聖女の力とは
シャルロットは、まっすぐイグナイア枢機卿を見る。
「私の懸念は聖剣です。あれがあるだけで、私達は危険に晒される事になります。あいつと同じ使い手がいたら、私でも勝てるかどうか分かりません」
シャルロットの言葉に、イグナイア枢機卿は顔を強張らせた。その強張らせ方にシャルロットはイグナイア枢機卿が聖剣の製造方法を知っていると察した。
「聖剣の素材を知っていますね?」
「……はい。これに関しては、他の枢機卿も知っています。中には積極的に魔族を探して素材を集めようという者もいましたが、教皇猊下が黙らせました」
「それは良かったです。聖剣自体を管理しているのは教会ですか?」
「表向きは。実際は国です。現在教会に保管されている聖剣は一本のみです。それも不完全な聖剣となります」
「なるほど。聖剣に関して、少し詳しく聞かせて貰えますか?」
シャルロットも自分が知っている内容で合っているのかを確認するために教会の上層部の人間で作り方を知っているであろうイグナイア枢機卿に問う。
イグナイア枢機卿は、一瞬だけ逡巡する様子が窺えたが、覚悟を決めてシャルロットと目を合せる。
「聖剣は魔族の遺体を利用し、剣に魔素を取り込ませ、聖女がその力を注ぐ事で魔素を反転させて完成します。魔素を利用したため、魔素を斬り裂く力を保有する対魔族用の兵器となります。ですが、現在作る事が出来ません」
「出来ない? ですが、聖女はいるのでは? 私も聖女ですし」
「確かにそうお考えになるでしょう。ですが、言ってしまえば、本当の聖女は現れていないのです」
イグナイア枢機卿の言葉に、シャルロットは思わずラスティーナを見る。長く生きているラスティーナなら、何か知っているのではと思ったからだ。だが、ラスティーナも首を横に振った。
「本物というのは、一体どういう事なんでしょうか?」
「教会が定める聖女は、ここにいるマザー・ユキムラが認識している通り、キティルリア様も持ち合わせている聖女の力を所有するものです。ですが、その力に優劣が存在します」
「その優秀な方が本物と」
「いえ、あくまで力の優劣であり、本物かどうかはそこにありません。本物の聖女の力は奇跡を引き起こすもの。治癒力だけが先行しているものは、ただの治癒能力が強いだけのものなのです」
「それでも聖女である事には変わりないと?」
「はい。その治癒力なども聖女の力に変わりはありません。本来治せないようなものも治療出来るという点では奇跡とも呼べますが、本来の力はこうした魔素の反転にあります。これは現代の聖女には出来ません。なので、現在の聖剣は魔素が定着した剣でしかないのです」
「なるほど……では、私は本物ではなさそうですね。魔素の反転とかは起きていませんから。私が使ったものは、治癒力だけだと思います」
シャルロットがそう言うと、イグナイア枢機卿は怪訝な表情になる。
「いえ、それはないかと。皮膚を移植しなければならなかった者達を綺麗に治療したという話を聞いています。それほどまでの治癒は、もはや奇跡に分類される力です。通常の聖女でも段階を踏んで治療していかなければならない程の重傷のはず」
「いや、魔素の変換や水の変換で対応したので、普通の治療ではありません。再生というよりも新しい皮膚を作って入れ替えたという形です。治癒は続けていたので、聖女の力も発動しましたが、奇跡と呼ぶようなものではありません」
傍目から見れば奇跡的なものだが、その全てはシャルロットの中で理論が出来ている魔法などを利用しただけであり、奇跡と呼ぶようなものではなかった。
「そんな事が……いや、魔法は魔族の専売特許のようなもの。ましてや、古の時代から生きている事を考えれば、人間には出来ない事が出来ていてもおかしくはないですね」
「それに魔素の反転なら、私の身体にも影響出てるはずですから、それも合わせて考えると、本物の聖女の力というよりも現代の治癒力に長ける普通の聖女の力と捉える方が合っていると思います。まぁ、そもそも魔素の反転が出来たとして、それを使おうとは思いませんが。聖剣作りに利用されるのも不快ですし」
「ええ。教会としてキティルリア様を聖女として引き入れるという事を禁止する事にしましょう。当人から申し入れという事で教皇猊下も納得するでしょう」
シャルロットが望んでいない以上、教会としてシャルロットを聖女として取り入れるという事は出来ない。やろうと思えば出来る事だが、イグナイア枢機卿は、魔王であるシャルロットとの間に要らぬ亀裂を作る事は得策ではないと考えているため、これを禁止する方向に進める。
教典の事実を知っている者として、教皇と共に世界をあるべき姿に戻そうと行動する事を心の中で硬く誓う。
「では、私は周辺の教会内での腐敗を正しに向かいます。キティルリア様は、キティルリア様が為されなければならない事をしてください。ここから先、キティルリア様の道を塞ぐ教会の者は、こちらで対処していきます」
「ありがとうございます。教徒などとして協力するという事はしませんが、こちらでも出来うる限り人を助けるつもりです。より良い未来のために、出来る限り協力をしていきましょう」
「ええ。より良い未来のために」
シャルロットとイグナイア枢機卿はどちらともなく立ち上がり硬く握手を交わす。
そうして、イグナイア枢機卿はシャルロットを監視していた教会の人間達を処分し、その他の腐敗部分を排除するために動き出した。
そして、シャルロットは本来の予定通り、他の魔族達との交流を深めるために進んで行く。




