教会の人間
教会に帰ってきたシャルロットは、いつもよりも少し騒がしい事に気付いた。
(今日って何かあったっけ。ここまで騒がしくなるような行事的なものってなかったはずだけど)
違和感を覚えたシャルロットは、少し警戒をしながら教会の中を覗く。すると、見ただけで教会の人間だと分かる人が何人もいた。突然アコニツムに教会の人間が来た理由は、一つしなかない。シャルロットが聖女の力を所有しているからだ。
(おおぅ……思ったよりも早いな……)
聖女の力を持っているシャルロットを教会の本部が見逃さないわけがない。こうして来る事は想定されていたが、それでも、ここまで早いとはシャルロットも考えていなかった。
「ですから、お引き取りください。シャルロットを引き渡す気はありません。あの子は、ここの子であり、教会に所属した信徒でも何でもありません」
「教会で引き取った以上、その子は教会に所属するに決まっているだろう! 聖女の力を持つというのなら、教会の本部で預かるのが普通だ! 貴様はシスターとして何を学んできたんだ!?」
リーシェルと教会の人間が言い争いをしていた。騒がしいのは、後ろで野次のようなものを飛ばしている同じ教会の人間達によるものだった。
「マザー・ユキムラも言いましたが、あの子が望むのなら了承しますが、あの子は望んでいません。それとも教会の本部は望まぬ子を無理矢理誘拐するような野蛮な場所なのでしょうか」
「貴様……不敬な!!」
「自分達がやろうとしている事を考えれば、そうとしか受け取られないと理解できませんか?」
背後に控えている教会の人間も合わせて、段々と剣呑な雰囲気になっているのを見たシャルロットは、すぐに教会の中に入った。
「ただいま~」
あくまで平然とした態度で、ただの子供のようにして入って来たシャルロットに、教会の人間達は呆然としてしまっていた。
そこでいち早く我に返ったリーシェルと口論していた男がシャルロットに対して揉み手をしながらシャルロットに近づいてくる。
「おかえりでしたか、聖女様」
「聖女じゃないんで」
シャルロットは、即座に切り捨てる。これ以上相手にしたくないというような言外の意思を感じ取れるような言葉に、男は呆然としながら立ち尽くしていた。
「シャル、こっちにおいで」
リーシェルがシャルロットを呼び、シャルロットはその言葉に大人しく従ってリーシェルの傍に移動する。この一連の行動によって、シャルロットが望んでいないという事は嫌でも伝わる。
「お、お待ちください! あなたは聖女の力を有しているはずだ。それを教会のために使わず何のために……」
そこまで言った瞬間に、シャルロットの目が普通の目から失望の目に変わった。シャルロットが失望しているという事が男にも伝わる。
「私の力は私が助けたい存在のために使う。天地が入れ替わっても、教会だけのためになんて使わない。分かったら消えて。さもないと、追い出すよ」
「……はっ! たかが子供に何が出来る! 聖女の力はそんなもぶぅ……!?」
男は言葉の途中で喋らなくなった。いや、正確には喋られなくなった。理由は、シャルロットのもう一つの力。男の口を魔素で覆い喋られなくしたのだ。
「聖女の話だけ聞いて、こっちの話は聞いてなかったの? 私は魔素も扱えるんだよ。やろうと思えば、あなたを追い出す事なんて簡単なの」
そう言って、魔素による拘束を解く。男は口を触って、自分の口が存在する事を確認する。そして、恐怖に怯えた表情をしながら、逃げ去っていった。
「あれ? 思ったよりも意気地無しばかりだね」
「今の時代、魔素で攻撃されるなんて経験をした人は少ないもの。でも、良かったの? シャルの目的からすれば悪手だったかもしれないわよ?」
教会に魔素を持つ聖女がいるという事が広まる事になる。その際、魔素で攻撃されたと言われかねない行動をシャルロットはとってしまった。
魔族と人間が手を取り合える世界を作るシャルロットが、攻撃的に捕らえられる行動をとってしまうのは障害になりかねないのではとリーシェルは思っていた。
「そうかもしれないけど、あんな事を言われたらね。まるで、教会のためにだけ力を使えって言ってるみたいだし」
「まるでというか、思いっきりそう言っていたけれどね」
「教会の中にも、そういう事に拘る人はいるの。寧ろ多くなってきているかもしれないわねぇ。でも、上の方の人間はそうでもないのよ? 奉仕の精神が強い人が多いから」
「そうなんだ。マザーが言うならそうなんだろうけど……だからといって、あれに付いていくのはね」
教会のトップ層はまともな人格者だとしても、付いていく相手があの男となると、シャルロットも乗り気にはならない。
「それにしても、あの人達はどこから来たの? やけに早くない?」
「隣街にある教会の人ねぇ。あっちは、本部の人がよく出入りするから、本部の肝いりだと思っているのかもしれないねぇ」
「勘違い?」
「アコニツムと変わらないくらいには田舎だからねぇ。それより、リーシェルは言動に気を付けなさい。下手すれば、本当に不敬として扱われて、呼び出しを食らうかもしれないわ」
「うっ……でも、あれは」
「あちらが悪いのは明白だけれど、それを理解してくれる人ばかりがこの世にいる訳では無い事を、リーシェルも知っているでしょう?」
「……はい。気を付けます」
こればかりはマザー・ユキムラの言う通りであるため、渋々ながらもリーシェルは頷いた。リーシェルからしたら、可愛い妹であるシャルロットを無理矢理にでも連れて行こうと考える人間の思考の方がおかしいと思ってしまうが、それでも全ての人がそこに理解があるわけでもないというのも事実だった。
「マザーは、まだ教会がちょっかい出して来ると思う?」
「諦めが悪い人はいるからねぇ。あり得なくはないねぇ」
「そっか。セントレアに行く前に、この問題は解決しておきたかったんだけどなぁ。あの様子だと聖女にならない方が目的を達成できそうだし……」
「シャルロットが折れずに断り続ければ、いずれ諦めるだろうねぇ。他の問題は解決しそうなのかい?」
「ちょくちょくラスティと一緒に向かえばね。姿を偽れるようになったから、割と説得しやすいかな。後は、ラスティに電話を買って貰うから、これで他の魔族とも連絡が取れるようになるし」
「そんな伝手があるの?」
「うん。ちゃんとした伝手があるみたいだから。まぁ、皆は電波の良い場所に住んでるわけじゃないから、連絡を密にするって事も難しいし、私が本当にキティルリアなのかって問題もあるから、ちゃんと通じるかも怪しいけどね」
「何事もコツコツと……ね?」
「うん。分かってる」
シャルロットが直面する問題。それは、聖女になるかどうか。そして、聖女の力を所有する者としてどうするべきなのか。自分の中ではしっかりと答えを持っているが、それが本当に正しいのかなど考える事は多かった。




