ラスティーナの帰還
それから一週間が経ち、予定よりも長くアコニツムを空けていたラスティーナが戻って来た。教会に入り、シャルロットの部屋に入ったラスティーナは、少し眉を寄せていた。
「おかえり。遅かったね」
「お待たせして申し訳ございません。少々話し合いが必要になりまして。ま……シャルロット様のお話をし、シャルロット様がセントレアに行った後のサポートから、現在必要になるだろうというものまで揃えていました。そちらを確認しながら、シャルロット様の今後の予定などをお伝えし、しっかりと挨拶をする日はもう少し先になるという事も納得して貰いました」
「魔王の復活みたいなものだけど、全然戸惑ってなかった?」
「はい。歓喜しておりました。シャルロット様に関しては、先祖代々と私達より伝え聞いているものが多いので、全面的に信じられているのです」
代々伝わってきた魔王の復活。それは、話に聞いている心優しき魔王の復活に他ならない。どんな魔王なのかを知っている以上、キティルリアの復活を歓迎しないはずがなかった。
そうでなければ、今もラスティーナ達と交流など持っていないだろう。
そこまで報告したラスティーナは、渡されたものを部屋の中に出していく。
「こちらは、用意してくれたセントレアの入試資料です。筆記の過去問題などもあります」
「……これって貰って大丈夫なやつ?」
世間に出回っているようなものでないとすると、ただのズルになるので、シャルロットとしても若干罪悪感を覚える事になる。そのため、確認したくなっていた。
「はい。購入しようと思えば、いつでも購入できますが、大分高いです。そもそも問題が刷られるのは、試験の人数分と予備であり、予備の方は出回る事はありませんので」
「あ、そうなんだ。じゃあ、有り難く使わせて貰おうかな……多くない?」
「過去十年分ですから」
「集めすぎじゃない?」
「こんな事もあろうかと集めておいたそうです」
「どんな想定……まぁ、いいや。こっちは?」
シャルロットは積み上がった本の方を指差す。十冊の塔がいくつも出来上がっている。
「歴史の本と科学の本です。長い眠りについていたシャルロット様には必要だろうと」
「ああ、なるほど。大分新しいものばかりだね。古い資料は変わらず図書館で読めば良っか」
「古い資料が必要なのですか?」
「別に必要ってわけじゃないけど、情報の移り変わりが気になったりしそうだから。下手したら、今の理論よりも昔の理論の方が正しいかもしれないし。取り敢えず、教会での勉強が捗るのは有り難いかな」
シャルロットとラスティーナは、本を本棚に仕舞っていく。全ての収納が終わり、今度は本命の電話を渡される。
「おぉ……これで連絡取り放題?」
「番号とアドレスを知っていればですが。既に、私の連絡先は登録してあります。今から使い方をお教えします」
「お願い」
シャルロットは、何時間も掛けてラスティーナから携帯電話の扱い方を教えてもらう。存在などは知っているが、そもそも周りで所有している人がいないため、シャルロットにとってはその機能などは、未知のものとなっている。
そのため理解するのも時間が掛かってしまっていた。
「ん~? ん~これでどうだ!」
「はい。届きました」
「はぁ~……やっと出来たぁ。機能自体は、変に機能があるから分かりづらいよ」
「そうですね。シャルロット様は、こういったものに慣れていませんので、その分難しいのかもしれませんね」
機械に触れてこなかったために、機械に関しての慣れが全くない。使い方をしっかりと教えられて、疑問もある程度解決すれば、使いこなす事は出来ずとも、最低限は使う事が出来る。
「しっかりと充電をしておいてください。初心者が陥る問題の一つです」
「うん。分かった。これでラスティが外にいても話が出来るね。ここに変な情報とか乗せても大丈夫?」
「現状大きな問題はありませんが、私達はなるべく暗号で話しています。直接魔王様の事を話すという事はしません」
「そっか。じゃあ、魔素に関しては話さない方が良いかな」
これに関してラスティーナは首を横に振った。
「いえ、これはシャルロット様の携帯電話ですので、魔素を持つ人間であるシャルロット様であれば問題ないと思います。キティルリア様という名前も先日の宣言で出ていますので、問題ないかと」
仮に警戒するとしても、魔素とキティルリアに関しては、既に世間に出回ってもおかしくない情報だった。加えて、現状では聖女の力に関しても絶対的な秘密には出来ない。
そのため、魔素、キティルリア、聖女の力に関して言えば、メールの内容などに書いても、シャルロット自身の事となるので一切問題ない。
「問題は魔王様が魔王様であるという風に捉えられるようなものや魔族との繋がりを示唆できるものです。魔族という単語を使わないだけでも、ある程度は誤魔化せます」
寧ろ監視されていると考えた場合に危険なワードは、シャルロットがキティルリアと勘違いされるようなものだ。これが外に出回ると、一気にシャルロットが動きにくくなる。
それどころか、即座に処刑となってもおかしくはない。まだ、キティルリアが無害だと知らしめられた訳では無い。人の争いに介入し、平和を求めていると言っても、直接見ていない者は疑いを持つ可能性が高い。そのため、こういったところに気を付けるのが良いと考えられた。
ただし、これは一つの前提が必要となる。
「でも、確実に監視されてるってわけじゃないから、やり過ぎな警戒かもしれないて事ね」
「はい」
この辺りは、ラスティーナ達も調べているが、監視はされていないという決断が出させる情報しか集まっていない。しかし、ラスティーナとしては、もっと分かりにくい場所にそういった装置を隠しているのではないかとも考えていた。
考えすぎとも言えるが、こういった面での人間達への警戒は最大限にしておくべきだと話し合いで決まっていた。
人間が油断ならない生き物である事を、大昔に学んでしまったからだ。
「まぁ、いいや。そうしたら、直接連絡しないでラスティを通して話す方が安全かもね。もし、皆が納得してちゃんとメール出来るようになったら、私にもアドレスを教えるって感じで」
「かしこまりました。では、これからどうしますか?」
ラスティーナは、そう言いながら外に繋がる窓を見る。シャルロットは、それだけでラスティーナが何を言いたいのか察した。




