあった時、


「最近、全然一緒に帰らねぇじゃねぇか」


そう言った時、悠真の目は、底知れぬ不安と不信感を湛えていた。


(あ、そっか。あの時…悠真のヤツ、何か考えてたんだ)


厳は、その時のやり取りを思い出した。自分は、伶奈との付き合いが嬉しくて、ついデート話を長々と話してしまった。そして、悠真にはラノベ好きであることを少し馬鹿にしたように返した。


だが、その程度のことで、悠真が自分を「否定的に話す」ほど、気を悪くするはずがない。二人は幼馴染だ。そんな小さなことで、壊れるほど、弱い絆ではない。


「慧、そういう情報は、どこから入ってくるんだ」


「複数の生徒から、聞いたんです」


慧は、平然と答えた。


「悠真くんが、『会長は俺のことを下に見てる』『会長は権力で人を支配してる』という話を、図書室で話してたと」


厳は、その言葉を聞いて、首を傾げた。


(そんなことを…悠真が…)


それでも、厳は信じなかった。


「慧、お前は、悠真の本人から、その言葉を聞いたのか」


「いえ、伝聞ですが…」


「なら、信じるに足りない。俺と悠真の関係は、そんなもんじゃない」


厳は、話題を打ち切った。慧の言葉は、どこか不自然だった。複数の生徒から聞いた、という割には、具体的な名前も、状況も、出てこない。


それは、純粋な「悪い噂」の典型的な広がり方だ。根拠がなく、ただ誰かが流した言葉が、次々と変形されて広がっていく。


「会長、ただ、念のためにということで…」


慧は、続けようとした。


「いい。もう、その話は終わりだ」


厳は、強く打ち切った。


その後、生徒会室には、沈黙が満ちた。


慧は、何も言わず、自分の机に戻った。だが、その背中には、何か別の感情が滲み出ているように見えた。


---


放課後。


厳は、図書室に悠真を迎えに行った。いつもの窓際の席で、彼は本を読んでいた。


「よ、悠真」


「…厳」


悠真の返事は、いつもより気が入っていないように聞こえた。


「なぁ、最近、お前、何か俺のこと思うことあるか。遠回しでいいから、言ってみてくれ」


悠真は、本から顔を上げた。その表情は、戸惑いに満ちていた。


「え…?」


「慧が、お前が俺のこと『権力で支配してる』だとか『下に見てる』だとか言ってるって聞いたんだ。本当か」


悠真の顔色が、一瞬で変わった。


「え…慧が…?」


「ああ。複数の生徒から聞いたんだとさ。だが、そんなことを言う奴の名前は出てこなかった」


厳は、悠真の目を見つめた。


「お前が、本当に俺のことそう思ってるなら、直接言ってくれ。お前は、俺の幼馴染だ。そんな遠回しなことはしないはずだ」


悠真は、沈黙した。その沈黙は、長かった。


「…違う。俺は、そんなことを言ってない」


「そうか」


厳は、その言葉を信じた。


「なら、慧の情報は、どこかの誤解か、誰かの作り話だ。気にするな」


「…そっか」


悠真は、そう返した。だが、その表情は、完全には晴れていなかった。どこか、引っかかるものを感じているようだった。


「なぁ、悠真」


厳は、改めて言った。


「お前と俺の関係は、そんな小さなことで壊れるほど、弱くない。幼馴染だろ。その絆を俺は信じてる」


悠真は、その言葉を聞いて、ゆっくりと頷いた。


「…ああ。そっか。俺も、厳のことを信じてる」


その言葉を聞いた時、厳は安堵した。


(よかった。悠真は、やっぱり俺の幼馴染だ)


