想定外の来客
それから二週間が経った。相も変わらず、交代交代でシャルロットを見張るため、シャルロットは思うように動けずにいた。
ラスティーナもなるべく教会の人間がどこかに行くように仕向けていたが、それでもシャルロットの勧誘を諦める様子はなかった。
さすがに、本格的な対処を考えなくてはいけないとなり、シャルロットとラスティーナが何度も話し合っていると、シャルロットの部屋がノックされる。
「は~い。誰だろう」
シャルロットは、ノックした主が誰なのか分からなかった。
リーシェルやマザー・ユキムラであれば、ノックと同時に声掛けをする。それどころか、普通に中に入ってくる事も多い。
今回はそれがない。そのためにノックしたのが、誰なのか分からないのだ。だが、ここまで来るという事はリーシェルかマザー・ユキムラが通したという事になる。それだけ信用出来る人物という事なので、シャルロットは警戒していない。
逆に自らの主がそういう性格だと知っているラスティーナの方が警戒していた。
シャルロットが扉を開けると、そこには白く格式のありそうな服を着ている老年の男性だった。白い髪と長い白い髭、刻まれた皺により、老年の中でも大分年齢が高いという事が分かる。
その老年の男性の後ろにマザー・ユキムラも立っていた。
「えっと?」
「こちらは教会本部の聖職者であられるジーンズ・イグナイア枢機卿よ」
「はぁ……」
紹介されたシャルロットは、そんな高位聖職者が何故自分の部屋を訪れるのかという疑問の方が大きく困惑していた。
「イグナイア枢機卿は、私もお世話になった方なの。教会のトップに近く、慈愛の心を持つ御方なのよ」
「へぇ~、初めまして。マザー・ユキムラに引き取って頂いたシャルロットと申します」
「ジーンズ・イグナイアだ。よろしく。そちらの方は?」
イグナイア枢機卿がラスティーナの方を見る。ラスティーナは、警戒心を圧し殺しながら返事をする。
「初めまして。シャルロットの遠い親戚であるラスティーナと申します。様々な偶然により、シャルロットの事を知りこちらに来ました」
遠い親戚というだけでは、何故シャルロットを引き取らなかったのかという話になる可能性もあったため、どうして今来たのかも説明していた。偶然シャルロットがいる事を知ったのは、事実であるため嘘は言っていない。
「よろしく。今日は君と話をしに来たんだ」
「私と……? ああ、聖女関連の話ですか」
教会関係者が、シャルロットを訪ねる理由は聖女関係以外にあり得ない。現状、そこまで良い気分をしていないシャルロットは、若干辟易したような状態になっていた。
「分かりました。じゃあ、下に行きましょう」
マザー・ユキムラの紹介という事もあり、無下にする事も出来ないシャルロットは、取り敢えず部屋よりもリビングが良いだろうと考え提案する。それをイグナイア枢機卿が受け入れ、リビングに移動した。
一応、イグナイア枢機卿の要望でラスティーナも同席する事になっていた。
「まずは、これまでの教会の非礼をお詫びさせて欲しい。誠に申し訳ございません。これまでの非礼、無礼をお許し頂きたいとは思いません。こちらの自己満足という形になってしまいますが、こうして頭を下げる事をお許し願いたい」
「え? あ、はい。そもそもイグナイア枢機卿の責任という訳でもないですから」
「いや、教会の上層部にいる以上、責任はある。例え、直接の管理をしていなくてもだ。あの者達は、本来の修道院に帰した。その後、適切な処分を下す」
「処分……教会の上層部にいる聖女を私利私欲のために使おうとしている人達も処分出来ますか?」
「ふむ。証拠があれば出来るが、現状証拠がない」
ここでラスティーナが集めた証拠を出す程シャルロットも馬鹿ではない。それはラスティーナが教会の内情を探ったという証拠にもなり、下手をすれば、人間ではないという発想まで飛ぶ可能性があるからだ。
ギリギリ人間でも出来ない事はないが、魔素という特異的な能力を持つ魔族であれば、人間よりも遙かに楽に情報収集が出来る。そこに発想が飛べば怪しまれるかもしれないとシャルロットは考えている。
「次はこちらから質問させて貰っても良いかな?」
「はい」
「君は聖女の力を所有しながら、魔族の力でもある魔素を操れる。だが、身体は人間のもの。それは正しいかね?」
「はい。この身体は人間のものです」
「魔族の力を人間の君が持っている理由は、何か知っているか?」
「いえ。両親は人間のはずですから。色々と言われていますが」
「魔族が呪いを掛ける訳がない」
シャルロットの言葉を奪うように、イグナイア枢機卿がそう言った。それはシャルロットが言おうとしていた言葉そのものだったため、シャルロットは驚いてジッとイグナイア枢機卿を見る。
「不思議そうな顔をする。だが、これは考えてみれば、当たり前の事。そもそも魔族にとって、そのメリットが少なすぎる。魔族最大の力は、魔素にある。だが、その魔素が見えるのも」
「魔族」
「然り。人間に魔素を植え付けたとして、それを知覚出来るのは、自分のみなのだろう。だが、考えてもみて欲しい。魔族にしかない力を人間が持ったとして、それを自由自在に操れるまでどれくらい掛かると思う。操る方法も操った後の使い方も知らずにだ」
「人間に植え付けた後、魔族が鍛えるにしても、その人間が手放されて街を出なくてはいけない。分の悪い賭けをするよりも魔族を増やす方が何倍も良い。そういう事ですね?」
シャルロットは、これが自分の首を絞める事になると分かりながらそう言った。どのみち、目の前のイグナイア枢機卿は一つの決断に至っていると気付いたからだ。
「その通り。その中で君は生まれた。魔素を伴って。そして、それを自由自在に操っている。ここに来るまでに届いた噂などからそう判断出来る。君の親戚というラスティーナ君が教えたというには、時期が違いすぎる。その前から君は魔傷の治療をしている。そして、ここに現れたという人間にも友好的だと思われる魔王」
そこでイグナイア枢機卿は言葉を切って、真正面からシャルロットと視線を合わせる。
「君の正体は、初代魔王キティルリア・リリア・リルスリアだ」




