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路上ライブ

 ガタゴト電車に揺られ、そしてテクテクと歩いた俺は、ようやくヨーヨー木公園に辿り着いた。ヨーヨー木公園とはその名の通り、ヨーヨーが巻きついてる木の多かったことから名づけられたそうだ。偉い人って少し変わってる気がするなあ。

 とにかく、いい場所ないかな~と俺は弾き語り場所を探していた。んー、よし、この辺りは微妙なパフォーマーたちを観てる客もいるしここでやろう。俺は愛用のギター『マグワイア』をケースから出して弾く準備に入った。

 うん、チューニングも完璧だしギターの音も相変わらず最高だ。とくに低音弦の音の重厚さといったらもう!さすが俺の相棒、マグワイアだな。音がね、もうエロいとしか言い様がないんだよ、まったく。

 と、準備が整った俺は自信作、「アイムフリーエブリデイ」を披露した。俺は自由だ、俺は無職だ、そして毎日暇だけどそれでも最高なんだ!俺は解放されて本当に嬉しいんだ~、と大声で叫び散らかした。

 すると信じられないことに、数多の音楽の神様が俺の目の前に現れたんだ。ああ、ジョンにジミヘン、うわ、ミックにキース、う、嘘だろ?!P.P.キング様までご降臨ですかぁ?これは汚顔の至りでございます~~~。

 そう、まさに天国への階段を昇ろうとしてカタルシス全開の俺に、突然、リアルが邪魔をしたんだ。

「うわ~、この人飛んじゃってるよ~」

「!?」

 気付くとそこには黒髪の少女が立っていた。顔は普通だがすらりと伸びた脚線美が高得点を叩き出しており、なんていうか目に優しかったよ。

「あのさー、キミ独りよがりの歌をやるなら家でやればよくない?全然響かないっていうか伝わらないよ?」

 ……あまりの無礼さに俺は愕然とし、体中がガクブルと震え出し、まるで産まれ立ての小鹿のように、立ち上がることもままならなかった。それでも強引に立ち上がりギターを持ったまま女を蹴り飛ばそうとしたら転んでしまった。

「大丈夫?」

「う、うるさい!お前失礼極まりないだろっ!」

「いや、でも本当のこと言っただけだから」

「……もう少しさぁ、言い方ってもんがあるだろ?何気ないその一言で傷付く人だっているってことを思い知るがいいさ!」

「んー、このくらいで傷付くなら、歌うのやめたほうがいいよ。そんなんじゃ通用しないから」

「べ、別に傷付いてなんかないし!お、俺は最高のブルースマンになるため、多くの人々を救うために、う、歌う義務があるからっ」

 とは言ったものの、俺は既に涙目だった。彼女もそれを知って、残念そうにばいばいと言って消えてった。

 完敗だった。俺のナイーブすぎる心はズタズタに引き裂かれてしまい、それから歌ってはみたものの全く気が乗らなかった。蚊の鳴くような声で『ドンビーアフレイド(心配しないで)』を歌う俺を、みんなはいたたまれない表情で遠くから見守っていた。誰も近づくことが出来ない中、あるおばちゃんが頑張るんだよと言ってくれたしわくちゃの5千円札が、なんだか胸に染みたよ。ありがたい、けどもうこれ以上歌えないって、そう思ったらまた泣けてきてさ……。



 それから俺は逃げ出したんだ、公園から。


 

 

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