---


その夜。


厳は、伶奈とデートをしていた。駅前のカフェで、二人は向かい合って座っていた。


「厳、何か考え事してるみたい」


伶奈は、そう言った。


「ああ、ちょっとな。慧が、悠真が俺のことを否定的に話してるって言ってきたんだ」


「えっ…?」


伶奈の顔が、一瞬で変わった。その変化は、微かだったが、厳は感じ取った。


「でも、悠真に直接聞いたら、そんなことは言ってないって言った」


「そっか…」


伶奈は、そう返した。だが、その目は、どこか別のところを見ているように見えた。


「でも…もしかして、悠真くん、昨日、図書室で…」


伶奈は、言葉を濁した。


「何だ」


「いえ…大したことじゃないんですけど。昨日、図書室で、悠真くんが、厳のことについて、何か言ってたような気がして…」


その言葉を聞いた時、厳の心に、小さな疑念が芽生えた。


(悠真が、俺のことを…)


だが、その疑念は、すぐに消えた。


なぜなら、伶奈は、それ以上何も言わなかったからだ。そして、厳は、伶奈の言葉よりも、伶奈の瞳の中に宿った「純粋さ」を信じることにしたからだ。


「気にするな。悠真は、そんな奴じゃない」


厳は、伶奈の手を握った。


「俺たちの関係は、そんなことで揺らがない」


伶奈は、その言葉を聞いて、微かに微笑んだ。


だが、その微笑みの奥には、何か別の感情が隠されていているように見えた。


厳は、その違和感に気づかなかった。


いや、気づいていたとしても、気づかないふりをしたかった。


なぜなら、その時の厳は、伶奈という「完璧な美少女」に支配されていたからだ。彼女の言葉、彼女の表情、彼女の存在そのものが、厳の判断力を奪っていた。


そして、それは、厳にとって、非常に危険な状態だったのだ。


---


数日後。


厳は、生徒会の仕事で、複数の1年生に話しかけることになった。


「おい、お前ら。来月の文化祭の準備の進捗はどうだ」


その時、一人の1年生が、おどおどした表情で答えた。


「あ、あの…実は…」


「何だ」


「その…大嶽先輩に、お願いされたことが…」


「お願い?俺は、何もお願いしてないが」


1年生は、さらに困ったような表情を見せた。


「いや…あのその…」


その後の会話の中で、厳は、何か奇妙なことに気づいた。


この1年生は、「厳が自分に何かをさせた」と思い込んでいるようだ。だが、厳は、この生徒と話すのは、今が初めてだ。


「なぁ、誰から聞いたんだ。俺が、お前に何かをさせたって」


「え、あ…」


1年生は、沈黙した。


「思い出せないのか」


「いや…その…桜庭先輩から…」


厳の脳裏に、アラームが鳴った。


「桜庭伶奈から?」


「はい。『大嶽会長が、お前に文化祭の準備をさせるって言ってた』って…」


厳は、その時、初めて何かが「ズレている」ことに気づいた。


だが、それでも、厳は伶奈を疑わなかった。


(多分、誤解なんだ。伶奈が、そんなことをするはずがない)


そう自分に言い聞かせた。


だが、その疑念は、徐々に大きくなっていくのを止めることができなかった。


厳の心の中で、何かが、ゆっくりと崩れ始めていた。


だが、それでも、厳は気づかないことにした。


なぜなら、気づいてしまったら、この「完璧な幸福」が、音を立てて壊れてしまうからだ。


そして、厳は、その壊れることを、何より恐れていたのだ。

キャラ紹介 大嶽厳

たまにいる口とかは悪いけど根っこは優しいタイプ。思ってることを全部言っちゃうのか口が悪いし、成績も優秀で生徒会長なので周りに友達はあまりいない。畏怖とかがあるらしい。 たかが生徒会長でそんなになるか?

まあ勘違いされることもあるし、冗談が冗談じゃないように聞こえるから、ギャグ漫画とかだといいキャラしそうだけど、こういうやつだったら孤立するキャラになっちゃう。かわいそ。それで悠真にも裏切られて、、、

あれもこれも全部怜奈ってやつが悪いんだ。

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