予定外の収穫
シャルロットは意識を切り替えるように、一旦別の事を訊く事にした。それはシャルロットが地図を思い出して知りたいと思っていた事だ。
「じゃあ、この地図のもっと向こう側にもう一つの大陸があったりしませんか?」
「もう一つの大陸ですか? その話も……どこかで聞きましたね……」
「本当ですか!?」
手掛かりを手に入れる事が出来ると思ったシャルロットが食いつく。熱心に聞いてくれるシャルロットのためにセリエは、記憶を遡ってその内容を思い出そうとしていた。
「えっと……そうです。都市伝説的なもので聞きました」
「都市伝説?」
「はい。本当にあるかどうかで言えば、恐らくないのでしょう。大陸の外側から海を真っ直ぐ移動すると、大きな大陸に到達する……とかでしたね。実際には、大きな海の魔物を見間違えたという話と言われていたはずです。そもそもそんな遠海に行けば、大型の魔物の餌食になるので、大陸に着く前に亡くなる事になるでしょう」
「そう……ですか……」
これでがっかりする事はなく、シャルロットは自分の記憶が正しかったと考えた。海が危険な事は知っているので、もう一つの大陸を調べる事自体が困難なのだと考えれば納得出来るからだ。
(もう一つの大陸……ここに魔族達が避難している可能性はある。身体さえ戻れば空を飛んで確認が出来る。こっちは解決したけど、問題は私の魔素で大陸が割れたという話)
次にシャルロットが気になったのは、自分の魔素による大陸分裂だ。そんな覚えがなく困惑したが、これは確認しておかないといけないと改めて考えたのだ。
そもそもシャルロットはダンジョンを生み出したくてやった訳では無く身体を癒すための時間稼ぎしか考えていなかった結果、迷宮が出来上がったというものだった。
目的は治療。そこに大陸分裂が入る訳がない。
「初代魔王の魔素で五つに割れたって話は、この沈んだ街しか証拠はないんですか?」
「そうですね。そもそも大陸が割れるなんて現象を引き起こせるのは、長い時間を掛ける自然か初代魔王くらいだというのが主張でした。私もそう思います」
これにはシャルロットも内心で同意していた。
(確かに、初代魔王としての私の力があれば、そのくらいは容易く出来た。それくらいに、私の力は圧倒的だった)
当時初代魔王が講和を目的に行動していなければ、人間は全滅していた。それほどまでの強さを初代魔王は持っていた。そんな存在を相手にしようと考えたのは、それだけ初代魔王が争い等を嫌っていた事が有名だったから。
何があっても埋められない程の溝を生もうとは思わないと判断されていたからだ。実際、大量虐殺が起こりそうになった時以外などは、その力の大半を使わなかった。魔族側の被害は、ある程度抑えられていたが、それと同等に人間側の被害もかなり少なかった。
(やっぱりあの時の私は甘すぎた。全員が仲良くなる元々の平和という理想を。今になってそれがよく分かる。でも、そうしないと、いつまでも争いが続くのだから仕方ないでしょ……)
シャルロットが苦い顔をしているのを見て、セリエは顔を覗きこむ。セリエの顔が目の前に来てシャルロットは少し驚いていた。
「大丈夫ですか? 気分が優れないのでしょうか?」
「あ、いえ。魔素でどうやって大陸を割ったのだろうかと思ってました」
「そういえば、シャルロットさんは魔素をお持ちでしたね。シャルロットさんの魔素でも同じような事が出来るかと言われると、少し微妙な気もしますが……ああいった事が出来たのは、初代魔王が持つ特殊な魔素だからだと私は思います」
「なるほど(その魔素が私の魔素なんだけどね……)」
シャルロットは改めて自分の魔素が特殊なものなのだと意識する。
結局大陸が割れた理由は分からなかった。得られたのは、人間が建てた予測。そこに確証はない。だが、この予測がシャルロットの魔素が特別なものであるという考えに至らせた。
これ以上魔素に関して考え続けても答えがすぐには出ないと考えたシャルロットは、丁度良いのでセリエにも魔族に関して訊く事にした。
「そういえば、セリエさんは魔族を見た事はありますか?」
「魔族ですか? 見た事はないですね。祖母などから魔王が現れると、大陸のあちこちで争いが起こるとは聞きましたが」
「魔王の目覚めと共に魔族が動き出すという話ですね?」
「はい。この辺りはシャルロットさんもお勉強されたと思います」
魔王の目覚めと共に魔族が動き出すという話に関しては、シャルロット自身は半信半疑だった。何故なら自分が目を覚ましているのに、魔族は誰一人動いているような気配を感じなければ、伝聞も聞いていない。
「実際、魔王が生まれた時に魔族達は動き出しているという記録が残っていますから、本当の事だとは思います。ですが、問題はその魔族がそれまでどこにいたのか分からないという事ですね。時折、大陸を旅している旅人達が遭遇したという話を聞きますが、これに関しては本当かどうか……」
「でも、その場に魔族がいなければ説明が付きませんよね?」
「はい。一説には、魔王には魔族を召喚する能力があるそうです」
「召喚? そんな話は読んだ事がないんですが……」
魔族に関する本の大体はデタラメばかりで、実際に魔族の生態を書いた本は存在しなかった。だが、そのデタラメの中でも魔族を召喚出来るという話は無かった。初代魔王であるシャルロットでも、そんな事が出来なかったので、今時の魔族の魔法は進化しているのかとシャルロットは好奇心を刺激されていた。
だが、セリエは少し困ったような表情になった。
「そうですね……そもそもデタラメという話ですので。そんな事が出来るのであれば、もっと派手に戦争状態になっているはずですから」
「あっ……なるほど……」
これにはシャルロットも納得せざるを得ない。魔王となった存在の話を見ていると、好戦的な性格な者が多いので、魔族を召喚出来るという能力を持っているのであれば、魔族が軍のように動いてくるはずである。
だが、基本的に魔族による被害は散発的なものだった。そこから、魔王の出現を聞いてそれぞれで動いているという事が予想出来る。
「これ以上魔族について知りたいのでしたら、中央大陸にある図書館を利用するしかないでしょう。特に中央大陸の学園都市セントレアには、全大陸一の図書館がありますから」
「学園都市……セントレア……そこの学校って、私でも入れますか?」
「そうですね……学力があれば基本的に入る事が出来るはずです。成績優秀者は、学費を免除する制度もありますから、シャルロットさんでも学費を気にする事はなくなるかと」
「なるほど……」
セリエの話を聞いて、シャルロットは学園都市セントレアに興味を抱いていた。
(少し遠回りになるかもだけど、そこで調べるのは有り。今のところ本で調べるしか知る方法はないんだから)
そう考えたシャルロットは椅子から立ち上がる。
「マザーに相談してみます」
「そうですね。私もそれが良いと思います。本は私が片付けておきますので、そのままで結構です」
「ありがとうございます」
シャルロットは、セリエに頭を下げながらお礼を言って図書館を出る。図書館で魔族について知れれば良いと思っていたシャルロットだが、思っていたものとは違う収穫を手に入れた。だが、それはシャルロットの人生にとって重要な収穫だった。




