取り調べ
諸々を終わらせたシャルロットは、警察署の取調室にいた。目の前にはお茶が置かれているため、歓迎ムードであるが、場所が場所のためシャルロットとしてもテンションは上がらない。取り調べも配慮して、女性警察官が行っている。
「ごめんね。一応、事件の当事者で相手をボコっちゃってるから」
女性警察官は、優しく笑いながらそう言う。シャルロットが必要以上に緊張しないようにという配慮から、砕けた口調で語りかけていた。それがなくともシャルロットが緊張する事はない。こんな事で緊張するような繊細な心はしていなかった。
「いえ、気にしないで下さい。私は今保護者の代理をしてくれているラスティーナと知見を広げるために街を巡っているところでした。そこの交差点で突然事故が起こり、救助活動などをしているところにあの黒外套から攻撃を受けて対処した形です。私が狙いだったので、怪我人の皆が避難出来るまで引き付けていたら、周囲の建物にも攻撃し始めたので、ボコボコにしてから治療などを進めていった感じです」
「はい。把握しました。正当防衛が認められる……というよりも、相手は聖剣まで使っている以上、殺意が高い事もあって認められないはずがないから安心して」
「はい。そういえば、あの聖剣って大丈夫ですか? 教会の持ち物ですよね?」
聖剣をへし折ってしまったことで、教会から文句が来ないかという心配をシャルロットはしていた。
「大丈夫だと思う。そもそも聖剣が折られたという事よりも聖剣が盗まれていた事の方が問題だから」
「というと?」
「あの聖剣は儀礼用に借りていたものだと思うから、こっちの教会で厳重に保管されていたはずなの。それが盗み出されて犯罪に使われたという事実は、かなり重い事なの。これが聖剣を破壊するためにあなたが盗んだとかなら問題になるけど、身を守るために破壊したって感じだから、どう考えても問題にはならない」
「なるほど」
シャルロットが盗みに荷担し、聖剣を折るために行動していたというのならシャルロットの罪にもなるが、シャルロットは殺されそうになったところを防衛して結果的に破壊になってしまったというだけだ。そのため、聖剣の破壊に関してはどうやっても罪に問われる事はない。
「それよりも、聖剣を破壊出来たって事の方が驚きなんだけどね」
「魔素を軽く斬られたので、聖剣である事自体は正しいと思います。ただ……あそこまで魔素が抵抗出来るのかっていう疑問があります」
ラスティーナの声掛けでようやく聖剣だと気付くくらいには、シャルロットにとって、あの短剣は聖剣という気配がなかった。そもそも最後に戦った勇者の聖剣は、キティルリアの魔素も完全に斬っていた。少なくとも真っ向勝負では魔素は防御にすら使えないという状態だったのだ。多少の引っかかりで若干攻撃を遅らせられても勇者の技量がそこを埋めるので、魔素はもっぱら攻撃ばかりに使っていた。
だが、今回使われた聖剣はシャルロットの魔素を軽く削った程度。分厚く魔素を纏えば、軽い切り傷を負う可能性はあるが、肉を切られるという事もないというものだった。
これを正直に言う訳にはいかないので、聖剣の概要から予想される効果と違ったという点から疑問をぶつけていた。
「まぁ、実際はそんなものなんじゃないかな? 魔素を完全に断つのは、誇張だったのかもね。何にしても怪我がなくて良かったよ」
聖剣の力が誇張でない事は他の誰でもないシャルロットが知っている。それでも誇張だったと言われる程度には、聖剣が公の場で振るわれる事がない。加えて、魔素を見る目がない以上、どこまで斬る事が出来るのか確認出来ないという事が分かる。
「でも、どうやって折ったの? 破壊出来るなんて話は全然ないから、偽物の可能性もあったんだけど、さっきの話だとそれもないようだし、シャルロットちゃんが何かをしたとしか考えられないけど」
「私が……あの時は魔素を手に集めて、手刀を振っただけ……あっ、同時に重傷者がいるのを感じていたから聖女の力が発せられていました。多分、魔素を纏わせた時にも聖女の力が絡んでいたと思います」
「じゃあ、聖女の力があれば聖剣は破壊出来る?」
「多分ですが」
魔素を手に纏わせる際に身体から発せられてる聖女の力も確かに絡んでいた。つまり、手刀には魔素と同時に聖女の力が纏わり付いた状態だった。あるいは、魔素の表面を聖女の力が覆っていたとも考えられる。
(聖女の力が聖剣の魔素を断つ力を相殺して、そのまま剥き出しの刀身を魔素を纏った手刀でへし折る事が出来た? あのレベルの力なら、相殺出来てもおかしくはない気がするけど……聖女の力が何で聖剣を相殺出来るの? 元々が魔素だから? いや、考えても仕方ないか。これが使えるって分かったなら、これを利用して聖剣を折っていけば良い。
まぁ、下手に折りまくりに行くとただの犯罪者に見られるから、私に振るわれる聖剣に限った話になるけど)
シャルロットとしては、まだ疑問が多かったが、それを解決する材料がない以上、これが横に置いておく事しか出来ない。
そして、それよりも解決しないといけない問題がある。
「そういえば、私を襲ってきた黒外套達がどういう人かは分かったんですか?」
「どうだろう。ちょっと確認してくるから、待っていてくれる?」
「はい」
別の場所で取り調べをされているため、すぐに情報共有がされる訳では無い。そのため女性警察官は一旦取調室を出て確認しに向かった。
(まぁ、十中八九魔素を持つ聖女を殺そうとした教会の教徒だよね。聖剣を取れる事にもある程度納得がいくし。それをしたところで、自分達の立場も危うくなるだけだろうに。いや、そのための黒外套か)
シャルロットは今回の襲撃を教会の関係者のものだと考えていた。
ただし、教会に近しい者ではなく信徒などの下部にいる者達が主だとも考えている。
教会から聖剣が奪われたという事は、ある程度教会内部の事を知らなくてはいけない。熱心な教徒ならある程度教えられていてもおかしくはない。
もっと言ってしまえば、そうでもなければシャルロットを殺す理由がないからだ。魔素を持つ人間という点で殺すのであれば、もっと早く殺しに来る者がいてもおかしくはないが、そんな人間には遭遇していない。
ここに聖女の力を保有すると加わると、一気にそっち側が怪しくなる。
シャルロットがそうして予想をしていると、女性警察官が戻って来る。
「一応分かったけど、教会の教徒だった。恐らくは」
「私の魔素と聖女の力が原因ですよね」
「うん。正解。今はホテル暮らし?」
「はい」
「それじゃあ、教徒になっていない警察官をホテルに常駐させるから。お迎えが来てるから行こうか」
「もう良いんですか?」
「聞きたい事は聞けたからね」
シャルロットは取調室から解放されて、ラスティーナと合流しホテルへと戻る事になった。その際、ラスティーナと警察官が話し合って、滞在期間を三日延長する事になった。
下手すれば、街の外で襲撃があるかもしれないからだ。こればかりは仕方ないので、シャルロットも受け入れた。




